きみとぼくとのデイドリーム
昨日と同じくらいの苦労がわたしを襲った。
乙部くんと一緒に登校したことでクラス中から「ああやっぱりロックオンされたんだな」という憐憫のまなざしを再度向けられることとなった。
相変わらずポン太ちゃんがわたしから離れようとしない(それどころか教室で会った瞬間嬉しそうに胸に飛びこんできた)ので乙部くんからの熱視線は増しに増して、とうとう質問責めに遭う始末。迫りくる乙部くんから逃げることに専念していたら、まだお昼だというのに疲労困憊だった。
「大丈夫?」
「なんとか…」
「みー…」
「そんな顔しないで、ポン太ちゃん。大丈夫だよ、心配してくれてありがとね」
さすがにお昼休みまで質問責めする気はないようで一安心。シアンちゃんとポン太ちゃんに心配されながらおかずの玉子焼きを口に放りこむ。
相変わらずポン太ちゃんはわたしの膝の上から動かない。恐らくこの子が原因なのだろうが、心配そうにわたしを見上げてくる優しいポン太ちゃんを誰が恨めしく思えるだろう。
それに朝から乙部くんに構われるのは滅入るが、そのたび助けてくれたのはシアンちゃんだ。そんなこともあってよく話すようになり仲良くなれたので、ポン太ちゃんにはむしろ感謝している。
「みうみー!」
「ふふ、ポン太ちゃんは優しいね」
「安栖さん!」
「はい!?」
慰めるかのように頬ずりしてくるポン太ちゃんに癒されていると、突然わたしの机を両手でばんっと叩きつけて身を乗り出してきた乙部くんに条件反射で飛び退き立ちあがった。ポン太ちゃんはわたしの肩に掴まっている。
なんて神出鬼没なのだろう。また質問のオンパレードかと思い身構える。質問には答えられるだけ答えたが、いずれもよく分からない質問ばかりだった。乙部くんがなにをしたいのかわからない。
「安栖さん!きみ、ポン太くんの言葉が理解できるのかい!?」
「え!?いや、理解というか…」
まずい、と頭の中でサイレンが鳴る。乙部くんの表情がいきいきしているからだ。ポン太ちゃん初恋事件の日に見た熱視線を向けられているときのものと同じ。研究者としての本能を爆発させているときの顔だ。
そもそもポン太ちゃんの言葉を理解しているわけではない。ポン太ちゃんの表情を汲んでなんとなく返事をしただけだ。つまり乙部くんの勘違いなのだ。
「うんうん、愛だな」
「笠置くん!?」
「ちょっと、八満!!」
乙部くんに説明しようとしたら、いつの間にか隣に立っていた笠置くんが腕を組んで頷きながら会話に乱入してきた。
そんなことを言ったら乙部くんが真に受けるかもしれない。笠置くんから乙部くんに視線を移すとそこには予想通りさらに瞳を輝かせた彼がいた。
言わんこっちゃない。きっと今の乙部くんは誰にも止められない。こうなったら気の済むまで彼の質問につきあってあげよう。疲れはするが変に逃げるよりマシだと今朝学んだ。問題ない、事実をありのまま話せばいいのだから。
「安栖さん!僕とつき合ってくれ!」
「はい、わかりまし……」
ん?乙部くんは今なんて言った?
今朝のように「質問していいかい?」と言われるのかと思った。そうではないことに気がついたのは半分返事をしてしまったあとだった。
「本当かい!?ありがとう!」
つきあってくれってなに?
どこに?ぼくと?
だれが?わたし?
ぼくと、わたしが、つきあう?
ぼくは乙部清丸くん。
わたしは安栖冴。
もしかして、もう手遅れ?
「え?」
難解な乙部くんの言葉をひとつひとつ脳に無理矢理にでも理解させてやっと紡げた一言は、クラスメイトたち(特にシアンちゃんと笠置くん)の叫び声により騒がしい教室に溶けて消えた。
「末永く、よろしく」
騒がしい教室内。
両手をさらに大きい両手で包まれ、耳元で囁かれた言葉と乙部くんの不敵な笑みに心臓がどくん、と大きく脈を打った。