「もぬすたあはんたあさん」



俺がずずい、と彼女の目の前に差し出したものに書かれたタイトルを口に出す名前。
素直に口に出した名前にかわいいなあと思いつつ「モヌスターハンターサードな」と突っ込みを入れたら「さんもサードも同じでしょ」と反撃をくらった。



「…で?」



今をときめくゲームを目の当たりにして一言で済ますとはさすが名前。興味がないということの現われなのだろう、至極めんどくさそうな顔をしていた。



「一緒にやろう」

「は?」



「モヌスターハンター」いわゆる「モヌハン」は今をときめくゲームだということは周知の事実。幅広い年代から支持されるこのゲームは、現にいい歳こいたおっさんである俺やチャマ、ヒロもモヌハンの虜である。


オトモを連れて気軽に単独で狩ったり、友人と協力して強いモヌスターを狩ったりするもよし。たまに攻撃や爆弾を味方まで巻き込んで「ごめーん」なんて笑いあったり、ピンチのときは互いに助け合ったり。欲しい素材が手に入らなくて嘆き、何度も行ったあとに手に入ったときの快感ったらない。苦労してつくった装備や武器を自慢したりされたり。狩りの他にも農場や肉焼き、かわいいペットがいたりとハンターライフを楽しめる素晴らしいゲームなのである。
さあ!君も一緒にレッツ、ハンティング!



「ふーん」

「……それだけ?」

「うん」



敵は手強い。モヌハンでいうところの、ディアブロスのようだ。しかし手強い相手を目の前にするからこそ、狩りとは楽しいものである。

友達同士、狩りに行けるのは最大4人。升を何度も説得し続けたが「俺はめげない!屈しない!」と叫びながら逃げられてしまう始末。だからこそなんとしてでも名前を仲間に引き入れたい。

というか本音は、どうせやるなら少しでも華が欲しい。むさ苦しい男が3人肩を寄せ合ってゲームをやる姿は寂しいものがある。



「楽しいよ、やってみ?」

「ぜってーハマるから!」



俺とチャマがあーだこーだと魅力を伝えても、名前はうまい棒を咥えながら、ふーんと呟きポケモソをプレイしている。俺とチャマでは無理か。

俺たちはなにもしゃべらず笑っているヒロに視線を送り「おまえもなんか言え」と合図すると、今まで黙って見ていたヒロがついに動いた。



「ま、単細胞の名前には無理だよね」



ヒロのすごいところは、どんなに相手が怒ることでも、このあと恐ろしいことが起こると分かっていても、笑いながら平然とそのセリフを吐けることだ。



「やってやろうじゃないのよ!!」



ヒロのたった一言(されど重いストレート)で名前が立ちあがって宣言してから約2週間後。
ついに俺たちの元に一件のメールが届いた。


“集会所ニテ待ツ”


それは紛れもない名前からのモヌハンメール。早速俺たちは指定された時間に集会所へ集まる。だが約束の時間がきても名前の姿はない。



「名前、おっそいなー…」



口を尖らせて言うのは弓使いのチャマ。俺たち剣士をイライラさせる曲射野郎だ。峯山龍のフル装備でしゃがみこみ集会所の出入り口を見つめている。



「怖気ついたんじゃない?あれ、ビビりだし」



一応女の子で人間である名前を微笑みながら「あれ」呼ばわりしたのは、ガンランス使いのヒロ。その微笑みのまま敵に竜撃砲を叩き込む姿はまるで悪魔のようだ。というか一度放ったら一定時間が経たないと再度撃てない竜撃砲をなんであんなに何発も撃てるのか不思議だ。怖くて聞けないけど。



「そろそろ来るだろ」



そんな俺はランス使い。突撃かます特攻野郎だ。

俺たちモヌハン厨のハンターランクはとっくの昔に最高値まであがっている、言うなれば上級ハンター。たとえ名前がハマったとしても、行くとしたら下位のクエストだろう。ロアルドロスあたりか、まさかのリオレイアか。



「待たせたわね」



そう思っていた。名前の姿を見るまでは。
俺たちの前に颯爽と現れたのは、全身アルバトリオンの剣士装備で同モヌスターのハンマーを背負う名前だった。
一瞬誰だか分からなかった。



「なにをぼさっとしているの?行くわよ」



モヌハン厨のみなさんは俺たちが呆気にとられる理由がおわかりだろう。分からない人のために解説しよう。

「アルバトリオン」とは、RPGで言うところのいわばラスボス級のモヌスターである。だがRPGと違ってストーリーを進めれば勝手に出てくるわけじゃない。ある特定のクエストをクリアしなければアルバトリオンの討伐クエストは出てこない。そんな討伐も出現方法も面倒なアルバトリオンの装備と武器を約2週間で作るなんて…。

名前、恐ろしい子…!



