「アズミサエです」
美人さん改めカーティスさんの「事情聴取をとらせてもらいます」という言葉が、早々にわたしが名乗った理由である。
不法侵入とセブンなんちゃらの罪で逮捕されたわたしは馬車の荷台に乗せられ、森の中から軍の基地と思しき場所へ連れてこられ取調室のような小部屋に通された。
正直、この空気に耐えられない。
「変わった名前ですね。姓も聞き慣れない」
「あ、サエ・アズミです」
どうやらここは外国らしい。
荷台に乗せられているときにちらっと外の様子が見えたのだが見慣れない街並みだった。街全体が水に囲まれた、まるで水の都。そんな感じだ。
それにカーティスさんの名前や周りの兵士さんたちの顔立ちも外人さんみたいだ。その証拠にこちらの名乗り方も彼らには通用しなかった。
だとしたらどうして外国にいるのだろう。部屋の箪笥がどこかもわからない外国行きになっていたなんて知らなかった。そもそも箪笥にそんなオプションがついていてたまるか。
「あなたはどうやってテオルの森へ侵入したのです?一見すると一般市民のようですが、見張りを掻い潜るとはね」
「ておるのもり?」
「あなたが恐喝され逮捕された森ですよ」
忌まわしき新鮮な記憶。
あそこは「ておるのもり」というのか。一生忘れることのない地名となるだろう。それと同時に一生行きたくない場所となった。
「今さらわざとらしい態度は結構。あれだけの第七音素を発生させたんだ、只者ではないだろう。キムラスカの隠者あるいは先帝の信者か?密偵にしては雰囲気も色気もないが」
せぶん、ふぉ?きむらすか?せんてい?
馬鹿にされたことだけは理解したが、それ以外の不思議ワードが多すぎて呆然としていると、カーティスさんの美しいお顔が歪んだ。
よっぽどわたしが阿呆面を晒していたせいか、舐めてんのかコラ、と言わんばかりにカーティスさんは笑顔で机を強く叩いた。
め、目が笑ってないです!
はじめての尋問にヒェッ!と言葉を漏らし涙目で震えるわたしを見て、再度カーティスさんの美しいお顔が歪む。彼の眉間に皺が寄る分だけもともと重かった空気がさらに悪化した。
「泣き落としは通用しない」
「あ…す、すみません…勘弁してください…」
笑っているはずなのに鋭い眼光のカーティスさんが怖すぎて、失礼は重々承知の上、率直な感想を申し上げると「…キムラスカの隠者でも先帝の信者でもなさそうですね」とカーティスさんは呟き考え込んだ。あ、敬語に戻った。
視線が外れたことで鋭い眼光から解放され、安堵から零れた涙を拭った。きむらすかとかせんてーとか外国のことなんぞなにもわからないのになぜこんな恐怖を味あわなければならないのかと、冷静になってようやく気がついた。
そうだ、ここは外国。
めちゃくちゃ怖いカーティスさんも周りの兵士さんたちも外人さん。それはまず間違いない。
さらにわたしの頭は残念ながら性能が悪くむしろ英語はちょっぴり苦手だ。リスニングに至っては「一生国内で生きていく」と幼馴染に誓いを立てたほど。
異国の言葉に関して残念な頭が、なぜ難なくカーティスさんと会話ができるのだろう。
「あの、わたしの言葉がわかりますか?」
「心外ですね。馬鹿にしているんですか?」
「滅相もございません!」
阿修羅を見た気がした。美人な阿修羅は一息つくと立ち上がり怯えるわたしを見下ろす。相変わらずなにかを考えているようだが無言すら怖い。
「確証はありませんが、間違いないでしょう」
そう呟いたカーティスさんは「訂正します」と言ったあと、いまだに怯え続けるわたしに向かって信じられないことを言ってのけたのだ。
「第七音素を大量放出した異世界人として、マルクト軍があなたの身柄を完全拘束します」
いせかいじん?なにそれ、おいしいもの?
カーティスさんの言葉が理解できない。ただひたすらに「いせかいじん」という言葉が頭の中でループし、口をぱくぱくさせることしかできないわたしを鼻で笑ったカーティスさんは「証拠をお見せしましょう」と言うと淡い光に包まれた。
「“炸裂する力よ!エナジーブラスト!”」
人間が光に包まれただけでもなんだこれ状態の混乱案件なのに、カーティスさんが言葉を発した瞬間、目の前で小規模な爆発が起こった。
ほんとなんなんだこれは、びっくり人間か。
ついに現状に追いつけなくなった脳は伝令通り意識を手放すことにした。
グッバイ、見知らぬ世界!
次に目覚めるときは、あの大きなぶたのぬいぐるみが目の前にいますように。