駆け込み相談所
心操は心底面倒なことになったとげんなりしていた。彼氏の寮に行っていたはずの瑠璃が大層荒れた様子で寮に戻って来たと思えば、共有スペースにたまたまいた心操を無言で引っ掴んで自分の部屋に連行したのだ。
心操は当然抗議した。いきなり無言で連れていかれるのも、その連れていかれる先が女子の部屋……それも彼氏持ちの部屋であるのも。色々問題しかない。けれど瑠璃はその一切を無視して、黙って話を聞けとどこまでも傍若無人であった。
「はぁ……もうここまで来たからには諦めるけど、何があったんだよ」
「環くんと別れる」
「それはまた唐突なことで。ちょっと前まで順調だったんじゃないの?」
「ちっとも順調なもんですか」
いやおまえ掴み始めたって言ってなかったっけと心操は内心でため息を吐いた。俺でよければなんて気軽に言うもんじゃないと先の自身の言葉を若干後悔した。
瑠璃はそれはそれは不満たらたらに語る。
「私という最高のお姫様がいるのに、他の女と仲良くするなんてあり得ないわ!」
語気荒くあり得ないと吐き捨てた瑠璃に心操はどこから突っ込もうかと考える。
最高のお姫様って自分で言うんだなと呆れるが、まぁ揚羽だしなと納得する。瑠璃のことを傲岸不遜、傍若無人の具現化だと心操は思っているので。ならば突っ込むのはここだろうとだるいなと思いつつ会話する。
「……色々ツッコミどころがあるけど、仲良くって?」
「環くんったら、私がいやだって言ってるのにぐいぐい来る女のこと遠ざけないし、それになんかあの女に気を遣ってたの!」
思い出し怒りをしたのか、更に荒れる瑠璃に辟易としつつ、情報が少なすぎると頭を抱えた。具体例を出せよ。けどこれに下手に突っ込むのも瑠璃が面倒だ。
瑠璃の性格と、天喰のあのスタンスから何とか辺りをつけることにした。
「えーっと、要するに、彼氏にアプローチしてきた人がいて、彼氏はそれを断り切れなかったってことか?」
「違うわ! 環くんがそんなにモテるわけないじゃない! 普段情けないところばっかなのに!」
「(……おまえ彼にも彼氏だろ)じゃあ、なに。まさかと思うけど……その人は……おまえと仲良くなろうとしてたの?」
瑠璃は返事こそしなかったが、苦虫を嚙み潰したよう顔をしたのでビンゴかと心操は察した。正直ドン引きだった。彼氏にちょっかい出されたなら怒るのも分かるが、自分と仲良くしようとしてくれる人に対してこれとは……だからおまえ友だちいないんだよなと思った。
「その人の何がそんなに嫌だったの? 威圧的な感じだった?」
心操の問いに小さく首を振る瑠璃にじゃあ、と質問を変える。
瑠璃が嫌うタイプの女とくれば、もうこれしかなかった。
「可愛い感じだったんだ? こう、守ってやりたくなるような」
「……心操もそっちがいいのね」
「いや、なんも言ってないけど」
「だってすぐに出たじゃない。私何も言ってないのに」
「何もってことはないよ。おまえが嫌いそうなタイプなんて後はこれしかないだろ」
心操の言葉に納得したのか瑠璃は少し迷って、小さく首を上下させた。肯定だ。
心操はこの情報を頭に入れて今一度整理する。可憐なタイプの人で、見るからに接しにくい瑠璃とも仲良くなろうとしてくれること自体、心操はすごいなと思ったが、それが瑠璃は嫌だったらしい。瑠璃のことだから話しかけないでという雰囲気は出していたのだろう。それでもめげない辺りハート強いなと思うが、やめてほしくて彼氏に嫌だって伝えているものの、肝心な彼氏は動いてくれなかったという。そして気遣うというのはおそらく、瑠璃の態度がよくないので申し訳なさそうにしていたのだろう。彼女の不愛想をごめんという意味で。
そこまで考えて、心操はため息を吐いた。
「揚羽さ、彼氏にその人のことが嫌って伝えたのは分かったけど「遠ざけて欲しい」とか「もう話しかけて欲しくない」とか伝えた?」
「……伝えてないわ」
