「俺、子どもじゃないからな」



修行から帰ってきてからというものの、頭を撫でようとすると蛍くんはそう言って撫でさせてくれなくなった。

はじめのうちは思春期かな?とほっこりしていたが、激務が重なり心身ともに疲労がピークを迎えたわたしは癒しが欲しくて仕方がなかった。

癒しの亡者となったわたしは蛍くんを捕まえ、後ろから抱きすくめ撫でくりまわすことに成功。ようやく手に入れた癒しに感無量で嫌がる蛍くんに気がつかなかった。



「はあ…癒される〜」

「ねえ、ちょっといい加減に…」

「蛍くんはかわいいですねえ〜」



ぴたっと蛍くんの動きが止まったことをいいことにさらに撫でくりまわす。ああ、これまでの疲労が流れていくのを感じる。癒しとはなんて素晴らしいものか。

「だぁかぁらぁ〜っ」という声が聞こえた瞬間、蛍くんが身体ごとこちらに振り返ったと思いきや、わたしの視界は天井と蛍くんの顔を映しだした。あれ?今まで蛍くんの後頭部を見ていたはずなのに。



「俺、もう子どもじゃないって言ったよね?」



かつて見た、いたずらが成功した子どものような表情ではなく妖艶な大人の表情で笑っている。あのとき香った色気にむせ返りそう。こんな表情知らない。

わたしの両腕は蛍くんの片手で纒めあげられ、片手はわたしの頬に添えられる。体は密着し、わたしの両脚の間にある蛍くんの片膝によって足が開かれる。
冷静に分析してやっと押し倒されていると理解したがすぐに、その状況に頭が混乱した。



「ほ、蛍くん!?どどどどうしたの!?」

「ちょっと黙って」



ワーワーと騒いでいたら、真剣な表情をした蛍くんの一言で言葉に詰まる。どんどん近づいてくる蛍くんの顔に、どうしたらいいかわからなくなったわたしは思わず目をぎゅっと閉じた。

それから一瞬にも、永遠に長い時間にも感じたあと、柔らかいものがわたしの唇のすぐ横に触れて離れた。静まり返る室内に、ちゅっというリップ音がやけに響く。

弾けるように目を開けると、妖艶に細められた萌黄色と視線が交わる。



「主はかわいいですねえ〜」



満足したらしい蛍くんはわたしの上から退くと「次は容赦しないから」と言って去った。

部屋に残された真っ赤な顔のわたしは、蛍くんを撫でる以外の癒しを見つけようと心に固く誓ったのだった。





少しだけなら許してあげる
(後日、譲歩してくれた)



2019.11.03

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