二人は有名な滝に立ち寄ると、次に瑠璃が行きたいと言った石で出来た教会に立ち寄ることにした。
天喰は教会というイメージから想像していた建物と異なる風貌に目を瞠った。


「「無教会思想」っていうのを提唱した人の記念堂にもなってるんですって」
「それってたしか……形や主義にとらわれず、人々が祈りたいと思った場所こそが教会だっていう思想だったっけ。なるほど」
「本当、環くんって頭いいわよね。私予め調べてなきゃわからなかったわ」
「いや、俺もヒーローになるのにこういうのは役立つかなって思って調べてなかったら……分からなかったと思う」
「へぇ、立派ね。いいんじゃない、そういうの。こういうのってその人の人間性に深みを持たせるものなんじゃないかしら。少なくとも私はそう思うわ」
「瑠璃ちゃん……ありがとう」

照れたような、嬉しそうな顔をする天喰に瑠璃は「思ったことを言っただけ」だと返す。
軽井沢に行くと決まった当初はここに来る予定はなかった。だってちっとも華やかじゃないから。特徴的なデザインをしているけれど地味の一言に感想は集約される。それは実際見てもそうだったけれど、無教会思想自体は悪くないかもしれないと思う自分がどこかにいた。
自分で自分の感想に変なのと思いつつ、瑠璃は「お土産買いに行きましょ」と天喰と繋いだ手を引っ張るのだった。










途中でコーヒーのソフトクリームを買って食べると、お土産屋さんであーでもないこーでもないとお土産を選んでいた。瑠璃は軽井沢でいい思いをさせてもらったため母にたくさんのお土産を持って帰ろうと決めていたし、ついでに心操くらいにはお土産を渡してもいいかもしれないと思いながら選んでいた。
対して天喰は家族と通形に渡そうと思い、いい感じのお菓子を探していた。


「これ可愛いわね。フルーツソース……ヨーグルトとかパンケーキにかけるとよさそう。これと……あ、このバターサンドも。ケーキみたいでオシャレね。ママが喜びそう」
「瑠璃ちゃん、こっちにここで採れたハーブのジャムがあるよ。どうかな?」
「いいわね。ママは香りが良いものも好きだから気に入ると思うわ」
「それならよかった」

ひょいっと天喰が持つ籠の中に入れていく。天喰はその途中で目に付いた個包装の半熟のチーズケーキをお土産にすることにした。
瑠璃もちょうどいいと思ったものがあったようで、丸い箱に入ったお菓子を入れていた。


「これで私のは終わったわ。環くんは?」
「俺も終わったよ」
「じゃあ任務完了ね。ホテルに戻って夜に備えましょ。今日は忙しいわよ」
「ホタル観賞とキャンドルナイトだもんね。わかってるよ」

はやくはやくと会計まで引っ張る瑠璃に天喰は笑った。年下の女の子だなぁ、と可愛くてしょうがなかった。











ホタルの活動時間を考えて、二人は早めのディナーを終えるとキャンドルナイトに向かった。
沢山のランタンで彩られた教会はそれはそれは美しく、瑠璃も「綺麗ね」と言って天喰に笑いかけていた。


「うん……綺麗だ」

この光景も、はしゃぐ瑠璃も。もっとも、瑠璃はキャンドルナイトに夢中でその隠された言葉には気づかなかったのだけれど。

鑑賞を楽しんだ後、二人は当初の目的であったランタン散策に乗り出した。一つのランタンを二人で持ってキャンドルの森を散策するのだ。カップルに人気の催しだった。
薄暗い森の中をキャンドルと手元のランタンが仄かに照らす。まるで非日常だった。幻想的な空間に鈴虫の声が溶け込む。瑠璃の歩幅に合わせてその空間をゆったりと歩いた。


「ここは静かね」
「うん。自然豊かなところだから、何だか別世界にいるみたいだ」

天喰が別世界と言ったところで瑠璃も「そうね」と同意する。
本当に別世界にいるようだった。街の喧騒もここには聞こえてこなくて、鈴虫の鳴く音と、広がる青みがかった夜空に浮かぶ星々がまるで地球ではないどこかにいるように錯覚させていた。


「環くんって、ちょっとロマンチストよね」
「え、そうかな?」
「そーよ。でもそういうの、嫌いじゃないわ」

ロマンチックな恋は素敵でしょうと瑠璃が微笑む。ランタンとキャンドルの仄かな明かりがその横顔を照らす。天喰の心臓が早鐘を打つ。瑠璃と出会ってからずっと天喰の心臓は忙しない。些細な肯定が嬉しくて、弄ぶその微笑みに振り回される。その美しさに目が離せなくて、けれどこの手に止まってくれと捕まえるなんていう度胸はなくて、どうか近くでまた見れますようにと願う日々だった。


(俺も……君のことが――)

もうすぐゴールだった。天喰はその言葉を一旦胸にしまって今度はホテルに戻っていく。見頃であろうホタルの時間が迫っていたから。

なんて、結局そちらでも言えなかったし、夜も夜で今度ばかりは瑠璃に一緒に寝ようと押されて断れなくて、またしても一睡もできない未来が天喰には待っているのだった。

二泊三日の軽井沢の旅はこうして終わる。
秋にまた来ようという約束は――敵連合にまたしても1年生が襲撃を受けたことで叶わなかったのだけれど。


 


戻る
top