「どうされました?」
その瞬間おれの胸にドッキューンとなにかが突き刺さった。こう、ドッキューンとした体験をしたきっかけはまたもやおれが財布をなくしたからである。
どこに行ったのおれの財布ちゃん。ようやく駅で見つけてもらったと思えば今度は道端でなくすかよ。せっかく美味と訊き駆けつけたコロッケが食えないじゃないか。
コロッケ店を目の前に、いらいらしながら財布を探していると、ドッキューンときたわけよ。
「じっ実はこの辺で財布を落としてしまいまして…」
「あらあら大変!わたしでよろしければお手伝いいたします」
言うやいなや、彼女は真っ白なワンピースにも関わらず、地面に膝をついておれの財布ちゃんを探し始めた。
「服が汚れてしまいますから大丈夫です」と言っても、「お洋服は洗濯をすればきれいになります。それより今はあなたの財布のほうが一大事です」と言ってきかない。
「あ。ありましたよ!」
彼女はコロッケ店と自動販売機の隙間から財布ちゃんを取り出す。
ウン、まさにおれの財布ちゃん!
「ありがとうございます!」
「いいえ。困ってるときはお互いさまですから」
天使だ、間違いなく天使だ。
きれいな服を汚してまで、しかもそれすら気にしていない様子で、ただただおれの財布ちゃんが見つかったことに喜んでくれている。天使だ。いや女神か。
「では、わたしはこれで。失礼します」
「あっあの!なにかお礼をさせてください!」
去ろうとした彼女の腕を掴んで一丁前に呼びとめてしまった。
ああ、なにしてんだおれ。おれみたいな奴に呼びとめられても仕方ないよな。きっとハテナッチやチョキオみたいな奴だったら彼女もいい思いをしただろうに。(絶対アンディーヌのことは言ってやらねえんだ、ムカつくから)
正直のところ、おれはモテた試しがない。
しかも呼び止めておいて「服もクリーニングとか…」と間が辛くなりごにょごにょ喋る始末。情けない。
「それならあなたのお名前を教えてくださいませんか?」
彼女はふわりと微笑んでおれとまた向き合ってくれた。おれは彼女の腕を離して頭をかく。
「れっレッサーっていいます!パンダはつけないレッサーっていいます!」
「レッサーさん。素敵なお名前ですね」
彼女はにっこり微笑むと、カバンからとりだした紙にすらすらとなにかを書いていく。
「わたしは苗字名前と申します。本日は予定がありますので、また次の機会にお茶でもいかがです?」
「それがお礼ということで」とその紙をおれに渡した彼女、苗字さんは笑顔で去って行った。おれはただメールアドレスと電話番号が書かれた紙を握りしめながら彼女の背中を見送る。
「せんべつだよ、あんちゃん」
そんな一部始終を見届けた、コロッケ店のおばちゃんにコロッケをタダでもらった。
噂どおりコロッケはおいしかった。
2019.09.13 fix.
メールアドレスとか時代を感じる。
ぱかぱか携帯時代なつかしい。