いくつになっても誕生日が少しだけわくわくするのは、まだ自分に少年の心が残っているからなのだろうか。



「…なにも見てない」



俺はなにも見てないよ。部屋の前にあいつらがいるなんて見てない。どんどんとノックを連打し、ピンポンピンポンとチャイムを連打し、ガンガンと足でドアを連打し、しまいには「ふじくーん」なんてかわいらしい声で呼んでも無駄なんだからな。



「うるさい!」



ご近所に変な目で見られんだろ!
我慢の限界を迎えた俺は怒りに任せて、あんなに開けるのを拒んでいた扉を開けてしまった。その瞬間俺の負けが決定した。ハロウィンやクリスマスのときのようになること間違いなし。ほら、今もこうして勝手に俺の部屋にあがりこんで…こない?



「おまえら、どうした?」



さっきまで散々騒いでたくせに、ご要望通り扉を開けてやれば、今まで騒ぎが嘘だったかのように静かになった4人。特に升なんか目が死んでるけど大丈夫なのか?



「藤くん」

「ん?」



俺とこいつら、黙ったまま見つめあう変な空気に終止符をうったのは名前だった。名前はそのまま神妙な面持ちで言葉を続ける。



「おしりをだして、」

「メロディ奏でないと、」

「デリケートなお口に、」

「唐辛子、突っ込むぞっ」



……は?
俺が呟く間もなく、奴らは雄叫びをあげて去って行った。近所迷惑のなにものでもない。

それにしてもいったいなんだったのだろうか。最初から最後まで意味が分からなかった。特にヒロのセリフに至っては寒気を覚えた。そのときのヒロは笑っていたはずなのに目は笑っていなかった。すごく泣きそうになった。なんだかデジャヴだ。

いつにも増して状況についていけず、いまだ玄関先で馬鹿みたいに呆然と立ち尽くしていると、去ったはずのヒロが戻ってきた。(遠くで雄叫びが聞こえる)



「口開けっぱなしだけど大丈夫?口弛いの?」

「ヒロ…」



なんて失礼な奴だ。文句を言いたくても言えないのは、まだ状況を理解してないからだ。断じてヒロの仕返しが怖いからじゃない。絶対違うんだからね。



「驚いた?まあ無理もないよね」

「おまえら意味分かんねーよ」

「さっきの俺たちの言葉、頭の文字を順に繋げてみても分からない?」



たしか名前のセリフが「おしり」でチャマが「メロディ」で升が「デリケート」でヒロが「唐辛子」だったか。
この頭文字を順に繋げるんだよな…。



「…あ」

「その様子は分かったみたいだね。あ、そうだ。これ渡しに戻ったんだった」



そう言いながらヒロが俺に渡したのは正方形の分厚い紙。意味を理解した今も呆然としている俺に、ヒロは糸も簡単に別れを告げてまだ雄叫びが聞こえる方向に消えて行った。

渡された分厚い紙に視線を落とすとそこには、騒がしくて不器用で馬鹿だけど、賑やかで優しくて大切な4人の暖かい言葉が各々の不格好な文字で所狭しと書かれていた。





   とう 

いえーい!はぴばおじさん!JKに虐められないようにがんばってねー!あ、わたしも20歳だから今度一緒にお酒でも飲みに行こうね!もちろん藤くんの奢りだよ。ね?
名前

でもさ、名前が言うより藤くんは実年齢より若く見えるから大丈夫だと思うよ。秀ちゃんよりは若く見えるからさ。まぁ親父狩りにあいそうなのは否めないけども。
チャマ

チャマめ、失敬だな!俺はまだピチピチだぞ!ま、藤原もなかなかのピチピチ具合だけどな!俺には劣るけど。
みんなの升秀夫

升の場合はビチビチでしょ。 魚みたいなアレだよ。藤原はまだかろうじて大丈夫だと思うから安心しなよ。ま、気休め言っても升の次に老けてるんだけどね。あはは!
増川



(……誕生日なんか嫌いだ)

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