「どうしてこうなった!!」
「食いもんに釣られたからだろ」
カイジくんのごもっともな言葉に、言い返す言葉が見つからない。ことの発端は今から数時間前まで遡る。
学校帰りに購入した漫画の新刊を読むために、赤木さん家にお邪魔して寛いでいたときだ。家主である赤木さんが、ばか笑いしながら漫画を読んでいたわたしにとある提案を持ちかけてきた。
「できるでしょ、麻雀」
その提案というのは、一緒に麻雀をしようというものだった。赤木さんがわたしを誘うなんて珍しい。いつもはカイジくんと森田さんと天さんで卓を囲んでいるから、わたしはその様子を見ているか、漫画を読んだりゲームをしたりしていた。
わたしが誘われたのは雀卓を囲むにあたり欠員が出たことが理由だった。どうやら天さんがお嫁さんたちとの用事で来られなくなったらしい。リア充が。
しかしわたしは今すぐにこの新刊が読みたかった。発売日を知ってからずっと楽しみにしていた漫画。授業が終わってすぐ教室から本屋までダッシュで買いに行ったくらい楽しみにしていた。できれば読み切ってしまいたい。
「三麻すればいいじゃん」
「ビッグチョコバー1ダース」
「やります」
とまあこんな具合でかくしてわたしの麻雀参戦が決まったのである。ぐうの音も出ないほど冒頭のカイジくんの言葉はごもっともなのだ。
これほど過去の自分を恨んだことはない。なぜあんな言葉に釣られたのか。魅惑的だけど!カイジくんはともかく赤木さんと森田さんに勝てるわけがない。
そして今うんざりしていた。なぜなら半荘戦を3回もしておいて一度も和了ることができないからだ。ツモやノーテンで削られたり、なんとか聴牌して少しだけ点棒をもらったりしているので、3位か4位を行き来している。それも3位になれるのはカイジくんが自滅したときに限るけど。
「もうやだあ」
「ロン。
自風牌、
一気通貫」
せっかくの親も赤木さんに振り込んで終わる。しかも赤木さんの手を見ると、わたしが放銃した一筒ではなく何巡か前に切っている字牌を使えば
混一色もついたというのに。わたしから一筒が溢れると分かっているかのような打ちまわしだ。
まさかと思いながら、点棒を支払いつつ赤木さんをじと目で睨むとにやりと笑われた。やっぱり狙い撃ちしてきやがったこの人!
もうだめだ。心が折れた。どうせわたしは人数合わせでお金も賭けていない。穏便に終わらすことにしよう。
「よーし、俺がラス親!名前をトバして終わらしてやるよ」
「ふん!やってみろよ、バカイジ!」
「ほぉ。ヤキトリのくせによく言うぜ。おまえこれで和了れないか箱点になったら全裸な」
「はぁ!?」
「罰符の代わりだよ。つーか、半荘3回もしといて一度も和了れないっておかしいだろ」
なに言ってんだこいつ!いやまあたしかに一理あるけど…。だからって点棒は支払ってるのに罰符ってなんだ!
「カイジくんの変態!赤木さんからもなんか言ったげてよ!」
「カイジさん、いいこと言うじゃない」
「ヒェッ!…森田さぁん」
「ははは…。まあ、名前ちゃんが和了ればいいことだから」
森田さんも森田さんで止めないんだね…。
ここには仲間などいない。なんという無慈悲。これでもし全裸になったら天さんも同じ目に合わせてやる。
半荘3回目、オーラス。カイジくんがサイコロを振ったことで、わたしの命運を決める一局がはじまった。
「ぬぬぬ……きぇええええい!」
「祈祷師かなんかか、おまえは」
ツモだって気合が入るというもの。なんたって和了れなかったら全裸だ。放銃しないとなれば現物でかわして比較的楽にことを成せる。しかし和了るとなれば話は別だ。放銃しないことより和了ることのほうが難しい。
「こっちは着実にできてるぜ、全裸への手」
「滅べ」
「ははは。許してやろう、次局にもちこまずともこの手でおまえは全裸だからな」
憎たらしい笑顔を見て、もう二度とカイジくんにはお菓子を分けてあげないと決めた。
しかしどうする?あの口ぶりからするとカイジくんの手は順調のようだ。この局でケリをつけるとなるとツモでもわたしを殺せる手なのだろう。今わたしは15000点弱。ということは役満クラスの手ということ。
厄介だけど匂いは残る。カイジくんの河は明らかに幺九牌を避けている。そのことから考えられるのは国士無双か字一色、大三元あたり?
悩んでいるとわたしの手も岐路に立たされる。多面張に構えるかまさかの地獄待ちにするか。新たな悩みが追加された。
「名前、まだか?」
カイジくんの言葉は無視して長考していると、赤木さんと目が合う。彼は不敵ににやりと笑った。先ほどと同じ顔で。
さっき。そうか、そういえば。
赤木さんは先ほどわたしから溢れる牌をわざと残して見事に打ちとった。それならわたしが今捨てるべきなのは。
「やっと捨てたか。ま、もう遅いけどな!」
様子からすると聴牌したらしいカイジくんが勢いよく牌を切る。牌から彼の手が離れた瞬間、思わず口元が緩んだ。
「ロン。一盃口、ドラ1。2600点」
「は、はぁああ!?索子をばっさばさ切ってたおまえが九索でロン!?しかもおまえ、寸前に切ってた二筒残しておけば断ヤオおまけつきの三面張じゃねえか!」
「だってカイジくん、
国士無双狙いでしょ?わたしは和了れればいいの。屈辱を受けて負けたくなかったし」
わたしの言葉にカイジくんは「うっ…」と言葉に詰まった。バレバレなんだもん、聴牌しましたっていうこともありありと顔に出ている。
「だからって九索で待つか!?三面張のほうが和了る確率もあがるだろ!」
「言ったよね?わたしは和了れればよかった。というか和了らなければ箱点にならなくても罰符だったんだから」
「だから、三面張のほうが確率が…」
「ほう。君はわたしが受けた屈辱を軽視しているようだな」
「は?」
「屈辱は二度刺す」
カイジくんだけでなく森田さんも首を傾げていた。言葉の意味がわからないらしい。
なのでわたしは指をさす。調子に乗った
王様をもう一度刺してくれるものを。
「ロン。清老頭」
次に牌を倒したのは赤木さん。
なぜ九索待ちを選んだのか?それは赤木さんが和了ればいくら三面張でもどのみち全裸になるからだ。それならわたしはこの九索で和了るしかなかった。
「清老頭…んなばかな…」
「カイジくん、覚えてるよね?」
「え?」
カイジくんにわたしが受けた屈辱を跳ね返すこと。これが九索待ちの目的。ダブル放銃を受けた現在3位のカイジくんは箱点。ということはつまり。
「ぜ・ん・ら♡」
(ぎゃぁああ!いやだぁああ!!)
(ジタジタするな!腹ァくくらんかい!)
(これ、誰得なのかなあ…)
(俺得ではないから寝る)
2019.01.26
結構前に途中まで書いて放置していたネタ。
やっと完成しました。あほなギャグです。
焼き鳥のくだりと「和了れなかったら全裸」は実は実話です。そこから生まれたネタでした。
森田さん空気ごめんなさい、カイジくん口調迷子ごめんなさいでした。