「じゃあそれだよ。俺ら男はさ、女のこうしてほしい、ああしてほしいを察するってのが苦手なんだ。嫌ってだけじゃ、ただ単に相性悪いんだな、嫌いな人なんだなって情報しか入らない。そこから動くってのは……大分勇気もいる。女社会って結構複雑だろ。男が下手にしゃしゃり出るわけにもいかないっていうか……」
心操なりに大分言葉は選んでいた。正直天喰がここまで考えていたかは分からないのだが、個人的に心操は天喰の味方がしたかった。だって揚羽のそれで察して動けってのは無理あるし。
心操の説明を瑠璃は聞いていたが、納得はできていなかった。
「いやよ、彼氏なら私の味方してくれないと」
「味方って……具体的にどうしてほしかったの」
「あの女がもう私に寄らないようにしてほしかったし、もうあの女と話してほしくなかった……」
「前者はともかく、後者は無理でしょ。同じクラスなんだから」
「でもそんなのいやだわ」
心操はこれが味方っていうのかと若干辟易とした。間違いなく瑠璃は面倒な女だ。
そして別れるとまで言いだした瑠璃が天喰にそう言った不満をぶつけていないとも思えなくて、乗り掛かった舟だと無理やり思い込んで、更に地獄へと一歩足を沈めた。
「彼氏に何て言ったの」
「……私とその女どっちを取るのか選んでって言ったわ。縁切ってくれないなら別れるって」
「……揚羽、おまえね。それはさすがにやりすぎだろ」
明確に心操に否定されて瑠璃は思わず涙ぐんだ。それに心操はげっと思うが仕方ないと思い、テーブルにあったティッシュボックスから数枚引っ張って差し出しながら話を続けた。
「仲良さそうに見えたの?」
「……ええ」
「本当はぐいぐい来られたことより、そっちの方が嫌だった?」
「……うん」
「うん、そっか。それは嫌だったね」
心操の問いに瑠璃は頷く。そうして心操からの肯定に瑠璃はまたぽろっと涙を零した。
心操は思っていたより二人は上手くいっていたんだなと思った。じゃなきゃここまでにはならなかっただろうから。
「後悔してる? 別れるって言ったの」
「……分からないわ」
「自分を取ってもらえないかもしれないとは思わない?」
「……それはいやだわ」
「うん、今ので十分わかったよ」
おまえでも不安になることあるんだなと心操は思った。今までの瑠璃なら何言ってるの、そんなことあるわけないじゃないと高飛車に言い放っていただろう。思ったより彼氏のこと好きだった。
それなら手助けしてやらないわけにはいかないなと思う。これでもヒーロー志望なので。お節介はヒーローの本質だから。
「謝れる?」
「……いや。環くんから来てくれないなら意味ないもの」
「なんで?」
「……好きが見えないから。環くん、追いかけてきてくれなかった」
「……そっか、それなら仕方ないな」
天喰がどうして追いかけなかったのかは分からないけれど、瑠璃が言葉や行動がないとダメなのは心操も十分わかっている。だからそれなら仕方ないと頷いた。
瑠璃が求めているのは天喰からの愛だから。
だから少しだけ、瑠璃が歩み寄れる手伝いをしようと思った。これしか自分には出来そうもないから。
「でもな、揚羽。これだけは覚えてて」
「……なぁに?」
「揚羽が言ったのは、俺と縁を切れって言ったようなもんだよ。俺たちの間には怪しいものはないけど、傍からはそう見える可能性もあるってこと。揚羽は俺と縁切れる?」
瑠璃の顔が歪む。俯いて小さく横に首を振る姿に心操はしょうがないなという顔をした。
当人同士ではあまりわからないものだ。心操はここで「私はいいの」と瑠璃が言いださなかったことにも変化を感じていた。あのカラオケボックスから瑠璃の心境にも変化が起きているらしい。
「だから、そこはちょっと寄り添ってやって。大丈夫だよ、おまえ意外と頑張れるタイプだから」
「……そう?」
「そう」
心操の間髪入れない肯定に瑠璃は少し悩んで「……わかったわ」と答える。
