ため息をつくと幸せも逃げていくなんて考えた人は誰だろう。だいたい溜息をついてる時点で幸せなんかないというのに。たとえば今のわたしのように。



「恋したいよー…」

「いっいきなりなんだよ?」



わたしの呟きに部屋の主である清が驚いて雑誌から顔をあげる。たしかにこんな脈絡もない呟きに驚くのも無理もないけどオーバーリアクションな気も否めない。



「だってさ、友達はみんな恋バナしてんのに好きな人がいないもんだからうまく話題にはまれないんだもん」



今までだって恋愛の「れ」の字も体験したことがない。勉強はさておき、めいっぱい遊ぶことに全力を注いできた。今さらかもしれないけれど、わたしだって女の子らしい青春…恋がしたい!



「名前は今恋してないの?」

「してないから悩んでるのー」



こういう話を幼馴染にしてるってのも悲しいけどね。そうはいってもどんな不満でもぶちまけられるのって昔から清しかいないんだよね。



「じゃあ好きな人もいないの?」

「今恋したいってのに好きな人なんかいるわけないじゃん。つかいきなりどうしちゃったのよ?なんか清、変じゃない?」



清ってばさっきからどうしたんだろう。
やたら質問してくると思えば今は意気消沈してるし。どうにも様子がおかしい。



「…僕としては複雑だなって」



は?ふくざつ?ホワイ?
なぜ複雑なのか問いかけても「いやそれは…」と煮えきらない言葉が返ってくるだけ。というかなにこの雰囲気。重いような恥ずかしいような…なんなの!?



「ねえっ」
「あのさっ」

「なっなに?」
「なによ…?」

「名前から言いなよ」
「清から言えば?」

「……あのっ」
「……ねえっ」

「……」
「……」



なんで同じタイミングでしゃべっちゃうかな。そのせいでちょっと恥ずかしい。

気のせいか顔が熱くなってきた。恐る恐る清を見ると、清の顔は真っ赤に染まっていた。わたしもこんな顔しているのかな。だとしたらふたりして赤面して、似た者同士ってよかは馬鹿みたいだ。



「じゃあ僕から言うよ…?」

「う、うん…」

「あの…つまり、さ…」



清の言葉のひとつひとつに心臓が煩いくらい高鳴ってる。っていうかこの部屋こんなに暑かったっけ?



「僕は名前のことが…」



その先を言ってほしいような言ってほしくないような…。
ああそうか。これが、





恋というのね
(名前のことが好きです)



2010.03.23
2013.07.14 fix.
昔の謎企画「どす恋企画」から。

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