「好きです」とたった一言、それを言えば済む。なのにいざ本人を目の前にしてしまうと言葉どころか呼吸もままならなくなってしまう。心臓の音がうるさすぎて今目の前にいる見慣れた顔を前に頭が真っ白になった。
「ほっ本日はおひがらもよく…」
「ええ。素晴らしい曇天ですね」
相変わらずの嫌味たっぷりな言葉と笑顔。
くそう、こっちの気も知らないで…!
落ち着くのよ、名前。ゆっくり深呼吸するの…。たった一言だけ告げればいいんだから。
でも断られたらどうしよう。ずいぶん歳が離れているし、いつもの調子で言ったら冗談だって思われるに決まってる!
でも真剣に言うにも、後々ルークやアニスに馬鹿にされそう。それだけは絶対に嫌!立ち直れないわ!
もし振られたらガイが慰めてくれそうだけど、女性恐怖症の彼に慰めてもらうのも申し訳ない。
ナタリアが慰めてくれるにしても「自信作ですのよ」とかなんとか言って手料理を振舞わされそうだしな。それだけは避けなければ!まだ死にたくない。
うちに適任者はいないのか?あ、ひとりだけいた。ティアがいるじゃないか!常識人のティアが!万が一のときにはティアに頼ることにしよう!そうしよう!
「よし!おっけー!」
「なにがです?」
「え?…ああっ!なんでもない!全然なんでもないから気にしないで!」
わたしの馬鹿!
今はそのあとを考えるより目の前のことを考えなきゃいけないっつうのに!
「ほっ本日はおひがらもよく…」
「それは先ほども聞きましたよ」
あー!もう駄目だ!
ネビリムさんのこととかはずけずけ言えたのに、いざジェイドとふたりきりになってこういう話をしてみようとするとなにも言えないなんて。
カムバック!いつものわたし、カムバッーク!
「やれやれ。呼び出されたので、もしやと思い少しは期待してみたもののやはり駄目でしたか」
「はい?」
なにかと思えば突然いったいなにを語り出すんだこのアラサーのおじさまは。期待?駄目?なんのこと?
「じれったいですねえ」
ため息をついたジェイドがわたしの腕を引いて距離を縮めたことにより、すぐ近くにジェイドの顔が迫った。くっそイケメンかよ!こんなん顔が赤くならないわけがないだろ!
ジェイドの顔がどんどん近づいてくる。もう少しで顔と顔がくっつきそうな距離で彼は呟いた。
「こういうのは、言ったもの勝ちなんですよ」
美しく微笑む彼は、わたしの耳元でそっと囁くのだ。
「愛しています」
(おや?この言葉が欲しかったんじゃないんですか?それとも、もっと甘い言葉がお望みですか?)
(い、いえ!お腹いっぱいです!!)