「あ、こんにちは」

「君はあのときの。こんにちは」



怒りながら告白してきた彼ことジャガーさんに「お友達からお願いします」とパンツ一丁で言われて数日後。コンビニに立ち寄ると、あのときもその場に居合わせたジャガーさんのお友達と会った。
ええと、名前はたしか。



「ピヨ彦くん」

「いや清彦です。ピヨ彦はジャガーさんが勝手につけたあだ名で、本当の名前は酒留清彦です」

「そうだったんですね。苗字名前です。よろしくお願いします、ピヨ彦くん」

「え。あの……ええ、はい…」



どうしてピヨ彦くんは落ち込んでいるのだろう。なにか悩みでも抱えているのだろうか。「若いうちは大いに悩んで結構だけど一人で抱え込んじゃだめだよ」と言うと彼は「ありがとうございます」と言って首を傾げた。
ピヨ彦くんとともに歩く、コンビニからの帰り道。話題は自然とジャガーさんのことになった。



「ええっ!?ジャガーさんってば苗字さんに怒りながら告白したんですか!?」

「はい。それが初対面だったんですけど」

「まあ、ジャガーさんらしいっていえばらしいかな。でもああ見えて悪い人じゃないんです。だから誤解しないであげてくださいね」



先日の通り、もし彼がただ恋に不器用な人なら。ただわたしと話したいだけなら。きっと悪い人じゃないんだなと思える。なによりいちばん話が通じそうなピヨ彦くんが言うんだからそうなんだと思う。



「あ」



突然足を止めたピヨ彦くんが声を漏らす。数歩遅れて歩みを止めたわたしは不思議に思いピヨ彦くんを見やると、彼は眉をひそめて真っすぐどこかを見つめていた。その視線を辿るとそこにはジャガーさんらしき人がこちらに背を向けて立っていた。噂をすればなんとやら。

思わず身構えたが、よく見れば今日も誰かと一緒なようだ。忍者?にしては動きづらそうな黒いダウンコートを着た、目の下に傷がある男の人。

ピヨ彦くんはそのまま動く気がないようなので、わたしも彼にならってジャガーさんと男性の様子を窺うことにした。最近こんなのばっかりだ。



「あ、あっれー?偶然でござるなジャガー殿!」

「おまえこんなところでなにしてんの?」

「え!?いや、あの…なんていうか。ああ!かっ観察でござるYO!」

「またか」



ジャガーさんがげんなりとした様子でため息をつく。背中しか見えないので表情はわからないが、声色から想像するに隣のピヨ彦くんのように苦虫を噛み潰したような表情をしていると思う。



「えっ!?なっ、なんだろうなーまたって。拙者わからないなー」

「またストーカーだろ」

「やっだなージャガー殿!そんなこと拙者がするわけないYO!そっそういうジャガー殿こそこんなところでなにしてんだYO!?」

「俺はお使い頼んだピヨ彦の帰りが遅いからコンビニに向かうところ。ハマーは誰待ってんだ?」

「A高のあおいちゃんだYO!」



男性が鼻息荒く高々とそう宣言したその瞬間、わたしの表情もピヨ彦くんの表情と同じになった。男性はさらに鼻息を荒くして言葉を続ける。



「小柄ながら柔道部の部長を務めつつ生徒会書記もこなす文武両道。童顔で可愛らしい顔からは想像できないけど黒帯保持者。大会も総なめにしていてカッコいい女の子なんだYOね。その反面、甘いものが大好きで特にショートケーキが好きなんだけど最近は駅前のケーキ屋のモンブランがお気に入り。親元を離れて一人暮らしなんだけど仕送りだけでなくファミレスのアルバイトをして生活費の足しにしている真面目な子。実家は造り酒屋なんだけど父親は市議会議員も務めてるんだって。兄弟は姉と兄がひとりずつ。末っ子だけどしっかり者で近所からも評判な女の子なんだYO。今どき珍しいと思わない?この前、拙者が貴重な小銭を落としたときに優しく声をかけてくれて、はいどうぞって拾ってくれたんだYO!」



思った以上に真っ黒だった。ダウンコートなんて比じゃない。容疑者ではなく被告人である。

わたしってばどうかしてた。ジャガーさんのことをストーカーだと思っていたなんて。彼はただ不器用なだけ。本物のストーカーをこの目で見てしまってはジャガーさんのやったことなどかわいいものだ。



「あ、夢は警察官なんだって!あおいちゃんにぴったりでカッコいいYOね〜」



そのままお縄についてしまえ



男性が話している最中、例のあおいちゃんとそのお友達がちょうど通りかかった。本日2度目の噂をすればなんとやら。そしてお友達の渾身の一撃が決まり、男性は宙を舞った。

ジャガーさんは男性をのしたお友達とあおいちゃんに謝罪をした後、男性の首根っこを掴んでズルズル引きづりながらその場を去って行った。





(ピヨ彦くん)
(なんですか?)
(ジャガーさんって、いい人ですね)
(…そうですね)


back