ご注意
真島さんの元で育ったため喧嘩っ早い
素行不良で口が悪く男勝り
真島組組長つき秘書だが堅気
サブストーリー「合コンに行こう」ネタ




今はそんな場合じゃないはずなのに「少し羽を伸ばしてこい」なんて親父に言われちまってアテもなく神室町をうろうろしていると、女特有の甲高い声があたしの耳を劈いた。



「えー!?小夏、来ないのぉ!?」

「なんか弱気になっちゃったみたいで。どうしよう、今さら人数変更もできないし」

「協力してくれる人探すしかないよ!」



なんとなくそれを眺めていると、小柄な女の子があたしと目が合うなり思いついたような顔をして、大きく手を振りながら近づいてきた。



「そこのお姉さん!ちょっといいですか!?」

「ちょっと、春子!」

「あたしになんか用かい?」



あまりいい予感はしなかったが、先にじろじろ見てしまったのはあたしのほうだし、なんだか困っている様子だったので放っておくわけにもいかず対応する。

意気揚々と声をかけてきた春子と呼ばれた女の子とは対照的に、お団子頭の連れの子は困った様子で彼女をなだめていた。



「私たちこれから合コンなんですけど、ひとりキャンセルしちゃって。お姉さん一緒に行ってくれませんか?」

「あたしが?」

「突然すみません。でもお姉さんさえよろしければぜひお願いしたいです。もちろんお代はいりません」



先ほどまで春子の提案に消極的だったお団子頭の子は、背に腹はかえられぬといった様子で春子同様あたしに交渉をしてきた。

合コンならあたしが役に立てるとは思えない。高校時代に今と同じように穴埋めでつき合うことがあったが、時間が進むにつれ野郎どもを怖がらせて終わるという苦い過去があるからだ。



「そうは言ってもな…。あたしなんかが行ったら男が怖がっちまうと思うけど」

「そんなことないですよ!お姉さん美人だしむしろ喜ぶと思うなあ」

「そうそう!願ったり叶ったりです!」

「お願いします!突然穴を開けるわけにもいかないんです!」

「お願いします!」



よっぽど困っているらしく、そう言ってふたりは頭を下げた。やばい、通行人から注目を浴びている。



「顔をあげてくれよ!わかった、つき合うよ」



これ以上の注目を浴びるのはごめんだと慌てて申し出を了承すると、ふたりは「ありがとうございます!」と喜んだ。なんだかとんでもないことに首を突っ込んでしまった気がする。



「あ、すいません。自己紹介がまだでしたね。私は秋乃といいます。今回の合コンの女子側の幹事をやっています」

「春子です!よろしくお願いします。えっと、お姉さんのお名前お伺いしてもいいですか?」

「風間名前。よろしくな」

「名前さんですね!すみませんが、もう男子たちにこちらの名前を知らせてあって今さら変更するわけにもいかないので、名前さんは今だけ小夏ってことでお願いしたいんですけどいいですか?」

「ああ、かまわないよ」



秋乃は店の名前しか知らない男たちを迎えに行くらしく、あたしと春子は一足先に店の中に入っていてほしいとのことだった。



「名前さん」

「なんだ?」

「実はもうひとつお願いしたいことが…」



秋乃と別れ店の中に入り、席に座ってすぐに春子は目の前で手のひらを合わせながら言った。



「男子側の幹事のユースケくんって子と秋乃は昔からの友達なんです。秋乃ったら、ユースケくんは自分のこと女と思ってないしただの友達なんて言ってますけど、少しは気になってると思うんですよねー」

「ほう。それで、あたしになにをしろと?」

「ちょっとカマかけてもらえませんか?」



春子のお願いとは、秋乃に恋愛感情を自覚させてほしいというもの。そのためにわざとユースケのことを褒めて秋乃に嫉妬させるという作戦だった。



「そんなんでうまくいくか?」

「まあやってみないことには!お願いします」

「乗りかかった船だ。けど期待するなよ」

「さっすが名前さん!話がわかる〜!」



過度な期待をせぬよう釘を刺しつつ春子のお願いを承諾すると、ちょうど秋乃が男たちを連れてきた。

あのときのように怖がらせないように。高校時代の女友達を頭に想像しながらひと息つき、席に着く男たちに向き合うと、目を丸くした男と目が合ってあたしまで目を丸くした。



「おー!美人さん発見!」

「は?え、いや、あの…」

「こいつのことはいいから」

「あれ?たに…リョウタ知り合い?」

「いや、全然」



驚きのあまり互いに言葉を失くしていると、お調子者の男があたしを茶化す。驚きのせいでうまく対処できずにいたら、見知った男がお調子者の男の言葉を制した。明らかに知り合いととれる言葉なのに、そのあとの彼の言葉も一刀両断した。



