あいつはいつも楽しそうだった。俺には眩しすぎるほどきらきらと輝いた瞳で世界を彩っていた。

そんなあいつが「こんな世界はいらない」と言った。その瞳に光はなく壊れた笑みを浮かべていた。

だから抱きしめたんだ。
あのお方があいつにやっていたように。



「ぜんぶ、壊れてしまえばいいのにね」



狂気を孕んだ瞳であいつはそう言った。
その瞬間、俺は理解する。
俺はあのお方の代わりにすらなれないということを。





「……蔵…三蔵!聞いてるの!?」



今、俺の目の前で眉間に皺を寄せ仁王立ちしている名前の瞳に、あのときの狂気はもうない。



「…ああ、聞いている」

「嘘ばっかり!」

「おまえ口煩くなったな」

「話をそらさない!だいたい、口煩くさせてるのは三蔵でしょ?」

「さあな。身に覚えがねえ」

「現在進行形でそうなんだけど」

「口煩いことは自覚してんだな」

「ちっがーう!もうっ!」



「そういうところだよ」とまた口煩く言う名前は、昔とあまり変わらない。ああ、でも昔のように泣かなくなった。

それから、笑わなくなった。



「昔はよくぴーぴー泣いてたくせに」

「……今は違うわ」



細められた瞳は、次第に光が失われていく。
まただ。あれはお師匠さまを想い浮かべている目。



「もう変わったんだよ」



そうだ、おまえは変わった。あの頃に比べて強くなった。それと同時に弱くもなった。
なぜならこんなにもまだ、あのお方の幻影に囚われているから。



「あのお方はもういないもの」



彼女の瞳に見え隠れする狂気はあのときと同じもの。
憂鬱な雨音は、狂気をより一層濃いものにする。

ああ、憂鬱だ。



「あ、雨……」



滴る雨に重ねるのは、誰の血だ?
その瞳に映すのは、誰の影だ?
すべて、あのお方のものだ。



「やむかなあ?」

「…さあな」



窓の外で降り続く雨を心配そうに見つめる名前。ただそれだけのはずなのに、名前が遥か彼方のもっと別のものを見つめているように感じる。

小さい頃からずっと一緒だったおまえが、今はこんなにも遠いのはなぜだろう。



「この雨が、ぜんぶ洗い流してくれたらいいのにね」



名前はお師匠さまの言いつけ通りつき人として俺の側にいてくれる。恐らく一生涯、離れることはないだろう。あのお方がそう言ったから。



「…ねえ、三蔵」



だが彼女が呼ぶ「三蔵」は俺じゃない。名前は俺にあのお方の影を重ね、今なお追い求めている。それも一生涯、変わることはないだろう。

おまえが見つめるのも、話しかけるのも、全部あのお方だけ。
おまえはあのときから俺のことなど見ていない。視界に映らないどころか振り向きもしない。

ああ、ひどく憂鬱だ。



「そう思うでしょう?」



その瞳に狂気が宿るときはあのお方を想っているとき。その瞳にすら映りたいと思う俺はすでに、狂気という名の愛情に蝕まれている。



「…ああ、そうだな」



きっと運命を共にしたあのときから。
たとえそれが、誰かの代わりであるとしても。



「名前。愛していますよ」



おまえを、愛している。





それは、最初で最後の醜いだった。
(この声がおまえに届かずとも)



2013.11.21
光明三蔵夢「きっとわたしの、」の続きで玄奘三蔵夢「最初で最後の恋だった。」は彼女の心情になっています。
これから彼女は悟空たちと出逢い、旅をして変わっていって欲しいです。んで三蔵とくっつけばいいと思うよ。また続き書いてみたいです。

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