恋は人を変えるというけれど
瑠璃が部屋から出て行ってからの天喰はというと、端的に言うと死んでいた。正にこの世の終わり。地球滅亡の日に直面したかのような絶望感。あまりの衝撃に瑠璃を追いかけようにも身体に力が入らず、立ち上がることすら困難であった。
そう、追いかけなかったのではなく、追いかけられなかったのである。
「ど、どうしよう……瑠璃ちゃんを傷つけてしまった……いやでも、だからって波動さんと縁を切るなんてそんな……」
瑠璃の失望と確かに傷ついたような目に天喰はショックを受けていた。ただ単に苦手とかそういうものではなかったのだ。そんなに波動さんダメだったんだと驚いたけれど、よくよく考えると確かにあんなにいつまでも機嫌の悪い瑠璃も珍しい。ただ単にわがままをいうならまだしも、瑠璃はその逆だった。
わがままを言わず、黙って拗ねている。天喰があれこれ瑠璃の世話を焼くことで何とか回復していた日々。それを思い出してなおさら後悔が押し寄せてきた。
(何で俺はもっとちゃんとしてあげなかったんだ……)
波動が良い人間だと天喰は知っている。好奇心旺盛で不思議に思ったことを何でも聞いてしまうけれど、波動は優しく、人を思いやれるいい人なのだ。
今回のクッキーだって瑠璃と少しでも打ち解けようと瑠璃が好きな紅茶のクッキーをわざわざ作ったくらいだ。それだって元々は、天喰が瑠璃と付き合うことになったとクラスに知れ渡って、瑠璃の噂を心配したり、天喰がそれを否定したことで応援ムードになった経緯があるのだ。
瑠璃が女子と行動を共にする姿を見た者は誰もおらず、天喰もそれを肯定したため余計同性の先輩として目をかけてくれているのだろう。だから天喰自身、どこかで楽観視してしまっていた。
瑠璃が何だかんだ優しかったから、波動とだっていつか打ち解けられるだろうと、その気持ちが伝わるだろうと思ってしまったのだ。
(心配だったなんて……余計なお世話だ。瑠璃ちゃんがそのことで悩んでたことなんて……ないんだから……)
寮生活になって前よりずっと一緒にいることが増えた。
瑠璃は時間ができれば天喰と一緒にいたがったし、たまにクラスの様子とかを聞いても話に出てくるのは、何だかんだ付き合いのいい誰かの話だけだ。その誰かが誰なのかも、天喰はずっと瑠璃を見ていたから分かっていた。
そこまで考えて、はたと天喰は思い当たってしまった。
「もしかして俺は……心操くんに醜い嫉妬をして……瑠璃ちゃんの交友関係を広げようと思ってしまったんだろうか……だから、瑠璃ちゃんの違和感を感じ取れなかったんじゃ……」
ふと浮かんだ疑念さえも悪い方に考えてしまう。後悔どころではなかった。天喰は顔を真っ青にさせて「死ぬしかない……万死に値する……」と呟いていた。
それはかなりの時間が経って、夕飯にも顔を出さない天喰を心配したクラスメイトが天喰の部屋を訪ねに来るまで続いたのだった。
瑠璃と連絡を取ろうにも、瑠璃は自分か波動か選べと言って出て行ったのだ。天喰は瑠璃のために波動との縁切りに踏み出すことが出来なかったし、だからと言って波動を選んだわけでもない。天喰の心は依然として瑠璃のものであったが、それで瑠璃が納得してくれるとは思わなかった。
そんなこんなで連絡できず、当然瑠璃の方からも連絡はなく、このまま自然消滅してしまうのではと天喰は不安に震える日々を過ごすことになるのだった。
天喰のあまりに死にそうな顔に一緒にインターンに来ていた切島とインターン先のヒーロー、ファットガムは顔を見合わせた。
「なんや環。辛気臭い顔しよって。あのー瑠璃ちゃんとついに別れたんか?」
「う゛っ」