「(こんなところでなにしてんだよ!)」

「(てめえこそ刑事のくせに!)」



リョウタと呼ばれた男は間違いなく谷村だ。今日だってあたしの邪魔をしただけでなく、女の子らしさがどうとか軟弱なことを言ってきやがったむかつく男。

睨みつけるとあちらもあたしを睨んでいて、同じような質問を視線で返した。てめえこそ公務中じゃねえのかよ。



「小夏ってばリョウタくんと見つめ合っちゃってどうしたの?」

「もしかして美男美女同士カップル成立ぅ?」

「んなわけあるか!」

「ひぇっ!?」



昔からいけ好かない男となんて冗談でもごめんだ。その一心で思わずお調子者の男の言葉に凄むと、男は顔を青くして身を後ろに引いた。

いかんいかん、すっかり冷静さを欠いてしまった。今回の合コンは秋乃と春子に頼まれたもの。あのときのように怖がらせて失敗することだけは避けたい。



「ごっごめんなさい!緊張しちゃって…」

「な、なーんだ。そういうことね!俺のほうこそ茶化しちゃってごめんね!」



顔が青かった男の表情が戻る。よかった、なんとか誤魔化せたらしい。ちらり、と谷村を盗み見ると、あたしに向かってにやりと不敵な笑みを浮かべていた。今すぐ殴ってやりたい衝動をぐっと抑える。



「みんな揃ったし気をとりなおして自己紹介しよう!じゃあユースケから!」

「お、俺!?まあいいけど」



ある意味ターゲットであるユースケから順に自己紹介がはじまる。谷村は先ほど呼ばれた通りリョウタと名乗った。なんでこいつ偽名使ってるんだ?やはり警察官としてはそうせざるを得ないのだろうか?

訝しげに谷村を見ていると、ナオヤと名乗ったお調子者の男に「どうしたの?具合悪い?」と訊ねられたので慌てて笑みを浮かべやんわり否定した。これはあくまで合コンで、今のあたしは風間名前ではなく小夏だ。秋乃と春子のためにもそれに徹しなければ。



「自己紹介も済んだしお料理頼もうよ!」

「ユースケ、おまえに任せるよ」

「そ、そう?じゃあ鉄板餃子にしようか」

「お!?ユースケわかってるじゃん!」



料理が運ばれ酒も進んだ頃、話題は先日ユースケが告白されたことで盛りあがっていた。
ラブレターで告白されたユースケは、その相手に対しラブレターで返事をしたらしい。その告白は断ったらしいのだが、それを完成させるまでに何度も書き直しをしたらしく、そのたびナオヤがレターセットを買いに走らされたとかで嘆いていた。

秋乃を盗み見ると笑ってはいるが、先ほどの笑顔より少しだけぎこちなさそうだ。春子に視線を投げると彼女はゆっくり頷いた。



「素敵ですね」

「え?」

「ユースケさんは誠心誠意、彼女に応えようとしたのでしょう?たとえ残念な結果でもあなたの誠実さは伝わっているはずです。そういうところ好ましく思います」

「あ、ありがとう…。なんか照れるな」

「…も、もう!ユースケ、小夏が美人だからって鼻の下伸ばすなよなー!」

「そっそんなんじゃねえよ!」



どうやらカマかけはうまくいったようで、隣の春子が小声で「名前さんナイスです〜!」と言いながら親指をぐっと立てた。

ふふん。なかなかどうしてうまいもんじゃねえか、あたし!と自己陶酔していると、あたしを見つめる谷村の視線に気がつく。あ?なにガンつけてんだこいつ。



「あれあれー?もしかして小夏ちゃん、ユースケのこと気になっちゃうかんじ?」

「は?」



ナオヤの言葉に思わず素が出てしまった。変な誤解を否定しようにも、ナオヤは「いいなーユースケ。小夏ちゃんみたいなかわいい子に素敵なんて言われてさ!」なんて間髪入れずに言葉を続けるもんだから言い訳もできない。



「な!リョウタもそう思うよな?」

「ああ。たしかにかわいいな」

「はあ!?」



あたしと視線を合わせたまま言ってのけた谷村にまたまた思わず素が出てしまった。こんなときにまでなに言ってんだこいつ!



