足早に河川敷へと向かう。水面が夕陽に反射しきらきらして綺麗だが今はそんなことに構っていられない。はやる気持ちを抑え足だけを懸命に動かした。
お兄ちゃんや都子ちゃんに褒められ、小林さんや七河さんからは祝福のメールをいただいた。これ以上を望んだら欲張りなんだろうけれど、どうしてもあの人に伝えたかった。
「龍光寺さん!」
「ん?ああ、おまえか」
一生懸命走った先には土手に寝転んだいつもの龍光寺さんがいた。わたしに気がつくと起きあがりスカートを直す。あの日見たときと同じ、夕陽に反射してきらきらした龍光寺さんの茶髪のほうが水面よりも綺麗だった。
「あ、あの!はあ…はあ…りゅっうじさ…んに、つっつたっ…たい…ことがっ」
「ほら。あたしはどこにも逃げないから深呼吸でもして落ち着きな」
そう言ってわたしの頭を優しく撫でてくれる。いくら伝えたくてしかたないとはいえわたしってば気持ちばかり先走って恥ずかしい。龍光寺さんの言う通り、深呼吸をしてあがった息を落ち着かせる。
「お見苦しいところをお見せしてすみません…」
「そんなことないさ。落ち着いたかい?」
「はい、おかげさまで」
ふたり並んで土手に座り込み、その間ずっと龍光寺さんがわたしの背中をさすってくれていたおかげで、あがるにあがっていた息は落ち着きをとり戻していた。
「それで?急いでどうしたんだ?」
「龍光寺さんに伝えたいことがあったんです!」
はっとして龍光寺さんに詰め寄る。そうだ、ほっとしている場合ではない。
慌ただしいわたしとは対照的に、龍光寺さんは「なんだい?」と余裕そうに微笑んだ。
「わたし、きらめき高校に合格しました!」
「本当かい!?おめでとう!」
龍光寺さんは目を輝かせて自分のことのように喜んでくれた。それがなによりも嬉しい。なんてわたしは幸せ者なんだろう。
「がんばってたもんなあ」
「龍光寺さんが勉強を教えてくれたおかげです!」
「あたしはなんもしてないよ。名前ががんばったからさ。おまえの実力だよ」
また頭を撫でてくれる。この時間が好きだ。
龍光寺さんはよく頭を撫でてくれる。受験期はよく龍光寺さんに勉強を見てもらった。苦手を克服したり、テストの点数があがったりすると労いの言葉とともに頭を撫でられる。やはりわたしががんばれたのは龍光寺さんのおかげだ。
「晴れてきらめき高校の生徒になれました。これで学校でも龍光寺さんと一緒にいられますね!」
「かわいいこと言ってくれるじゃんか。そっか、これでおまえの先輩か」
「あ、あの。これからは龍光寺先輩って呼んでもいいですか?」
先輩呼びはわたしの憧れだった。きらめき高校のはじめての「先輩」は龍光寺さんがいい。
「んー、どうしようかな」
「だ、だめですか?」
情けなく眉を下げたわたしを見て、龍光寺さんは「そんな顔すんなよ」と笑った。
「名前なら尚よし、かな」
「いっいいんですか!?」
「もちろん」と龍光寺さんは笑う。龍光寺さんの申し出はこのうえなく嬉しいものだった。まさか名前で呼んでいいとは。しかも憧れの「先輩」呼びで。
「か、カイ先輩」
「なんだい、名前」
嬉しそうに微笑んでくれるカイ先輩がとても綺麗だった。カイ先輩の顔を見ていたらなんだかどきどきしてきちゃった。
「ふふ、なんだか照れますね」
「おいおい、これから呼ぶことになるんだよ」
「はい。嬉しいです」
「…そうだな」
カイ先輩は立ちあがり「一緒に帰ろう、名前」と名前を呼び手を差し出してくれる。元気よく返事をしてその手をとり立ちあがった。
こんなに幸せ者でいいのだろうかと不安になるほど幸せ者だ。これから大好きなカイ先輩と一緒に勉強したり帰宅したりという日常が待っているから。
その日、わたしはカイ先輩と仲良く帰宅した。