陽の光が当たる縁側。そこはじいじと呼べる刀剣たちのたまり場でもあった。
今日も今日とてじいじこと三日月さんが日向ぼっこをしていることはわかっていたはずなのに、それを思い出したのは、視界に三日月さんを入れて思わず足を止めた瞬間だった。
幸い、三日月さんはまだわたしに気づいていないようだ。今ならまだ間に合う、踵を返して別ルートを行くんだわたし!と自分に言い聞かせても両足は固く動かない。ついに思いも虚しく三日月さんに見つかってしまった。
「おお、主ではないか。どうだ?そなたも陽に当たっていかんか?」
過去の所業からありがたく遠慮したかったが、にこにこ微笑みながら「茶菓子もあるぞ」と言われてはせっかくの申し出を断ることができない。
うらめしや、NOとは言えない日本人。
せめてもの抵抗で多少間を空けて隣に座った。悪気がないことはわかっているが今までの所業を思い返すとつい防衛本能が働く。
「どうした?もっと近う寄れ」
「いえ、こちらのほうが陽に当たりますので」
その言葉に三日月さんは目を細める。一瞬だけ異様な空気を感じ寒気がしたが、三日月さんは「心配するな、なにもしない」と庭先の花を見つめ笑いながら言った。さすがに反省してくれたのだろうか。
「本当ですか?」
「ああ。物干し竿は堪えたからなあ」
「はっはっは」と笑う彼はいつもののほほんとした三日月さんだった。先ほどの寒気は気のせいだろうか?
それから三日月さんが用意してくださったお茶と和菓子に舌鼓をうち、先ほどの寒気のことなど忘れて他愛のない会話を楽しんだ。
そんなわたしが愚かだったのだ。
「主よ。あまり信じすぎるのも考えものだぞ」
三日月さんの口元には笑みが浮かぶ。いつも縁側で見かける笑みとは程遠いもの。先ほどの寒気がわたしを襲う。
蛇に睨まれた蛙のように身体は動かなくなってしまった。自分の身体なのに動かし方を忘れてしまったようだ。視線もまた瞳の中の三日月に囚われて逸らせない。助けを呼ぶにも声すら発することは叶わなかった。
こんなこと、前にもあったような気がする。
「それもそなたの美徳であるが」
自由が利かないわたしを細められた三日月が射抜く。寒気が全身を駆け巡る。抵抗しなければと頭ではわかっていてもどうすることもできず三日月さんに抱えられてしまった。
「案ずるな。先ほど足が動かなかっただろう?そのときと同じまじないをかけただけだ」
どこかへ向かいながら三日月さんは恐るべきことを言ってのけた。あのときすでにわたしの存在に気がついていたらしい。そして両足を縛りつけたのも自分であると。
どうやら三日月さんを視界に入れた瞬間から、時既に遅し、だったらしい。
「さて、これでもう邪魔は入らん」
連れてこられたのは三日月さんの自室だった。なぜか既に敷かれている布団の上に優しく降ろされる。所作は優しいが、三日月さんの瞳は優しいとは言い難い。
「先の戯れではないぞ。今度は本気だ」
三日月さんがわたしに覆い被さる。三日月さんの指がわたしの頬に触れた瞬間、視線に縛られていた身体が解かれた。多少動けるようになっても力は入らない。せめてもの抵抗に目の前の胸板を押すと、三日月さんは少しだけ目を丸くしたが、それもすぐに細められ口元に弧を描いた。
「あの日の再来といこう、主よ」
しゅるり、と布が擦れる音がやけに大きく聞こえた。いまだに三日月さんから視線を逸らすことはできない中、曖昧な遠い記憶に想いを馳せた。
「頭の先から爪先までそなたを愛でてやろう」
瞳の打除けはいつかの三日月を連想させ、そのままわたしを夜具の波へと沈めた。
白白明けは
(弓張の月に溺れる)
2020.02.24
【心恋】(うらごい)
心の中で慕っている人を想うこと。
【白白明け】(しらじらあけ)
夜が明けようとして、空が次第に白くなりはじめること。また、そのころ。