厨でお菓子をもらった帰り道、黄色い声で騒いでいる乱藤四郎と次郎太刀がいた。なにをそんなに騒いでいるのか聞いてみると、乱藤四郎が指をさした先には主と陸奥守がいた。ふたりともなんらかの書類を持っているあたり仕事の話をしているのだろう。



「あのふたりってお似合いだよねー。主と初期刀って特別な関係だし、萌え身長差だし!」

「もえしんちょーさってなに?」



「これだよ」と乱藤四郎が見せてきたのは、主に買ってもらったらしい雑誌というもの。そこには理想の身長差と銘打って様々なことが書かれている。その雑誌が言うもえしんちょーさとは、男女の身長差が20センチ以上離れていることを指すらしい。確かに、主は小さいから陸奥守と並ぶとそのくらいの差はある。



「主ってさぁ、しっかりしてて男前だけど、ちっこいから庇護欲が駆り立てられるっていうかさぁ」

「わかるー!ふとしたときに女の子らしい一面もあるから守ってあげたくなるっていうか!」



いつだったか、五虎退が主のことを「主さまは優しくてお姉さんのようです」と言っていた。この本丸で2番目に顕現した俺は、主と陸奥守が姉と兄のように接してくれたおかげで国俊や国行がくるまでちっとも寂しくなかった。(全く寂しくなかったわけではないけれどそれでも割と平気だったのはふたりのおかげだきっと)

それに、俺の頭を嬉しそうに撫でる主の顔は、姉というよりもお花が似合うおんなのこの表情だった。あの表情は心がぽかぽかするから好き。

そんなことを考えていると、主と陸奥守が楽しそうに笑いあっていた。俺が好きなあのおんなのこの表情。



「まるで王子さまとお姫さまみたいだよねっ」



乱藤四郎の言葉になにも返すことができず、俺はその場から逃げ出した。どうして逃げ出したのかはわからないけれどこれ以上俺が好きな主のおんなのこの表情を見ていたくなかった。

途端、陸奥守が羨ましくなった。
いいな、もえしんちょーさ。


その日の夕餉後、昔の名残で今も続けている片づけのお手伝いを終えて部屋に向かう道中で主と出会った。千早を脱いで軽装をしているあたり今日は職務を終えたみたい。「蛍くん」って言いながら駆け寄ってきた主から香る石鹸の匂い。お風呂も終えたらしい。



「お手伝いありがとうございます。今は当番制ですから、おやすみのときは無理しなくていいんですよ?」

「昔の名残でくせみたいなものだから平気。それに国行がやらない分ね」

「いい子ですね、蛍くんは」



そう言って俺の頭を撫でる。あのおんなのこの表情ではなく姉としての保護者の表情。

主に撫でられるのは嫌いじゃない。子ども扱いは嫌だけど、主の手のひらは心地よくて好き。でも今日はなんだか釈然としなかった。頭にちらつくのは昼どきのこと。



「ねえ、もえしんちょーさって知ってる?」

「え?もえしんちょーさ…身長差?」

「男女の身長差が20センチ以上だともえしんちょーさなんだって」



「へえ。物知りですね蛍くん」と、のほほんとしている主のシャツを掴んで思い切り引き寄せた。主が前かがみになり、鼻先が触れそうなほど俺の顔に近づく。



「わかってる?逆さまだけど俺と主ももえしんちょーさなんだよ?」



そのまま主の鼻先に口づけた。
思考が追いついてないのか固まっている主の耳に口を寄せて呟く。
ようやく状況を把握したようで、体勢を元に戻した主の顔は真っ赤に染まっていた。

うん、そのおんなのこの表情が大好きなんだ。





「俺が守ってあげるね、お姫さま」
(今はまだ俺のほうが低いけど、俺と主だってもえしんちょーさでしょ)



2019.11.03

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