苗字名前さん(ヒミツ)の日常は、とあるマンションのドアを、けたたましく叩くことからはじまる。
彼女は、その家主のことなど気にもとめず扉が開くまでガンガンと叩き続ける。全く近所迷惑な話だ。しばらくして勢いよく扉が開き、勢いそのままに彼女の顔面を叩きつけた。
これもまた、苗字名前さん(ヒミツ)と、家主である赤木しげるさん(神域)の日常である。



「うるさいぞ、嬢ちゃん」

「アハハ。それほどでも。お邪魔しまーす」



顔面がずきずき痛むもなんのその。彼女はまるで自宅に入るかのように堂々とずかずか中に入っていく。彼も、特になにも言わずに部屋に招き入れた。
否が応にも入りたかった部屋では、あれだけの迷惑行為をしたにも関わらず彼女といえば、ただ彼の寝床の上で、持参した漫画を爆笑しながら読んでいるだけである。そんな不躾な彼女に対し彼は我関せずであり、まるでそこには彼女がいないかのように己のやりたいことをやっていた。実はこの奇妙な光景もまた、苗字名前さん(ヒミツ)と赤木しげるさん(神域)の日常なのである。
ところがどっこい。今日ばかりは日常が繰り返されることはなかった。



「あっはははは!はははっ!」

「…」

「ふう…」

「…」

「…」

「…」

「……」

「……」

「………っはあ」



はじめは爆笑していた彼女も、とうとう我慢の限界がきたようだ。深い溜息をつき漫画本を閉じたあと先ほどからこちらを見つめている彼に視線を合わせた。



「なんですか、赤木さん」

「ん?まあ、気にしなさんな」



視線が交わると彼は微笑みを返してくるばかりで、こうして同じように隣で寝そべる理由は定かではない。「気にするな」と言われても、こんなに見つめられていてはおちおち安心して漫画も読めない。



「楽しいですか」

「楽しくはないな」

「そんなに笑っているのに?」

「ああ。嬢ちゃんの顔が面白いからな」

「あ、ひどい」

「あはは」



楽しくないのに笑っている。楽しくないのに、結構な時間をこうやって過ごしている。そんな彼の意味不明な行動のことについて、彼女は必死に頭を働かせてみた。そしてある答えにたどり着いたとき、彼女は大らかに笑い出した。



「なんだ。構って欲しいのなら、そう言ってくれればよかったのに」



彼女は悟った。
これは彼なりの甘え方なのだと。
あまりに久しぶりだったので忘れていたが、彼が甘えてくるときはいつだってこうしていた。これもまた、いつものことであった。



「よしよし。赤木さんはいい子ですねえ」

「ははは。嬢ちゃんには敵わねぇなあ」



寝転びながら、ふたりして大いに笑い合う。そのうち、彼の体温に安心した彼女が静かに寝息を立てはじめる。

彼女の寝息を確認した彼は、少し笑ったあと流れるような彼女の髪をいじって遊んでいるうち、彼もまた静かに寝息を立てはじめた。





これもまた日常
(目覚め一発!彼の鼻つまみ)





息苦しくて目が醒めた彼女を待っていたもの。



「おはよう、嬢ちゃん」



相も変わらず、にこにことこちらを見つめる、彼の余裕そうな笑顔がそこにあった。





2013.01.29
特別扱いなんてしていないんだからね。別に枯れ専ってわけじゃないんだからね。オジプラスとか興味があるわけじゃないんだからね!

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