午前11時。はじめて出会ったコロッケ店前。
そこに来てもらうよう苗字さんにメールをした。もちろん、返信しなかった謝罪もつけて。
苗字さんはそれを快諾してくれた。返信しなかったことへのお咎めもなく、むしろおれの身体を気遣うようなメールだった。まさしく女神。
これで準備はオーケーだ。あとは気持ちを伝えるだけ。どんな結果になっても悔いなく受けとめると決めた。
そわそわしながら歩いていたらいつの間にかコロッケ店の前に着いていた。約束の時間10分前。苗字さんはまだ来ていないようだ。コロッケ店のおばちゃんは心配そうにおれを見つめている。(エスパーなのか、おばちゃんよ…)
「レッサーさん」
「苗字さん」
振り向けば、そこには苗字さんがいて。今考えれば苗字さんはお嬢さまのような格好をしてるじゃないか。なんてこんなこと考えてる場合じゃないか。
「お待たせしてすみません」
「いえ!おれも今来たところですよ」
「それならよかった」
ふふ、と上品に笑う苗字さんのなんと美しいものか。内面からもお嬢さまを感じる。
なかなか言い出せず沈黙が続く。早く言わなければ。苗字さんが不思議そうにこちらを見ているじゃないか。
「どこかお店に入りますか?ちょうど先日、レッサーさんと行きたいなと思っていたカフェが近くにありますので、よろしければそこへ…」
「いっいえ!こ、ここでいいです!」
思わず苗字さんの腕を掴んでしまった。
なにやってんだおれ!苗字さん、驚いてるじゃないか!っていうかおれと行きたいと思ったカフェってなに!初耳!!
考えるなレッサー!いまこそ好機!
勢いに任せて言え!おれ!
「おっおれ、苗字さんが好きです!」
言った、言っちゃった、言っちゃったよオイ!
当然苗字さんは驚いた顔をしていて。たくさん驚かせてすいません。
「苗字さんに彼氏がいても、苗字さんにおれが釣り合わなくても、健気に財布ちゃんを拾ってくれたあの時から、苗字さんが好きです!」
ああ、なんてカッコ悪い告白なんだろう。
告白ってのはなんかこうもっとスマートにいくもんじゃないのか。自分のカッコ悪さに落胆し、苗字さんの腕を離した。
「レッサーさん」
腕を離したはずだ。しかしまだおれの手は彼女の手と繋がっている。厳密に言えば、彼女の両手がおれの手を包み込むようにして握っていた。
なんだ?これはなにが起こってるんだ?
「わたしも、すきです」
微笑みながらもうっすら涙を浮かべ、こちらをまっすぐ見つめて苗字さんは言った。聞き間違いじゃなければ、好きだと言った。
「え…でもあの、彼氏は?」
「おつき合いをしている方はいません」
「じゃあ昨日会社の前で見かけたあの男性は?」
「昨日会社の前で?ああ、あの子は弟です」
なんだ。とんだ勘違いだったわけだ。
つまり苗字さんに彼氏はいない。よかった。
なんて、ほっとしている場合ではない。最後くらいカッコよく決めなければ男が廃る!
「苗字さん、おれとおつき合いしてください!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
愛しさ爆発して思わず苗字さんを抱きしめた。苗字さんもおれの背中に手をまわし応えてくれた。
ああおれはいま世界一幸せです。
アンディーヌ、今日だけはレッサーパンダって呼んでも許してやるよ。
「熱いね、おふたりさん」
コロッケ店のおばちゃんがふたつ分のコロッケをタダでくれた。