「え、ほんま? 当てずっぽうやったんけど……堪忍な」
適当に言ったものの、あまりの天喰のダメージ具合にファットガムはやってしもたという顔をした。
切島が「先輩彼女いたんスね」と思ったことを口にするとファットガムが説明してくれた。
「瑠璃ちゃん言うてえらいな別嬪さんやったんけどな……結構性格きつくてな。環はいつも振り回されとってなァ……まぁ、それすら幸せそうやったんけど……ついにかぁ……」
「ま、まだ別れたと決まったわけじゃ……」
「ほんなら喧嘩か?」
「喧嘩というか……なんというか……」
歯切れの悪い天喰にファットガムが「いいから言うてみぃ」と声をかける。切島も「俺も相談なら乗るっス!」と気合十分に拳を突き合わせた。
天喰がそれに背中を押されるように、ぽつりぽつりと今まであったことを話すのだった。
「いやぁ……ザ・瑠璃ちゃんって感じやな!」
「それ、結構きつくないスか? 何もやましいことねぇのに疑われるなんて……その上縁切れって……先輩の彼女のこと悪く言いたかねぇけど、流石に行き過ぎじゃ……」
「まぁ瑠璃ちゃんやし。むしろ俺は今までよう言い出さんかったな思うで」
「ええっ……」
たこやきを食べながら納得するファットガムに切島は嘘だろという目を向けた。天喰の彼女が濃すぎてついていけていなかった。ファットガムが「切島くんも瑠璃ちゃんの顔見たら分かるで。別嬪さんやから。環、見せたり」と言うので相談に乗ってもらっている手前、天喰も大人しくスマホを差し出して瑠璃の写真を見せるのだった。
「えっ……瑠璃って、揚羽か!」
「切島くん知ってるん?」
「知ってるっつーか……A組 でも可愛いっていうやつ多いんで……」
切島がそう言うと天喰は「やっぱりそうだよね……」と落ち込んだ。改めて突き付けられる瑠璃の人気に「やっぱり俺にはもったいない人だ……」といつものネガティブモードに突入してしまうのだった。
その様子に切島は慌ててフォローする。
「いやでも付き合ってるのは天喰先輩っスよね!? 俺らのはほら、可愛い女子見たら可愛いなぁって思うだけっつーか、深い意味はないんで!」
「うそだ……あんなに可愛い瑠璃ちゃんを見て可愛いだけで済むはずがない……一目見たら忘れられないはずだ……月も花も彼女の前ではすべてが霞んでしまう……可愛いだけで済むはずがないんだ……」
「せ、先輩……」
「あかん、ほっとき。こうなるとなんも聞こえてへんから」
あまりにも重症だった。不治の病にかかっている天喰に切島は何と声をかけていいのかわからなかった。
ファットガムが慣れたように切島に「ま、たこ焼きでも食べ」と勧めていた。その間も天喰は帰ってくる気配はなく、ブツブツと瑠璃がどんなに美しいかを語っていたが無視した。
「まぁ、あの通り環は瑠璃ちゃんにベタ惚れでなぁ。付き合う前からあんな感じなんよ」
「へ、へぇ……じゃあ先輩、本当に好きな人と付き合ってんスね。いいっスね、そういうの」
「そやねんけど、瑠璃ちゃんのクセも強いからなぁ……前途多難な恋ではあるなぁ」
「あー……まぁ」
先ほど聞いた天喰と瑠璃の間にあったことといい、切島はその前途多難具合に何とも言えない顔をした。
天喰は自分が悪かったと主張するが、だからって縁を切れは行き過ぎだと切島は思う。けれどこの分では瑠璃の悪いところを指摘したって納得しないだろう。むしろ瑠璃ちゃんは悪くないと言われかねなかった。
恋愛のことは正直よくわからない。けれど、切島は何もしなければ何も変われないということをよく知っていた。
バシンと強く自身の両頬を打つ。ファットガムが「うおっ、なんや!?」と驚いた。切島はずんずんと天喰の前に進み出ると「先輩!」と声をかけた。
