わかっている。彼が女の人につい優しくしちゃって勘違いされることも、そのくせ女性恐怖症なことも全部わかっているの。だっていちばん近くで彼を見てきたから。わかっているのに、どうしても許せないのが厄介な乙女心というもの。
「はあ、またか…」
自由行動中に偶然見かけた彼は、案の定女性たちに囲まれていた。当の本人は困ってるけど突き放すことは決してない。
ガイもまんざらじゃなさそうに見えるのは、わたしの心が荒んでいるからかな。
「名前、なにを見ていますの?あれは…ガイですわね。またご婦人方に囲まれておりますのね」
「突き放せばいいのに」
「彼の性分上、無理ですわね」
ガイはとても優しい人だから突き放したりなんかしない。だからこそ心はいつも曇り模様。晴れることは決してない。
「名前、どこに行きますの?」
「んー…ちょっとブラついてくるわー」
「名前…」
これ以上ガイを見ていたくない。
ナタリアにそう告げ、思わずその場から逃げ出した。
「………ばかみたい」
ばかみたいなのはわたしのほう。いちばん近くで彼を見てきた、わたしがいちばん彼のことを知ってるはずなのにいちばん理解していない。
理解しているつもりでも、ガイが許せない身勝手な恋心。どうせならこんなもの、はじめから持たなければよかった。
「名前」
「……ガイ…」
「こんなところでどうしたんだい」
後ろを振り向くと心配そうな顔をしたガイが立っていた。さっきまで女性たちに囲まれていたのにどうしてここに?
その視線に気づいてか「名前を見かけたから」とガイは笑いながら言った。
わたしを追いかけてきてくれたの?
みんなに優しいガイがあの人たちを振り切って?
それだけで心音が高鳴っていく。
「なんでもないよ。ただの散歩」
「本当に?」
「本当に」
「……」
「本当だってば」
「……そうか」
疑いの眼差しを向けるガイ。これ以上わたしの身勝手でガイを困らせたくなくて、元気だという仕草を見せればガイは胸を撫でおろした。
「それならよかった」
次に見せたのは彼の満面の笑み。わたしは彼のこの表情がいちばん好きだった。
「名前、一緒に帰ろう」
わたしを呼ぶ声は温かい。
乙女心なんてものは複雑であると同時に単純だ。その証拠に荒んでいたはずの心はこんなにも満たされている。荒んでいたのはガイのせい。でも、満たされたのもまたガイのおかげ。
「…うん」
本当にばかみたい。
だけどそれでもわたしはガイが大好きなの。
君にかかれば消えてしまうの
(荒れるも満たすも君次第)