眉に皺を寄せたルークがずんずんひた歩く。彼はとても不貞腐れていた。理由は数日前の夜にある。
名前と自室でピアスを開けるか否かの攻防を繰り広げていたルークは、部屋に乗り込んできたアニスたちに助けを求めたが叶うことなく、ルークの左耳には呆気なくピアスが開けられた。
そもそもの発端は、名前の右耳に開けられたピアスを見てルークが「かっこいいな」と呟いたことにあった。男は度胸だ!という謎の信念によりルークの左耳にピアスが開くことになった。
今はもう熱くない左耳をいじりながら街を歩く。そこには彼の瞳と同じ色のファーストピアスが輝いていた。
「名前のやつ、ルークはわたしと逆の耳に開けようねーなんて暢気なこと言いやがって…」
数日前、名前に言われたことを思い出し悪態を吐く。思ったより太めの針を耳に刺すという行為は、ルークにとって恐怖でしかなかったのに、始終にこにこと暢気な彼女が恨めしかった。
だがたしかに名前の言う通り予想より痛みはなかった。そういうものなのか、彼女のやり方がうまいのかはわからないが、じんじん熱い左耳が不思議と嫌ではなかった。
ふと視線が奪われ足を止めた先の出店には、さまざまなピアス型の響律符が並んでいた。そのなかでもひときわ目を引いたのは2色の対になっているピアスだった。
「そちらのペアピアス、お気に召しましたか?」
「え?いや、俺は別に…」
店員がいうことには、こういったペアピアスの響律符をプレゼントする人が増えているらしい。ルークはろくに店員に耳を貸すことなく空返事をしていた。
「もしかして、恋人へのプレゼントですか?」
「はあ!?」
突如聞こえてきた「恋人」というワードに動揺したルークは顔を真っ赤にしながら否定した。なお、店員に効果はなかった。
咄嗟に思い浮かんだのは名前の姿。
いや!あいつは俺の騎士だ、それ以下でもそれ以上でもねえ!こ、恋人なんて絶対ありえねえ!
と、心のなかで自分に言い聞かせ説得した。しかし彼の顔の熱が引くことはなかった。
ルークのその様子からなんの説得力もなく、ただの照れ隠しだと判断した店員は、微笑みながらさらにペアピアスを勧めてくる。
ルークは勘違いしている店員を少し睨んだ。
「特にこちらのペアピアス、人気なんですよ」
店員が勧めたのはルークが最初に釘づけになった2色のペアピアスだった。
自分と名前の瞳の色と同じ色のピアス。偶然にしてはできすぎているが、ルークの足を止めるには充分だった。
途端、大人しくなったルークにチャンスとばかり店員は営業トークを続ける。そのトークの甲斐あってか、気づけば彼は満面の笑みを浮かべる店員にガルドを渡していた。
「ちなみに商品、ジンクスがありまして」
「は?ジンクス?」
「このピアスをしたふたりは永遠に結ばれると」
「お幸せに」と微笑む店員に見送られ、ピアスが入った小袋を手にルークは帰り道を歩く。店員の言葉が何度も脳内でリプレイされた。
このピアスには永遠に結ばれるジンクスがある。
違う!もともとこのピアスが気になっていただけで深い意味なんかない。別にあいつのことなんて!
「ルークもピアスデビューだね。ね、お揃いのピアスつけよーよ!」
「はあ?やだよ」
「けち。昔はなんにつけてもわたしと一緒がいいって言ってたじゃない」
「ガキんときの話だろ!」
昨夜、ピアスを開けたあとの会話が蘇る。「お揃いつけたかったな」と名前が残念そうに小さく呟いたことをルークは知っている。
昔から彼女はルークに甘かった。でもそれだけではなく悪いことは叱ってくれる人だった。そしてずっと隣にいてくれた。
ルークにとっても彼女は大切な人だった。
今回だけだ。あいつには笑顔が似合うから。
そう思ってからのルークの足取りは軽い。彼の心音と共に足も速くなっていく。早く渡して笑顔が見たい、でも渡したくない。矛盾した気持ちの原因を、ポケットの中で握りしめた。
「名前!」
「そんなに慌ててどうしたの、ルーク」
「これ、おまえにやるよ」
名前から視線をそらし、彼女の目の前に小袋を突き出す。それを素直に受け取った名前は中身を見るなり目を輝かせた。
「ピアス?ほんとにもらってもいいの!?」
「い、いらねーなら別にいいけど…」
「ありがとう、ルーク!…これ。あ、そうだ」
不意に近づく名前に対処できなかった。もう暑さは引いたはずなのに、名前に触れられている左耳がやけに熱い。至近距離の彼女は真剣な目つきでなにをしているのかルークにはわからなかった。彼は今それどころではない。
「(ち、近ぇよ!)」
唇まで数センチ。顔を動かせば届いてしまいそうな距離に名前がいる。その状況に、ルークの心臓は最高潮を迎えていた。
そんなルークのことなど露知らず「できた」と微笑む名前が離れてやっと我に返るルーク。彼女の手の中には先ほどまでルークの左耳に輝いていたファーストピアスがあった。では今自分の左耳にあるピアスは?
「お揃いね」
鏡に映ったルークの左耳には彼女の瞳の色であるピアス、名前の右耳には彼の瞳の色であるピアスが輝いている。
顔を赤くしたルークと幸せそうに笑う名前の姿も鏡に映されていた。
「願いごと、叶うといいなあ」
ひみつのジンクス
(おまえ!知ってたのか!?)
(ん?なんのことー?)
(なっなんでもねーよ!)