差し出されたのは、かわいらしい柄の包装紙でぐちゃぐちゃにラッピングされた長方形の小さな箱。差出人のジャガーさんは、なぜか顔や手がチョコレートで汚れていた。
「はい」
「いや、はいって……なに?」
「チョコレート」
「それはなんとなくわかるけど…」
それだけチョコで汚れていれば箱の中身はそれなんだろうなというのはなんとなく想像できる。しかも今日はバレンタインときたもんだ。問題はなぜそれを唐突に渡してきたのかということ。
場所はわたしの自宅前。ピンポンピンポンと不必要にチャイムを鳴らしたジャガーさんがそこにいた。というかここまでチョコレートをつけたまま来たのかな。相当な不審者だ。
「え、だってバレンタインだろ」
「そうだけれども…」
「男が女にチョコレートやって、ワッセローイの掛け声と共にウヌャニュペィュギュゥリュ星人を召喚する行事なんだろ?」
「なにそれ違うよ。つかウヌャニュペィュギュゥリュ星人ってなにさ」
「ちっ違うのか!?親父がそう言ってたのに…!」
欧米でのバレンタインは男子から女子にあげるんだっけ。それなら間池留さんって、やっぱり外人さんじゃん。ウヌャニュペィュギュゥリュ星人はよくわからないけど、まあ合ってると言えば合ってる…のか?
「…とりあえず、ありがとう」
普通じゃないことはさておき、こんな格好してまでチョコレートを用意してくれたことには感謝だ。わたしは差し出された箱を快く受け取る。
「じゃっ、じゃあ…っ!」
「やらないからね?」
「………チッ」
嬉しかったのは秘密にしておこう
(わかった、トイレまつりくらいならしてもいいよ)
(名前ーっ!!)
2010.03.23