とある宿の一室。
ルークと名前はベッドの上で向かい合っていた。
名前はルーク専属の騎士である。幼少期に誘拐されてから再びそのようなことがないようにいつも側で彼を守ってきた。騎士として、ときには友人として。
「力を抜いて、ルーク」
「名前、俺…」
「わたしに任せてくれれば大丈夫」
名前の側にいるときはいつも、ルークは落ち着いた様子だった。しかし今はルークの瞳が不安げに揺れている。そんなルークの頬に名前は手を添える。びくっと反応する彼を安心させるように、彼女はそっと微笑んだ。
「でも俺、こんなのはじめてで…」
「大丈夫だよ、優しくするから」
怯えるルークにそっと近づく名前。
「いい子だね」なんて安心感を与えながら。
「名前…」
「ルーク」
「……も、もう少し待って!!」
迫るはじめての恐怖心が勝ったらしく、すんでのところでルークは名前の手の中から逃げ出してしまう。
「あーもーじれったーい」
間延びしたアニスの声にはいらつきが混じっていた。彼女の言うことも一理ある。なぜならかれこれ数十分もこんな調子が続いていたからだ。アニスはルークの部屋の前で最初からずっと聞き耳を立てていた。そろそろ我慢の限界である。アニスとともに聞き耳を立てているジェイドとガイもまたそう思っていた。
「とっとと奪っちゃえばいいのにぃ!」
「いや、こういうことは互いの同意と段階を踏まないと…」
「ガイは紳士ですねえ。私ならとりあえず速攻で服脱がしますけど」
アニスとガイは涼しい顔で言ってのけた鬼畜軍人に冷ややかな目を送った。冗談なのか判断できないが、彼なら本当にやりかねない。
「ていうか、あのふたり絶対デキてると思ってたけど、まさか名前が攻めなんて予想外だよねー」
「アニス!女の子がそんな言葉、使っちゃ駄目だろう!」
人の部屋の前でやけに危ない会話を繰り広げている3人。元はといえば、アニスがルークと名前の会話を盗み聞きしたのが始まりである。そこを通りかかったジェイドとガイの野次馬根性が駆り立てられ順番に加わっていった。
「それはどうですかねえ」
「話を聞く限り、完璧名前が攻めですよ!」
「だからな、アニス…」
「しっ!なんかしゃべってる!」
始終にこやかなジェイドと興味津々なアニス。そんなアニスの未来を心配するガイは、再度聞こえてきた声に耳を澄ました。
「安心して。酷くしないよ」
「ほ、ほんとか…?」
「本当だよ。わたしがルークに嘘吐いたことある?」
「ねえけど…」
「でしょう?だから力を抜いて…」
「名前…」
「ついに!?ついにやっちゃう!?」
「アニス…」
「君はそれでいいのか」とガイが目の前で熱く語るアニスを見てそう思った瞬間、扉の向こうでまた声が響き渡った。
「やだ!やっぱり怖ぇ!」
ルークのもう何度目か分からない悲痛な叫びに、とうとうアニスの堪忍袋の緒が切れた。感情に身を任せたアニスはついに扉を蹴破った。
「へたれルーク!いい加減にッ……あれ?」
アニスから怒りの色と勢いが消える。それもそのはず目の前の光景は彼女が想像していたものとかけ離れていたから。
「ルーク、そんなんじゃピアス開けらんないよ」
呆然としているアニスに続いたジェイドとガイが見たものは、ベッドの上でピアッサーを持ってルークに迫る名前と、それに恐怖しているルークだった。
「ありゃ?3人お揃いでどうしたの?」
「ガイ、助けてくれ!さっきから名前が俺にピアスを開けようとするんだ!」
呆然としているアニスを見て不思議そうに問いかけてくる名前と、涙目で助けを乞うルークに言葉が出ないアニス。そんな彼女を心配そうに見つめるガイ。
「いやー、残念でしたね、アニス」
そしてすべてを知っていたかのように、ただひとり楽しそうなジェイドの声が静寂な部屋に響いた。
はじめてのピアス
(こんなお約束ってアリー!?)
(アニス、君の将来についてなんだが…)
(ははは。今日も平和ですねえ)
(なんだあいつら?なにしにきたんだ?)
(さあ?それよりルーク、ピアス)
(うぎゃぁあ!いやだあ!)