宿も決まり、ようやく落ち着けると思えば外が騒々しい。
ジェイドは一口珈琲を飲んだあと、どたばたと近づいてくる足音に本日何度目かのため息をついた。それが誰のものかなんて安易に予想がつく。
そしてその予想はどんぴしゃに当たるのだった。
「大佐!大変です!」
ジェイドの直属の部下である名前はノックもせずに彼の部屋に乗り込んだ。彼女がうるさいのはいつものこと。優秀だが少し落ち着きがないのが難点である。
面倒だと思いつつジェイドは名前に視線を合わせた。
「今すぐアルタ前に行きましょう!」
ああ、いけない。頭が年中無休で故障してる部下のせいで貴重な時間を無駄にしてしまうところだった。ジェイドは呆れた視線を彼女に送ったあと手元の資料に目を移した。
「無視しないでくださいよ!」
「……今度はなんですか?」
無視し続けていても面倒なためジェイドはもう一度ため息をついたあと、また名前に顔を向けた。待ってました!と言わんばかりの笑顔になった彼女を見てジェイドが失敗したと後悔しても時既に遅し。
「さっきアニスと一緒にお昼休みのウキウキウォッチングを観てたんですけどね、そこで35歳以上の独身イケメンオヤジを募集してたんです!」
つっこみたいことは山ほどある。
が、ジェイドが彼女に言えることはただひとつ。
「嫌です」
「まだなにも言ってませんよ!」
「あなたのことですから、その企画に出ろとでも言うのでしょう?」
「なっなんでわかるんですか!?」
「残念なことにあなたの上司ですからねえ」
「ふたりともなにやってるんですかあ?」
名前の言わんとしていることはすぐにわかった。ジェイドが「ううー…」と唸ってる名前を軽く受け流していると、彼女に余計なことを吹き込んだ犯人と思われるアニスがにこにこしながら近づいてきた。
「アニース。名前にくだらない入知恵をしたのはあなたですね?」
「もしかして例の企画のことですかあ?」
「ええ。そのおかげで飼い犬に唸られてるんですよ」
まさに飼い犬に手を噛まれる状態。
ジェイドのそんな気持ちを汲み取ってか、アニスは少し考えたあと唸る名前に耳打ちをする。するとどうだろう。名前の表情がみるみる内に青くなり、ついには勝手に焦り出してしまった。
「だめ!」
「はい?」
なにが駄目なのか。考えるより先にジェイドは名前に腕をぎゅっと掴まれてしまう。アニスの笑顔からしてまた彼女の入知恵だろう。
「アルタはなしです!」
「いきなりどうしたのですか?」
「もういいんです!大佐はここにいてください!」
名前が意見を変えようがジェイドにはアルタ前に行く気などさらさらない。
それにしてもどういう心境の変化だろうか。頑固な彼女がこうも簡単に意見を曲げてしまうとは。不思議に思いつつアニスに視線を移すと彼女はジェイドにピースサインを送った。なるほど、今回は名前の気持ちを汲んだ入れ知恵らしい。
「大佐が出演したら恋のライバルが増えちゃうかもよ?」
(ふう、あぶないあぶない)
(ところでアニス、その募集の優勝賞品はなんだったんです?)
(優勝すれば10万ガルド!…あ)
(なるほど。それで名前に吹き込んでわたしに出演させようとしたんですね。さて、覚悟はよろしいですか?)
(ちょ大佐っ…ぎゃあああっ!)
2010.03.23
2013.07.14 fix.
某昼休み番組で本当に募集していた企画。
間違いなく優勝だと思います、ええ。