「俺は正直に言っただけだけど?小夏ちゃん」



こいつのこの表情は、女の子らしくだのなんだのとあたしを小馬鹿にしているときのものだ。得意気な顔がさらに腹立つ。



「……ありがとう、リョウタくん」



笑顔で答えながら手のひらを強く握りしめた。
こいつあとでぜってーぶん殴ってやる。


そのあとも会話を楽しみつつ(個人的にはどっと疲れたが)お酒も進むと秋乃がだいぶ酔ってしまったらしくふらふらになっていた。春子が心配そうに声をかけても本人はまだまだ大丈夫とは言うがひとりで帰るには危なっかしい。



「誰か秋乃のこと送ってくれませんか?」

「ユースケ、おまえ送ってやれよ」

「お、俺!?」

「そうですね。それがいいです」



谷村にしてはいいパスをしてくれた。谷村と秋乃の友達(という設定)のあたしに言われば、ユースケも断りはしないだろう。
ああ、やっと解放される。



「俺は小夏ちゃんを送って行くから」

「ああ、そうだ…なっ!?」

「そ、そう?じゃあそうするよ」



今谷村がとんでもないことを口走った気がするが、ユースケの言葉に遮られてたしかめることができない。ユースケはまだ飲み足りないという秋乃と共に神室町の雑踏に消えていった。