それが瑠璃なりの頑張るということだと心操は受け取って、瑠璃を応援するのだった。
心操は当然抗議した。いきなり無言で連れていかれるのも、その連れていかれる先が女子の部屋……それも彼氏持ちの部屋であるのも。色々問題しかない。けれど瑠璃はその一切を無視して、黙って話を聞けとどこまでも傍若無人であった。
「はぁ……もうここまで来たからには諦めるけど、何があったんだよ」
「環くんと別れる」
「それはまた唐突なことで。ちょっと前まで順調だったんじゃないの?」
「ちっとも順調なもんですか」
いやおまえ掴み始めたって言ってなかったっけと心操は内心でため息を吐いた。俺でよければなんて気軽に言うもんじゃないと先の自身の言葉を若干後悔した。
瑠璃はそれはそれは不満たらたらに語る。
「私という最高のお姫様がいるのに、他の女と仲良くするなんてあり得ないわ!」
語気荒くあり得ないと吐き捨てた瑠璃に心操はどこから突っ込もうかと考える。
最高のお姫様って自分で言うんだなと呆れるが、まぁ揚羽だしなと納得する。瑠璃のことを傲岸不遜、傍若無人の具現化だと心操は思っているので。ならば突っ込むのはここだろうとだるいなと思いつつ会話する。
「……色々ツッコミどころがあるけど、仲良くって?」
「環くんったら、私がいやだって言ってるのにぐいぐい来る女のこと遠ざけないし、それになんかあの女に気を遣ってたの!」
思い出し怒りをしたのか、更に荒れる瑠璃に辟易としつつ、情報が少なすぎると頭を抱えた。具体例を出せよ。けどこれに下手に突っ込むのも瑠璃が面倒だ。
瑠璃の性格と、天喰のあのスタンスから何とか辺りをつけることにした。
「えーっと、要するに、彼氏にアプローチしてきた人がいて、彼氏はそれを断り切れなかったってことか?」
「違うわ! 環くんがそんなにモテるわけないじゃない! 普段情けないところばっかなのに!」
「(……おまえ彼にも彼氏だろ)じゃあ、なに。まさかと思うけど……その人は……おまえと仲良くなろうとしてたの?」
瑠璃は返事こそしなかったが、苦虫を嚙み潰したよう顔をしたのでビンゴかと心操は察した。正直ドン引きだった。彼氏にちょっかい出されたなら怒るのも分かるが、自分と仲良くしようとしてくれる人に対してこれとは……だからおまえ友だちいないんだよなと思った。
「その人の何がそんなに嫌だったの? 威圧的な感じだった?」
心操の問いに小さく首を振る瑠璃にじゃあ、と質問を変える。
瑠璃が嫌うタイプの女とくれば、もうこれしかなかった。
「可愛い感じだったんだ? こう、守ってやりたくなるような」
「……心操もそっちがいいのね」
「いや、なんも言ってないけど」
「だってすぐに出たじゃない。私何も言ってないのに」
「何もってことはないよ。おまえが嫌いそうなタイプなんて後はこれしかないだろ」
心操の言葉に納得したのか瑠璃は少し迷って、小さく首を上下させた。肯定だ。
心操はこの情報を頭に入れて今一度整理する。可憐なタイプの人で、見るからに接しにくい瑠璃とも仲良くなろうとしてくれること自体、心操はすごいなと思ったが、それが瑠璃は嫌だったらしい。瑠璃のことだから話しかけないでという雰囲気は出していたのだろう。それでもめげない辺りハート強いなと思うが、やめてほしくて彼氏に嫌だって伝えているものの、肝心な彼氏は動いてくれなかったという。そして気遣うというのはおそらく、瑠璃の態度がよくないので申し訳なさそうにしていたのだろう。彼女の不愛想をごめんという意味で。
そこまで考えて、心操はため息を吐いた。
「揚羽さ、彼氏にその人のことが嫌って伝えたのは分かったけど「遠ざけて欲しい」とか「もう話しかけて欲しくない」とか伝えた?」
「……伝えてないわ」
「じゃあそれだよ。俺ら男はさ、女のこうしてほしい、ああしてほしいを察するってのが苦手なんだ。嫌ってだけじゃ、ただ単に相性悪いんだな、嫌いな人なんだなって情報しか入らない。そこから動くってのは……大分勇気もいる。女社会って結構複雑だろ。男が下手にしゃしゃり出るわけにもいかないっていうか……」
