軽井沢から帰ってすぐ、神野のことがありオールマイトが引退した。それに伴い、度重なる連合の襲撃を雄英が受けたことから寮制度が導入することになるのだった。
瑠璃のところも担任が家庭訪問をし、事情説明と寮導入への理解を申し出ていた。母は実にあっけらかんとした様子で「はい、これからも娘をよろしく頼みますわ」と言って快諾し、瑠璃も滞りなく入寮が決まるのだった。

そうしてそれからすぐ、夏休み途中であるが完成した寮へ移り住むことになる。
瑠璃が家を出る時に母はただ一言「寮じゃ大変でしょうけど、上手く遊びなさい」とどこまでも母らしい激励をしてくれた。「そうね、上手くやるわ」笑って返した瑠璃の脳裏には、慌てる天喰の姿が浮かんでいた。










担任に寮の中を案内され終わると、瑠璃は心操にお土産を渡そうと声をかけようとして、ふとその微妙な変化に気づいた。


「あら、心操……ちょっと逞しくなったんじゃないかしら?」
「え、そんな変わった?」
「ええ。前は身長はあるのにわりともやしだったわよ」
「もやし……」

容赦のない瑠璃のはっきりした物言いに心操は密かにショックを受けていた。
瑠璃はやっぱり見間違えじゃないと確認すると、筋トレにでも目覚めたのだろうかと思いつつ、バッグからチョコレートボックスを取り出した。


「え、なに……」
「中に個包装されたチョコレートが入ってるわ。キャンディみたいな見た目だけど、チョコレートよ」
「何で急に」
「旅行のお土産。あなたには少しお世話になったから。そのお礼よ」
「……ああ、あの時の。なるほど。そういうことならまぁ、ありがたく頂戴するよ」

心操の言葉に瑠璃は「ええ、有難く思ってね」とにこりと笑って手渡した。
心操は相変わらずの瑠璃の高飛車具合に「おまえはそうだよな」と呆れた目を向けた。


「例の先輩とはどうなったの。まだ付き合ってる?」
「ええ、付き合ってるわ。このお土産の旅行も一緒に行ったの」
「へぇ、何だかんだ上手くいってんだ。よかったじゃん」
「……まぁ、そうね」

心操は揚羽だもんな、旅行くらい行くかと思って上手く続いている様子に感心していたが、瑠璃の返答が瑠璃にしては歯切れが悪かったことに違和感を覚えた。
「当たり前でしょう」とツンと高飛車に言い返して来ると思っていたのに、何だかもじっとした様子が瑠璃らしくなかった。どうしたのおまえと言葉にせずに思っていると、瑠璃から意外な言葉が出た。


「前に心操が言ってたあれ……」
「あれ?」
「愛の形は人それぞれってやつよ」
「ああ……うん、それが?」
「……少しだけ、私にも掴めたかもしれないわ」

思わずもらったチョコレートボックスを落としそうになった。それくらいの衝撃だった。
あれほど愛情表現にうるさかった瑠璃が、不満を抱えていた瑠璃が、それを理解まではいかなくとも掴みかけたというのは予想だにしなかったのだ。
瑠璃は少しだけ照れた様子で顔を背けると、やはり高飛車に言い放つ。


「だから……ありがと。また、相談に乗ってよね」
「……まぁ、俺でよければ」
「言ったわね? やっぱやめたなんて聞いてあげないんだから」
「はいはい。女王様の仰せのままに……」

随分気怠い声だったけれど、瑠璃はそれでも十分満足したらしい。「じゃあまた後で」と笑顔で手を振られる。
それに軽く頷いて心操は自分の部屋作りに向かうのだった。それを見送ると瑠璃は天喰とのトーク画面を開き「すぐに着て。1年C組の寮」と送った。すぐに既読がついて「分かった」とメッセージが送られてくる。それを確認すると瑠璃はのんびり共有スペースのソファで天喰を待つのだった。







すぐに天喰から到着の連絡が来て瑠璃は予想よりずいぶん早かったと思いながら玄関を開けた。
そこには息を切らして切羽詰まったかのような表情をした天喰がいて、瑠璃は小首を傾げる。瑠璃がどうしたのかと聞く前に天喰が勢いよく話しかけてきた。


「瑠璃ちゃん無事!?」
「え? ええ?」
「どこも怪我してない? 不審者でもいたの? それとも虫? 何かトラブルがあったんじゃ……」

心配げな表情を浮かべる天喰に瑠璃は合点がいった。
天喰は瑠璃がすぐに来るように言ったから、入寮初日ということもあり何かあったのではと心配して飛んできたようだった。瑠璃はそれに少しだけ笑って説明する。


「何もないわ。ただ、引っ越しって大変でしょう? 手伝ってもらおうと思って呼んだの」
「……ああ、そういう。確かに大変だ」
「ごめんなさいね。言葉足らずだったわ」
「いや、そんな。俺が勝手に早合点しただけだから……瑠璃ちゃんに大事がなくてよかった」

心底ほっとしたように肩を撫で降ろす天喰に瑠璃は胸に温かいものが流れ込んでいくのを感じる。
少しだけ掴みかけている。心操が言っていたそれぞれの愛の形とやらを。情熱的な愛の言葉はまだ囁けないし、情熱的な口付けも、抱擁も出来ないけど、それがなくても愛を感じることが出来始めていたのだった。


「手伝ってくれる?」
「もちろん。君の役に立てるのなら喜んで」

天喰がまだまだぎこちなく片手を差し出した。瑠璃がその手に片手を乗せるとそのまま瑠璃の部屋へと消えていく。
瑠璃にとっては亀の歩みだけれど、少しずつ変わっていっている。指先から伝わるその温度に慣れるのもきっとすぐだろう。だって寮生活は始まったばかりなのだから。


 


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