プロローグ


わたしたちは幼い頃からずっと一緒だった。


わたしの手を引いてくれる彼が大好きだった。その背中を追いかけるのが大好きだった。

公園で遊んだり、お互いの家を行き来したり、ちょっと遠くへ冒険して道に迷って夜遅くに家に着いたときはふたりして怒られたこともあった。


ぜんぶ彼がわたしを引っ張ってくれたおかげで見られた景色だ。わたしの世界を広げてくれた人。



その背中に目を背けたのは中学1年生の冬。
わたしにとって彼の背中はいつだって大きな背中だった。中学生になってさらに大きくたくましくなったように感じる。いつの間にか大きくなったんだなあと、頭の片隅で呑気に考えながら彼の背中を見ていた。


もう、この背中を追いかけてはいけない。
そもそもわたしは追いかけていたのではないと、今さら気がついた。
わたしはただ、それに甘えていただけなのだと。


彼はその背中でわたしを守ってくれていた。傷つかないように、優しく労わるように。

その証拠にわたしは彼の隣を歩けていないし、それどころかその背中に届くこともない。


わたしは彼に今までもこれからもなにひとつ与えられない無力な存在。ただ与えられるだけなら彼の側にいてはいけない。

だからその背中に背を向けることを決めた。



さようなら、わたしの大好きな幼馴染へ。
さようなら、わたしと彼の思い出の街へ。

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