改めて谷村に向き直ると、奴はナオヤと話し込んでいた。その間に逃げようとしたが春子に服を掴まれそれは叶わなかった。



「名前さん、ありがとうございました。これは気持ちばかりのお礼です」

「は!?こんなにもらえるか!酒代まで出してくれたんだから今さら礼などいらん!」



春子の手に握られた諭吉数枚を突き返したが、春子も負けじと手を突き出してくる。彼女は引く気がないようで何度かそれを繰り返した。



「いっぱい協力してもらったし、きっとこれで秋乃も素直になれるから。ね?これでリョウタくんと飲みにでも行ってください」

「はあ!?誰があんな奴…いっいや、あいつのことなんて知らねーよ」

「ふふ。名前さんも素直じゃないんだから」



その言葉で動きを止めた隙に、春子は無理矢理あたしの手を開かせ、その手に諭吉を乗せて握らせた。



「じゃあ私はこれで!お先に失礼しまーす!」

「あ、ちょっと!春子!…行っちまった」



春子は出会ったときのように大きく手を振り駆け出した。礼の礼をする間もなく彼女の姿は人混みに紛れ見えなくなった。



「小夏ちゃん」

「……なんだよ、リョウタくん」



後ろから肩に手を乗せられ声をかけられる。振り返り睨みつけると、笑顔のはずなのに目が笑っていないリョウタくんが静かに言った。



「ちょっと面かしてもらえる?」



しまった。
完全に逃げるタイミングを失った。

谷村に腕を引かれ有無を言わさず連れてこられたのは人気のない第三公園だった。ブランコに座らせられ、逃がさんとばかりに谷村がその前に仁王立ちする。



「で?」

「で、ってなんだよ」

「なんであんなところにいたのか聞いてんの」

「…穴がでた代わりに出てくれって頼まれたんだよ。だいたいてめえこそなんで合コンなんてしてんだよ?警察官のくせに」

「警察官の合コン禁止なんて法律はねえの」



素直に答えるのも癪だったが早く帰るためには仕方がない。谷村は「ふーん、なるほど…」と呟きながら考え込んでいた。
なんだこいつ、人に理由を訊ねておきながら。



「おい、てめえの理由まだ聞いてねえぞ」

「気になる?」

「あ?」

「俺がなんで合コンに参加していたのか、名前ちゃんは気になるんだ?」



谷村はにやにや笑いながら、あたしが座るブランコのチェーンを掴み顔を近づけてきた。



「別に興味ねえよ。おまえがあたしに理由を聞いてきたから、あたしも聞いてみただけだ」

「照れなくてもいいのに」

「ざけんな!あーもういい、バカらしい。あたしは帰る。…ッチ、そこどけよ!」



一気にまくし立てると谷村はため息をついてブランコのチェーンから手を離した。その隙に立ちあがり帰ろうと歩き出すと「同じだよ、おまえと」と呟いた言葉に足を止める。



「来られなくなった奴の代役を頼まれたんだ。ついでにユースケを秋乃とくっつかせるために誘導するのも頼まれてさ。だから仕方なく」

「ふーん。じゃああいつら両想いじゃん」

「ん?どういうことだ?」



谷村にことの顛末を語る。秋乃に恋愛感情を自覚させるためにわざとユースケのことを褒めて嫉妬させてほしいと春子に頼まれたことも。



「じゃあユースケが誠実だの素敵だの褒めてたのってそういう理由?」

「他にねーだろ」

「……なんだよ、まじ焦ったぁ…」



突然しゃがみこみわけのわからんことを呟いた谷村にどうしたのか声をかけると「なんでもない」と言って立ちあがった。



「変だぞ、おまえ。イケメンイケメン言われて頭おかしくなったか?」

「おまえこそ美人だなんだ言われてたろ」

「お調子者が場の空気あげるために言ったことだろ。そんなもの間に受けてどうする」



馬鹿馬鹿しいと吐き捨てると、名前を呼ばれたのでなんとなく視線を移す。そこにはいつもとは違う、見たこともない真剣な顔の谷村がいた。



「かわいいよ」

「は?」

「今日の名前、かわいかった」

「な、なに言ってんだてめえ…」

「ちゃんと女の子らしくできんじゃん」



脳みその沸点が最高潮に達した瞬間、谷村の顔目がけて思いきり足を振りあげた。



「おっと。おまえな、照れ隠しに蹴りあげようとすんなよ」



不意打ちにも関わらず難なくあたしの蹴りを捌くと、呆れたようにため息をついた。このスカした態度がいつも気に食わねえ!



「うるせえ!その口黙らせてやる!」

「ふーん。どうやって?」

「そんなもん喧嘩に決まってんだろ!」



今日という今日は許さねえ。警察だろうがなんだろうが知るか!気に食わねえ奴はぶっ飛ばすが親父の教訓だ。あたしが女だからっていつもナメくさりやがって!



「はあ…。おまえさ警官相手に喧嘩売るなよ。それよりお互い黙れるいい方法あるんだけど」

「じゃかあしい!かかってきやがれ!」

「そう?じゃあ、遠慮なく…!」



言うが早いか谷村は拳を前に突き出した。それをすんでのところで避けて脇腹めがけ膝を振りあげる。捌かれると思いきやそのまま足を掴まれてしまい引き寄せられる。まさかの事態に思わずバランスを崩したあたしはその先で待ち受けていた谷村の胸板にダイブし、そのまま拘束された。



「捕まえた、名前ちゃん」

「おおおおまえ!近い!」



ひとつはあたしの腰に、ひとつはあたしの背中に腕を回しているせいで、あたしたちの間に隙間はなく身体は密着していた。当然、その中で顔をあげれば奴の顔は間近にあって慌てて目をそらした。離れようと奴の胸板を押して足掻いてもビクともしない。



「当たり前だろ?口塞ぐんだから」

「なななに言ってんだてめえ!」

「名前が言ったんだろ、黙らせるって」

「だっだからってなに考えてんだよ!」



言っている意味を理解して暴れると、谷村はいらついたように顔を歪ませ舌打ちをした。いつもより数段低い谷村の声が耳元で聞こえてきて背筋がぞくっとした。



「あーうるせえな、もう黙れよ」



背中に回していた手をあたしの顎に移し上にあげた瞬間、真剣な顔つきの谷村と目が合う。
途端、頭が真っ白になってなにも考えられなくなったあたしが咄嗟にとった行動は、護身術として親父からいちばん最初に習ったことだった。



「お、おまえ…急所は卑怯だろ…」

「はあ、はあ、…っざまあみろ!」



親父の言葉は正しかった。
「ええか、名前。よぉ覚えとき。暴漢に襲われたら思いきりここを蹴りあげるんやで。どんな男もここだけは鍛えられへん」の言葉通り谷村は冷や汗を垂らしながらその場にしゃがみこんだ。



「谷村のばーーーーかっ!!!」



今思いつく限り最大の悪口を吐いて、あたしはその場を足早にあとにした。走っても走っても熱くてたまらない顔が静まることはなかった。



「…ばーかって、小学生かよ」





Her "don't" means "please".

(はじめはからかおうとしただけなのに)
(腕の中で暴れるこいつを見て俺とはそんなに嫌なのかよと思ったら腹が立って歯止めがきかなくなってしまった)



2020.02.24 fix.

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