「俺のモンになってくだせェ」



少し強引で、でも誠意ある言葉を紡ぐ彼に見つめられて告白されたら、頷くことしかできなかった。だってわたしも同じ気持ちだったから。

そんなわたしが馬鹿だったのだ。



「早くコーラ買ってこい。ノロマな女でィ」

「あの、沖田くーん?」

「あ?」

「いま買ってきまーす」



告白を受けてから数日。わたしと沖田くんの関係はそんな淡い告白とは遠く、まるで砂漠のように渇ききっていた。おかしいな、つき合いたてのはずなのに。



「…っあー。うまっ」



公園のベンチで隣同士に座るわたしたち。だからといって決して甘い雰囲気ではない。わたしが買ってきたコーラをごくごく飲む沖田くんと、ただ黙って隣に座るわたし。

そもそもデートですらない。たまたま買い物をしていたら見回りの沖田くんに会った。つまりまだ彼は勤務中。それなのにわたしを呼び止めたかと思えば「仕方ないから奢られてやる」と言い出した。なにが仕方ないのかわからないが目が笑っていなかったので奢る以外に選択の余地はなかった。



「おめェも飲むかィ?」

「いいの?飲む!」

「てめェで買ってきなせェ」



あれから意地悪ばっかりだ。まあ沖田くんが極度のサディスティックなのは重々承知だけど。

これじゃつき合ってること自体も不安になる。っていうかこれつき合ってるのかな?そもそもあれは告白だったのかすら疑問に思えてきた。



「総悟!ここにいやがったか!」

「げ。土方さん」
「あ。土方さん」



表情や声色は違えど重なるわたしと沖田くんの声。その先には、青筋を浮かべた土方さんがいてこちらに近づいてくる。酷くご立腹のご様子だ。



「てめェ。またサボりやがって…」

「違いまさァ、土方さん。俺ァ、こいつがどうしてもと言うんで奢られてやったまででィ」

「それは沖田くんが勝手に…!」

「だよな?」

「す、すみません…」



なんでわたしが謝ってるんだろう。なんとなく雰囲気が謝れと言っているようだった。踏んだり蹴ったりだ。沖田くんの真意だってわからない。



「おまえは悪くねえだろ。むしろこっちが悪かったな、総悟が世話になった」



土方さんに頭を撫でられる。相変わらず瞳孔は開ききっているけれど困ったように眉が下がっていていつもよりは怖くない。優しい人だなと思う。とげとげした気持ちが和らいでいく。



「おいおいとんだビッチだなァ。土方の野郎に絆されるなんてねィ」



耳元で聞こえた声にはっとする。
後ろから抱き締められたわたしはすっぽりと沖田くんの腕の中におさまっていた。



「土方さんも悪いお人だ。人のモンに手出してもらっちゃ困る」



いつもより低い沖田くんの声がくすぐったい。
身をよじると、耳元で微かに笑い声。





「こいつは俺の女でさァ」
(頬に柔らかななにかが触れた)



2019.11.10

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