六度目の鍛刀で一期一振さんが顕現した。
それを喜ぶ粟田口派の声で賑やかな庭。
その様子を遠巻きに眺めていたのは、わたしがはじめて鍛刀して顕現した蛍丸くん。彼の兄弟刀はいまだ迎えられていない。
小夜くんと宗三さんが仲睦まじく縁側で日向ぼっこしているとき。燭台切さんと大倶利伽羅さんが並んで料理をしているとき。一期一振さんとそれを囲む粟田口派のみんなが楽しそうに笑いあっているとき。
口には出さなくても蛍丸くんの瞳が時折悲しげに揺れることは気がついていた。
だから蛍丸くんと同室である陸奥守さんにわたしの気持ちも含め相談をした。すると、陸奥守さんも同じことを思っていたらしく快く協力してくれるとのことだった。
わたしなんかが烏滸がましいと思ったが、陸奥守さんに自信をもてと激励のお言葉をちょうだいしたので、蛍丸くんに勇気を出して気持ちを伝えてみることにした。
「主が俺の保護者?」
突然の申し出に、蛍丸くんは目を丸くして食べていたおやつの手を止めた。(本日のおやつは燭台切さんお手製マフィンだ)
わたしが陸奥守さんに相談したことは「審神者が刀剣男士の保護者代理になるのは可能か」ということ。そういうことは当人同士の問題であり、結果をいえば可能らしいとのことで当人に交渉するため今に至る。
「はい。明石さんや愛染さんがいらっしゃるまでの間でも結構です。いかがでしょうか?」
「…でも、主はみんなの主でしょ」
蛍丸くんは視線を落とし、縁側に投げ出した足をぶらぶらさせながら言った。
断られたらショックだなあ、と思っていたけれど蛍丸くんの言葉は断るというよりも遠慮に近いもので、嫌がっているわけではないことを知り不謹慎にも嬉しく思ってしまった。
「俺別に平気だよ。気を使わなくて大丈夫」
この子はどうしてこんなにも聞き分けがよくて強がってしまうのだろう。まだここが、今縁側に足を投げ出しているわたしたちしかいなかった頃、誰にも甘えられない忙しい日々を背負わせてしまったからだろうか。
「陸奥守の次に古株だからね」と厨の仕事も、畑仕事も率先して手伝ってくれた。そのせいか今の蛍丸くんは、ずっと気を張りすぎて緩める方法を忘れてしまったように思えてならない。
「違います、わたしがなりたいんです」
そうさせてしまったのがわたしなら、それを解いてあげるのもまたわたしでありたい。
「蛍丸くん!おいでっ!」
「え?なに、どうしたの?」
「いいから!ほら、どーんと!」
両手を広げて待ち受けていると、わたしの根気に負けたのか、蛍丸くんがこちらに近づいて座り直し、わたしの胸にこてんと頭を預けた。それをやんわりと包み腕の中に閉じ込める。
「体温って落ち着きませんか?」
「…うん、そうだね」
「つらいときも、楽しいときも、こうやって分け合えるのが家族なんですよ」
静かに頷いた蛍丸くんは、ぎゅっとわたしの服を握って大人しくしている。そんな彼の頭を撫でてあげるとはじめは固まっていた身体が解れ、次第に体重を預けてくれるようになった。
「わたしは、蛍丸くんと分け合いたい」
預けられた体重が軽くなるのを感じ、腕の中の蛍丸くんを見ると萌黄色のまんまるな瞳をさらにまんまるにしてこちらを見つめていた。
少しだけその瞳を濡らして。
「俺、少しだけうらやましかった」
安心させるように、不安気に揺れていた瞳に笑いかけると、蛍丸くんはその言葉を皮切りにしてぽつりぽつりと話しはじめた。
本丸に2番目に顕現した刀。
はじめは力になれるようただ夢中だった。
慣れた頃、まわりが兄弟刀に囲まれる姿を見て寂しさとは違う言い表せない感情になった。
感情の正体が寂しさではないと言い切れたのはいつもわたしと陸奥守さんが側にいたから。
だからこそ気づいてしまった。生まれた感情の正体が羨望であることに。
「主がそうだったらな、って何度も夢みた。でも寂しくないようにしてくれただけでも充分なのにこれ以上望んだらわがままじゃん」
主の負担になりたくない。
小さく呟いた蛍丸くんの頭に大きな手のひらが乗せられる。振り向き見あげた蛍丸くんに、彼はニカッと太陽のように笑った。
「主が手離せんときはわしもおるき」
「陸奥守…」
陸奥守さんに相談したとき、彼もまた同室である蛍丸くんをずっと気にしていたようだった。今まで執務などで時間帯が合わず、同室でも同派がいない者同士でゆっくり話せる時間がないとそのままにしていたことを悔いていた。
だから、同じ気持ちを抱いていたわたしとこうして当人と交渉するに至った。わたしが執務で手放せないときや夜も共に過ごせるように。
「ふたりが俺の保護者ってこと?」
「おう。こじゃんと甘えてえいぜよ」
「どうでしょうか、蛍丸くん」
わたしたちを蛍丸くんの保護者にしてくれませんか?
もう一度交渉を持ちかけると、わたしと陸奥守さんの瞳をそれぞれじっと見つめたあと、赤くなった顔を隠すようにそらした。その赤さは蛍丸くん自身のものなのか、夕陽に照らされているだけなのか定かではない。
「俺、主に撫でられるの好き」
「はい。わたしも蛍丸くん撫でるの好きです」
「俺、陸奥守が寝る前本読んでくれるの好き」
「おう!これからもなんぼでも読んじゃるよ」
「俺、主が笑ってくれるのが好き」
「わたしも蛍丸くんが笑顔だと嬉しいです」
わたしの服の袖を掴んで、わたしの顔を見あげじっと見つめる蛍丸くん。差しかかった赤は蛍丸くん自身のものなのだと気がついた。
「俺、
本丸が好きなんだ」
「…はい、蛍丸くん」
本丸が好きだと言ってくれた蛍丸くんに思わず目頭が熱くなる。なんとか笑顔を崩すことなく頷くと、蛍丸くんは眉間に軽くしわを寄せ「やめてよ」と呟いた。
「俺の保護者なんでしょ。蛍って呼んでよ」
「はいっ。蛍くん!」
嬉しくて思わず抱きつくと、蛍くんはしっかり受けとめてくれて「びっくりしたなあ」とどこか嬉しそうに呟いた。
続けて「わしがふたりまとめて抱いちゃる!」と陸奥守さんがわたしもろとも蛍くんに抱きつくと「苦しいよ!」と声をあげた。
「ふたりとも、しょうがないなあ」
軽くため息をついて呟いた蛍くんの手は、それぞれわたしの腕と陸奥守さんの腕をぎゅっと掴んで離さなかった。
幸せ家族計画
(あらためまして、よろしくね)
2019.11.04
遠慮しない甘えじょうずで自由奔放なきみはどこにいったのでしょうか。