いつの間にか目で追っている、斜め前に座るあの子。今まで気にも留めなかったのに、あの子が気になって仕方がない。
ずいぶんと一生懸命じゃのう…。
あ、今あくびしよった。寝不足か?
あそこの髪跳ねとる。気づいておらんの。
暇で仕方なかった授業が、今ではすごく楽しみで待ち遠しいから自分でも驚きだ。それも全部、この席になってから。
特別美人でも目立つわけでもないのに、ここまで惹かれた理由はわからない。いつの間にか目で追うようになった。
ひとつ理由が浮かぶとしたら、悪戯に使う落とし物を届けてくれた時に見た笑顔くらいだ。まさかこの俺が今さら「かわいい笑顔に惹かれました」なんて理由で好きになるとは思えないが、思いつく彼女との会話はこれくらいしか見当たらない。
こっち向け…。
こっち向け…!
真面目な苗字が後ろを向くはずなんかないのにいつも思うこと。こんな女々しいことを思わずにはいられないくらいに参っている。そんな自分が笑える。
惚れた女はどんな手段を使っても手に入れるなんて言葉が泣いとるぜよ。
事実俺は苗字と会話らしい会話をしたことがない。落とし物を受け取ったときは突然のことで礼を言うのが精一杯だった。
つまり進展なんかない。
というより、はじまってすらいない。
ああ駄目だ。こんなこと考えるなんて俺らしくない。嫌気がさして机に顔を伏せる。
近づきたい、だけど近づけない。
得意のペテンで近づけば容易いことなのに、それがなかなかできないのは苗字の泣き顔を見たくないからというヘタレな考え。全く、真田じゃあるまいし。
ここまで俺が心底惚れるとはな。でも、真田みたいにヘタレしても仕方ない。少しくらい苗字が泣いたとしても、それ以上に俺が笑わせればいいことじゃないか。
なんだ、思えば簡単なことだ。
ようやく解決の糸口が見えてきた気がして、俺は伏せていた顔をあげ、真面目に授業を受ける苗字の背中に視線を投げかけた。
覚悟しときんしゃい、苗字。
こっからは本気でいくぜよ。
ヘタレとペテンは紙一重
(これからが楽しみじゃの)
2013.11.19