怒られながら告白されるという信じがたい事実から間もないある日のこと。愛犬ポティロンの散歩をしていたら、またもや奇抜な彼と出会した。先日と違い今日はひとりでなくお友達らしき男の子が一緒にいた。
幸いなことに彼はまだわたしの存在に気づいていないようだ。告白の件はわたしもそれなりに年頃の乙女なので気になってはいたが、正直なところあまり彼に関わりたくない。お利口さんのポティロンにそっと視線を合わせ吠えないように口元に人差し指を立てるとポティロンは一度だけ頷いた。うん、いい子だ。
さっさと退散するつもりだった。彼の友達の怒号が飛ぶまでは。
「どうなのジャガーさん!」
あの奇抜な人、ジャガーさんっていう名前なんだ。ひょっとして外人さんなのかなあ?
はっ!いけないいけない。なに興味抱いてんの!危うく流されてしまうところだった。さっさとこの場から退散しなくては。
けれど気になってしまう。少しだけならいいよね。気づかれなきゃいいんだから。
電柱の陰に隠れてそっと窺うと、ジャガーと呼ばれた奇抜な人とその友達らしき男の子の雰囲気がぴりぴりしている。揉めごとかな?
「うるせーな、ピヨピヨとピヨ彦は」
「ピヨピヨ言ってないよ!それより最近ジャガーさん変だよ?こそこそ家出たりしてさ」
「それは…」
「また変なことしてるの!?」
変なことをしているのは常習犯なんだ。お友達のあの子も大変だなあ。
男の子に同情の眼差しを送っていると、そのうちふたりはどんどんヒートアップしていった。
「違うって!してねえよ!」
「してるじゃん!今だってやけにそわそわしちゃってさあ!」
「そんなことしてるわけねえだろピヨ彦が!」
顔を真っ赤にさせて否定しているが間違いなく彼はそわそわしている。男の子に指摘されたことで気持ち悪い動きをしている。なんだろうあの動きは。まるでくらげのように両手足をぐねぐねさせている人間離れした動きだ。
「ただポティロ…ゲフン!犬の散歩目当てだ!」
ウェイトウェイトォ!
今ポティロンって言いかけたよね?しかもその名前で犬でこの辺が散歩コースって絶対うちの子だよね!?
はっ!落ち着くのよ名前。先日の告白と今日のことで敏感になってるだけよ。まだポティロンにかこつけたわたしのストーカーと決まったわけじゃないわ。
「仲のいい犬でもいるの?」
「いやぶっちゃけあの塩犬はどうでもいい。目当ては飼い主」
驚きの速さでストーカー決定。
先ほどまで真っ赤な顔をしていたのに突然スンッと表情を消して答えるジャガーさんと呼ばれる彼。ガチやん。
「まさかその飼い主って女の子?」
「なっなんでわかるんだ!?まさかピヨ彦おまえストーカーか!?」
それはあなたでしょうが!この間に引続きなんで今日も待ち伏せしてるの!?
声を大にして言いたい気持ちを抑えるために電柱をぎゅっと握る。そんなわたしをポティロンが心配そうに見つめてきた。ごめんね、ポティロン。大丈夫だよ。
「いや違うよ。そっか!フフ…」
「なっなんだよピヨ彦。突然笑ったりして気持ち悪いなあ」
「ジャガーさんてば、その子に恋してるんだね!」
微笑む男の子の言葉に手の力が抜ける。
たしかに告白された。とても独特な告白だったけれど。でも今日の彼を見ている限りでは恋なんてそんな可愛らしい感情ではないように思えていたから、男の子の言葉は驚きだった。
「バッキャロウ!俺が恋なんてするわけねえだろ!」
「そわそわしたり、犬目当てのふりして待ち伏せしたり。まさに今のジャガーさんは恋してるよ!」
彼がわたしに恋を?いやいや嫌がらせの間違いでしょう?だってそうじゃなきゃ、見ず知らずの人に突然怒りながら告白してきたり、散歩コースをがっちり抑えて待ち伏せなんてストーカーのようなことをするはずがないもの。
「…そうだよ、ピヨ彦の言う通りだ。いつの間にかあいつを目で追ってたんだ。でも俺、恋なんかしたことなくてさ。彼女と話したくてたまらないのに、近くにいるだけで緊張してうまく話せねえ…。とんだチェリーボーイさ」
すると彼はひとつため息をつき、伏せ目がちに小さく呟いてお友達の言葉を肯定した。
しんみりと切ない雰囲気が彼と男の子を包む。なんだかわたしまで切なくなってきた。
「わかるよ。でもそれを乗り越えたとき恋は実るものなのさ」
「ピヨ彦…」
なにやってんだろ、わたし。こんなに純粋な人がストーカー?近くにいるだけで緊張してしまうほど恋愛下手な人をそんなクズと同じ部類にしてしまうなんて。
気がつけばわたしの足はふたりに向かって歩き出していた。そして息を大きく吸い込み腹から声を出す。
「勇気を出して話しかけてみればいいんだわ!わたしはここにいるもの!」
「きみはっ!」
「ジャガーさん、もしかしてこの子が?」
男の子の言葉に彼はゆっくりと頷いた。すると男の子は拳を握って彼を見やり力強く頷く。彼もそれに押されるように頷いた。
「お友達からお願いします!」
勢いよく90度のお辞儀をして片手を差し出した彼の顔は顔や耳までどころか上半身もほんのり赤かった。
しゃべれたじゃない。
チェリーボーイともこれでサヨナラね…!
わたしはポケットから携帯を取り出し3桁の番号を押して携帯を耳に当てた。
「服を着て出直してください」
(パンイチはきつい)