「と、とりあえずカード交換しようぜ」



モヌハンには「ギルドカード」なるものが存在する。いわば自己紹介カードのようなもの。自分の名前はもちろんのこと、装備している防具や武器、プレイ時間、武器使用度、最近プレイしたクエスト、獲得した勲章、倒したモヌスターデータなど、ありとあらゆる自分のデータが載っているカードだ。
俺たち3人はすでに交換しあっているため、各々が名前に自分のカードを送り、また名前にカードを一斉送信してもらう。

名前のカードを見た俺たちは唖然とした。
なんと、ほとんどの勲章が集まっていたのだ。村のクエストで手に入る勲章はもちろんのこと、他にも入手困難なものから、オトモ関係のものまで。
そしてモヌスターデータもまたすごい。全てのモヌスターのデータが出ていることはもちろんだが、ほとんどのモヌスターに最少・最大の金冠がついていた。
中でも俺たちが驚いたのはプレイ時間だ。



「…名前がはじめたのって2週間前だよな?」

「ええ。そうね」

「…なに、このプレイ時間」

「336時間だけど」

「ありえねーっしょ!これじゃあ睡眠時間が約3時間の計算じゃん!あとは全部モヌハンタイムじゃん!そんなにずっとできるわけないじゃん!」

「間髪入れずに暗算できるなんていつもより頭が冴えてるね、直井」

「ヒロはよく冷静でいられるな…」



たしかに頭が冴えているチャマの言うとおり、このプレイ時間はおかしい。
睡眠時間が3時間なのはこの際どうでもいい。問題は睡眠時間以外の時間をすべてモヌハンにまわせられるわけがないってことだ。



「学校は春休みだからともかくバイトは?」

「それなら店長に、モヌハン休暇下さいって言ったら、オッケー!って言われたわ」

「…それでいいのかよ」



名前のまさかの驚異的なハマりようで、俺たちは下位ではなく上位クエストに行くことになった。しかも俺やチャマもまだ出していないアルバトリオンの討伐だ。



「さあ、行くわよ!」



モヌハン歴がいちばん浅い名前が仕切り、クエスト開始の笛が鳴る。歴は浅いはずなのにプレイ時間の長さに関しては俺たちの中でダントツである。



「ま、まあなにはともあれ、名前がハマってよかったじゃんね」

「これでむさ苦しくなくて済むしなー」

「フフフ、楽しくなりそうだね」



だが俺たちは名前を仲間に引き入れたことをのちに後悔する。それを知るまで、あと数秒。

ナウ、ローディング。



「このシーンも見飽きたわね」



強敵が現れる前、必ず流れるムービーにドキドキしながら見ている俺たちの隣で、至極つまらなさそうに呟く名前。っていうかこいつ、キャラ変わってない?



「まあいいわ、たっぷりかわいがってあげる」



誰が予想できただろうか。
轟々しいアルバトリオンに真っすぐ突進し、なおかつ身の毛もよだつ雄叫びを発しながら、臆せずアルバトリオンの頭を殴りつける名前の姿を。

そして俺たちは見て見ぬふりをした。恐怖すら覚える名前の姿よりさらに恐ろしい、増川が高笑いをしながら、竜撃砲を撃ちまくっている姿を。


はじめてのアルバトリオン討伐の日。
俺は、フィールドの片隅でチャマと震える身を寄せ合いながら2週間前に名前を誘った己の行いを後悔した。そしてなす術なく名前とヒロにいいようにされているボス級モヌスターに激しく同情した。





一狩りいこうぜ!
(藤くん。俺、今すっごいチビりそう)
(俺ははじめてモヌスターに同情した)
(ヒロ。わたしがスタンさせるわ。その隙に…)
(分かってるよ。頭に竜撃砲、だね)

(おまえら画面とばっかり仲良くしてないで、俺とも仲良くしてくれ…)


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