心操なりに大分言葉は選んでいた。正直天喰がここまで考えていたかは分からないのだが、個人的に心操は天喰の味方がしたかった。だって揚羽のそれで察して動けってのは無理あるし。
心操の説明を瑠璃は聞いていたが、納得はできていなかった。
「いやよ、彼氏なら私の味方してくれないと」
「味方って……具体的にどうしてほしかったの」
「あの女がもう私に寄らないようにしてほしかったし、もうあの女と話してほしくなかった……」
「前者はともかく、後者は無理でしょ。同じクラスなんだから」
「でもそんなのいやだわ」
心操はこれが味方っていうのかと若干辟易とした。間違いなく瑠璃は面倒な女だ。
そして別れるとまで言いだした瑠璃が天喰にそう言った不満をぶつけていないとも思えなくて、乗り掛かった舟だと無理やり思い込んで、更に地獄へと一歩足を沈めた。
「彼氏に何て言ったの」
「……私とその女どっちを取るのか選んでって言ったわ。縁切ってくれないなら別れるって」
「……揚羽、おまえね。それはさすがにやりすぎだろ」
明確に心操に否定されて瑠璃は思わず涙ぐんだ。それに心操はげっと思うが仕方ないと思い、テーブルにあったティッシュボックスから数枚引っ張って差し出しながら話を続けた。
「仲良さそうに見えたの?」
「……ええ」
「本当はぐいぐい来られたことより、そっちの方が嫌だった?」
「……うん」
「うん、そっか。それは嫌だったね」
心操の問いに瑠璃は頷く。そうして心操からの肯定に瑠璃はまたぽろっと涙を零した。
心操は思っていたより二人は上手くいっていたんだなと思った。じゃなきゃここまでにはならなかっただろうから。
「後悔してる? 別れるって言ったの」
「……分からないわ」
「自分を取ってもらえないかもしれないとは思わない?」
「……それはいやだわ」
「うん、今ので十分わかったよ」
おまえでも不安になることあるんだなと心操は思った。今までの瑠璃なら何言ってるの、そんなことあるわけないじゃないと高飛車に言い放っていただろう。思ったより彼氏のこと好きだった。
それなら手助けしてやらないわけにはいかないなと思う。これでもヒーロー志望なので。お節介はヒーローの本質だから。
「謝れる?」
「……いや。環くんから来てくれないなら意味ないもの」
「なんで?」
「……好きが見えないから。環くん、追いかけてきてくれなかった」
「……そっか、それなら仕方ないな」
天喰がどうして追いかけなかったのかは分からないけれど、瑠璃が言葉や行動がないとダメなのは心操も十分わかっている。だからそれなら仕方ないと頷いた。
瑠璃が求めているのは天喰からの愛だから。
だから少しだけ、瑠璃が歩み寄れる手伝いをしようと思った。これしか自分には出来そうもないから。
「でもな、揚羽。これだけは覚えてて」
「……なぁに?」
「揚羽が言ったのは、俺と縁を切れって言ったようなもんだよ。俺たちの間には怪しいものはないけど、傍からはそう見える可能性もあるってこと。揚羽は俺と縁切れる?」
瑠璃の顔が歪む。俯いて小さく横に首を振る姿に心操はしょうがないなという顔をした。
当人同士ではあまりわからないものだ。心操はここで「私はいいの」と瑠璃が言いださなかったことにも変化を感じていた。あのカラオケボックスから瑠璃の心境にも変化が起きているらしい。
「だから、そこはちょっと寄り添ってやって。大丈夫だよ、おまえ意外と頑張れるタイプだから」
「……そう?」
「そう」
心操の間髪入れない肯定に瑠璃は少し悩んで「……わかったわ」と答える。
それが瑠璃なりの頑張るということだと心操は受け取って、瑠璃を応援するのだった。
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