ジンクスのことは秘密にしたまま、お互いの瞳の色のピアスをつけた翌日のこと。ルークは困惑していた。朝起きると旅の仲間全員から祝福の言葉を次々ともらったからである。

おめでとうからはじまり、お幸せにだの、やっと男を見せたかだの、洒落た真似をしただの身に覚えのない言葉ばかり。こちらは意味がわからないのに仲間たちは微笑んで祝福の言葉を残していく。
そんな様子が朝から続き、ルークはほとほと困り果てていた。



「ルーク?どうしたの、頭かかえて」

「名前!実は、」



ルークは名前にこれまでの経緯を話す。彼の話を最後まで聞いていた彼女は苦笑いを浮かべている。どうやら名前も朝から同じような言葉をかけられたようで悩みの種となっているらしい。

迷宮入りとなりつつある謎に宿のロビーにてふたりで悩んでいると、それを植えつけていった人物でもあるアニスとナタリアが通りかかる。



「おふたりさんったら、見せつけてくれちゃって!いやーん!いいなー、いいなー!」

「仲よきことは素晴らしきことですわ」



お幸せにと勝手に盛りあがって勝手に去ろうとするふたりの肩を掴み、ルークが待ったをかける。いくらふたりで悩んでもわからないので当の本人に聞いてみることにした。



「なにがお幸せにだよ!?全然、意味わかんねーぞ!」

「見に覚えがないの。教えてくれないかな?」



困惑しているルークと名前を目の当たりにしたふたりの顔つきが変わっていく。眉をひそめてふたりだけでこそこそ内緒話をはじめてしまった。そんなふたりの様子にルークと名前は顔を見合わせ首を傾げた。内緒話を終えたふたりは改めてルークと名前に向き合う。



「じゃあそのペアピアスに特別意味はないの?」



アニスのその質問にルークの心臓がどきりと鳴る。
ただあいつのわがままにつき合おうと思っただけだ。ピアスを開けてくれやがったお礼のためだ。他意などないんだ。と、自分に言い聞かせてアニスの質問を肯定した。



「位置は!?それも関係ないの?」

「名前が右耳に開けてるから、俺は左耳にしようってなっただけだっつーの」



質問の返答と、なにもわかっていなさそうなルークと名前の様子を見て明らかに落胆するアニスとナタリア。



「なんなんだよ?位置とか別にどうでもいいだろ」

「ご存知ありませんの?左耳のピアス穴は男性の象徴、右耳のピアス穴は女性の象徴ですのよ」

「それぞれの位置にピアス穴を開けてる男女で、男が女にペアピアスを送るってことは結婚の約束っていう意味があるんだよーぅ」



「ルークが名前にピアスをプレゼントしてたってミュウが言ってたからついに!って思ったのにつまんなーい」とアニスが唇を尖らせる。
ナタリアは名前に「早とちりしてしまいましたわ、ごめんなさい」と謝罪していた。

一方ルークは言葉を失っていた。
結婚の約束に贈るものだなんて聞いていない。しかも自分はジンクスのあるペアピアスを贈ってしまった。
とんでもないことをしてしまったのではないかとルークの心臓は忙しなく動いた。ちらりと名前の様子を覗くと「そうだったんだね」と感心しながらアニスの話に頷いていた。
よかった、あまり伝わっていないらしい。
ルークは安堵した。

アニスとナタリアが去り、ルークの部屋へと移動したふたりはどっとため息をついた。ルークに至ってはベッドに身を投げていた。



「ったく過剰反応しすぎなんだよ、あいつら」

「ははは。ルークの初ピアスは波紋を呼んだね」



お茶の準備をする名前の背中をじっと見つめるルーク。彼女はいつも大人の余裕があって、どぎまぎしてしまうのは必ずルークのほうだ。
これを機にからかってやろうと思った。



「名前はどうなんだよ?内心、俺と婚約したなんて噂が回って案外嬉しかったりしてな」

「うん、嬉しいよ」



ルークの表情が固まる。彼の予想では、冗談だと笑い飛ばすか、大穴で照れ臭そうに笑うかのどちらかだと思っていた。しかし名前はお茶を淹れる手を止めることも、ルークに振り返ることもなく淡々と答えた。



「朝から嬉しかったよ。みんな祝福してくれたし」

「なに言ってんだよ、名前。だっておまえ、ピアスの位置もペアピアスの意味も知らないんじゃ…?」

「知ってるよ」



やっと手を止めた名前は、ルークに振り返り愉快そうに笑った。ルークはただその姿を呆然と見つめるしかない。



「位置もペアピアスの意味も」



名前はベッド上に座るルークの前に跪き、彼の左耳に唇を近づけ囁いた。



「ルークがくれたピアスのジンクスも」



ルークは我に返り彼女から顔を遠ざける。つまりルークはずっと名前の手のひらの上で踊らされていたのだ。結局自分は彼女に敵わないことを知りルークは顔を赤くした。



「ルークは知っていてピアスを渡してくれたの?」



名前に両手を包まれたルークはそらしていた視線を名前に戻して驚いた。
名前は頬を染めて、薄っすら涙を浮かべてルークを見つめていたから。こんな彼女を見るのははじめてのことだった。あんなに大人だと思っていた名前の余裕は今どこにもない。ただ、恋に焦がれる少女のようだった。



「わたしは、嬉しかったよ。同じ気持ちだから」



ルークはここでようやく手のひらの上で踊らされていたわけではなかったことに気がつく。
位置やペアピアスの意味もすべて知ったうえでことを運ばせていたのは、遠回しながらも彼女なりにルークへの想いを告げようとしていたのだと。

「ねえ、ルーク」と甘く囁く名前の声がルークに纏わりつく。背筋がぞくぞくして落ち着かない。心音が名前に聞こえてしまいそうなほどうるさい。ルークは今、目の前の大切な人しか見えていなかった。



「さいごは、ルークが選んで」





耳にはピアス、にはを。
(君の右耳に触れて、そして、)



2019.01.08

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