あなたにはわたしがいないと駄目。
傷だらけのあなたの目はわたしに縋りつく。見捨てないでくれと、必死な様子で同意を求めるあなたはまるで捨てられた子犬のよう。



「名前、おまえならばわかってくれるだろう?肉球の素晴らしさを!魅力を!」



友人である万事屋さんに見捨てられたらしい桂さんは、肉球のよさをわかってくれないと嘆いていた。それを見ている万事屋さんは冷めた視線を桂さんに送っていた。彼がそれに気がつくことはない。



「名前。悪いことは言わないアル。こいつだけはやめたほうがいいネ」

「僕もそう思います。肉球のために敵陣へ丸腰で飛び込むなんて狂ってる以外のなにものでもないですよ。名前さんが苦労するだけです」

「そーそー。こんなの捨てて、銀さんとくっついちゃえばいいじゃんみたいなアレだよね」

「違ぇよ!あんた引っ込んでろ!」



神楽ちゃんに抱きつかれ、新八くんに心配される。銀さんにはにやにやといやらしい表情を送られたので、とりあえず定春くんに頭から食べてもらった。



「ふたりとも、いいのよ」

「名前さん…」

「ほんとにいいアルか?」

「ええ。これでいいの」



血をだらだら流して正座する桂さんの前にしゃがみこむ。やはり彼は子犬のような目をしていて、懇願するようにわたしの目を見つめていた。



「わたし、桂さんじゃなきゃ駄目なの」



あなたがわたしじゃなきゃ駄目なように、わたしもあなたじゃなきゃ駄目なの。だって放っておけないじゃない。

期待に満ちた目。わたしに救いの術を見出したあなたの瞳はきらきらと輝いている。ああ、なんてかわいらしいのかしら。



「はい、お手」

「え?あ、はい」

「よしよし、いい子ねー」



わたしの右手に乗せられた桂さんの右手を握り、よくできましたと左手で頭を撫でたあと、鼻先をくしゅくしゅと撫でてあげる。



「わたし、こういう人に弱いの」



万事屋さんに振り返ると、一様に眉を顰め苦虫を噛み潰したような表情でわたしと桂さんを見つめていた。
あら、皆さんどうしたのかしら。



「銀ちゃん、あれってさァ…」

「言うな、神楽」

「いやでもあれは違うでしょ。明らかに人間扱いしてないですよね、明らかに犬扱いですよねアレ」

「いやきっとアレだよ。犬みたいにかわいいってことだよきっと」

「無理ありますよそれ…。なんかもう伏せとかさせてるんですけど。なんか桂さんもノリノリなんですけど」

「つまりヅラは名前のイヌ、アルか?」

「やめてあげて神楽ちゃん!そのヒモみたいに言うのやめてあげて!」



万事屋さんから視線を外し、おかわりや伏せをやり遂げた桂さんを撫でる。次はなにをやってもらおうかしらと考えていると肩を小突かれたので振り返るとそこには銀さんが苦笑いを浮かべながら立っていた。



「あのー名前さん?」

「なんですか?」

「あのさ、ヅラに対するさ…」

「ヅラではない、桂だ」

「そうですよ。ヅラではなく彼はポチです」

「え?」

「やっぱりイヌ、アルな」



神楽ちゃんと定春くん以外の万事屋さんと、桂さんもといポチの表情が固まる。その表情もかわいいわ、ポチ。



「彼、昔飼っていたポチに似てるんです」



「だから放っておけないのかしら」と続けると、万事屋さんの不憫そうな視線がポチに注がれているのに気がつく。どうしちゃったのかしら?

一方ポチは呆けた顔を脱し、キリッとした目でわたしを見つめている。ポチが納得しているならいいかとそのまま言葉を続けた。





「つまり母性本能ですね」
(え?違うくね?)
(おいヅラァ、おまえそれでいいアルか?一生イヌとして生きてくアルか?)
(ヅラではない、ポチだ!)
(もういいよおまえめんどくせえ。そのままイヌになってヒモになっちまえ)



2010.03.20

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