ど、どうしよう。思わず調子に乗ってしまった。中学生であるわたしが高校生相手に喧嘩を売ってしまったのだ。

ナンパに困っていた女の子を救けようとしたら、その隙に女の子が逃げてしまい「てめえのせいで逃げられただろ」と難癖をつけられた。喧嘩を売った覚えはないが彼らはわたしに喧嘩を売られたと思っているらしい。



「相手を困らせることはよくないと思います」

「てめえ、自分の状況がわかってんのか!?」



火に油とはまさにこのことでさらに怒らせてしまったようだ。どうしよう。激怒した様子で迫りくる彼らを前に冷や汗をかいていると、あんなに怒りで顔を赤くしていた彼らの顔が途端に青ざめていく。
しまいには「覚えてやがれ」と捨て台詞を吐いて逃げてしまった。な、なにごと?



「ちょっと、あんた」

「え?」



呆然と彼らの背中を見送っていると、背後から声がかかる。凛とした女性の声だった。振り返るとそこには眼光が鋭い女性が仁王立ちしてわたしを見下ろしていた。



「おまえな、人の心配より自分の心配をしたらどうなんだ?」



か、かっこいい!
それが目の前の女性に対する第一印象だった。
夕陽に反射してきらきらしている茶髪。海のように青い瞳。モデルさんのようにすらっとしていて細身なのに堂々とした立ち振る舞い。理想的な女性だった。

たぶんこの人のおかげで彼らは逃げ出し、わたしは窮地を脱したんだ。



「ん?あたしの顔になんかついてるか?」

「すみません!素敵でつい見惚れていました」



いくらかっこいいからって、初対面の人の顔をまじまじと見詰めるなんて失礼だよね。素直にそう謝ると彼女は呆気にとられた顔をしたあと盛大に笑い出した。

なにか変なことを言ってしまったのだろうか。それともまた失礼なことしちゃったのかな。おろおろしていると、笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭いながら彼女は「悪いな」と言った。



「おまえが面白くてつい、ね」

「よかった。なにか失礼なことを言っちゃったのかと思いました」

「はははっ。やっぱり面白い子だね。女の子なのに根性もあるようだし気に入ったよ」



女性は笑いながらそう言うとわたしに手を差し出した。はじめに見た眼光の鋭さはない。そのせいか第一印象ほどの大人っぽさが消え、優しいお姉さんという印象を受けた。それでもかっこいいのは変わりないが。



「あたしは龍光寺カイ。よろしくな」

「苗字名前です。遅れましたが助けてくださってありがとうございます」



差し出された手をとり握手を交わす。
龍光寺さんは「あたしはなんにもしてないよ。あいつらがちょっと睨んだだけで逃げ出すような根性なしだっただけさ」と笑った。やはりかっこいい。龍光寺さんはわたしのヒーローと化していた。

そういえば、よく見てみると龍光寺さんの制服ってきらめき高校だ。お兄ちゃんと同じ高校のもの。



「龍光寺さんはきらめき高校の生徒さんですか?」

「ああ、そうだよ。よくわかったな」

「兄が通っているんです。もしかしたらいつか会うかもしれませんね」

「へえ。そうだったのか」



兄に関してはあまり興味なさげだった。もしかして知り合いじゃないのかな?あれだけ大きな高校だと知り合いである確率のほうが低いか。



「わたしも今年きらめき高校を受験するんです」

「それじゃあ、来年は後輩になるってことだな」

「はい!あ、受かればの話ですけど…。でも、入学前からこんなに素敵な先輩に出会えて幸せです!」

「ははっ。それは光栄だね」



今度は興味ありげに笑ってくれた。
龍光寺さんってふとした笑みとか格好いいなあ、とか思いながらまたもや見つめていたら目が合ってしまった。「なんかついてる?」と聞かれたので首を振って答え恥ずかしさから俯くと、龍光寺さんは笑いながらわたしの頭を撫でた。
龍光寺さんってよく笑う人だなあ。



「それじゃ、あたしはこれで」

「はい。本当に今日はありがとうございました。あ、あの!また会えますか?」

「だいたいこの時間帯はここにいるよ」

「わかりました!それじゃあ、また!」

「ああ。じゃあな」



軽い足どりで帰路につく。別れたばかりだというのに明日以降また会えることが今から楽しみで仕方がない。

帰宅すると先に帰っていたらしいお兄ちゃんに出迎えられた。あまりにもわたしがうきうきしていたせいか「なんかいいことでもあったのか」と問われたので「ないしょ」と答えておいた。なんとなく、わたしと龍光寺さんの秘密にしておきたかった。

ごめんね、お兄ちゃん。
これがお兄ちゃんへのはじめての内緒だった。

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