「な、なに……切島くん」
「俺、恋とかはよくわかんないんスけど!」
「う、うん……?」
「その環先輩の揚羽が好きって気持ちは本人に伝えた方がいいと思うっス!!」
ド正論だと天喰とファットガムの心が一つになった瞬間であった。
天喰は切島のあまりに真っ直ぐな姿勢に眩しさを覚える。本当に太陽のような人だ眩しすぎてくらくら眩暈すら覚える。そしてそれが出来たら苦労しないよとも思った。
瑠璃の望む愛情表現を出来るように天喰なりに奮闘してはいるものの、やはり亀の歩みだった。好きだとも、愛しているともなかなか口にできない。だからこそ瑠璃を余計に傷つけてしまったのだと思う。
(察してもやれない、愛情表現も満足にできない……こんなの、瑠璃ちゃんが愛想を尽かすのも当然だ……)
どよーんと沈む天喰に切島がぎょっとするが、やはり切島も引き下がらなかった。何故なら切島はどこまでも漢であるから。漢らしく、それはもう豪快に天喰をまたも豪快な言葉でぶん殴った。
「まだ終わってないんスよね!? まだ別れてねぇってんなら、いくらでも今からでも挽回できるはずっス!」
「切島くん……」
「つか、終わっててもそんなに好きなら諦めちゃだめっスよ! 諦められねぇのは自分自身が一番知ってるはずだ! 諦められねぇなら今踏ん張って行くしかないんス! 後悔してもいいんスか!?」
切島のその言葉は妙に真に迫ったものだった。
天喰はその言葉に背中を押されるのを通り越して、弱い自分を殴りつけてもらった気分になった。もし、瑠璃に愛想を尽かされて別れることになっても、諦められない。きっと自分は往生際悪くいつまでも瑠璃を好きでいるだろうと容易に想像できた。
後悔なんて、していいわけがない。もっとああしていれば瑠璃が傷つかなかったと後悔するのは、もう嫌だった。
「ありがとう……切島くん。目が覚めたよ」
「先輩……!」
「瑠璃ちゃんと話をする。瑠璃ちゃんが求めている答えは出せなくても、俺は……瑠璃ちゃんが好きだって気持ちだけは本物だって、伝えなくちゃ」
「その意気っス! 応援してるっス!!」
ありがとうと答える天喰にファットガムはたこ焼きを一パック放り込んで内心でマジかと思った。こんなに前向きな天喰は見たことがない。ファットガムは天喰のノミの心臓に微弱な変化が訪れているのを感じるのだった。
恋は人を変えるというのは……あながち間違いではないのかもしれない。
そう、追いかけなかったのではなく、追いかけられなかったのである。
「ど、どうしよう……瑠璃ちゃんを傷つけてしまった……いやでも、だからって波動さんと縁を切るなんてそんな……」
瑠璃の失望と確かに傷ついたような目に天喰はショックを受けていた。ただ単に苦手とかそういうものではなかったのだ。そんなに波動さんダメだったんだと驚いたけれど、よくよく考えると確かにあんなにいつまでも機嫌の悪い瑠璃も珍しい。ただ単にわがままをいうならまだしも、瑠璃はその逆だった。
わがままを言わず、黙って拗ねている。天喰があれこれ瑠璃の世話を焼くことで何とか回復していた日々。それを思い出してなおさら後悔が押し寄せてきた。
(何で俺はもっとちゃんとしてあげなかったんだ……)
波動が良い人間だと天喰は知っている。好奇心旺盛で不思議に思ったことを何でも聞いてしまうけれど、波動は優しく、人を思いやれるいい人なのだ。
今回のクッキーだって瑠璃と少しでも打ち解けようと瑠璃が好きな紅茶のクッキーをわざわざ作ったくらいだ。それだって元々は、天喰が瑠璃と付き合うことになったとクラスに知れ渡って、瑠璃の噂を心配したり、天喰がそれを否定したことで応援ムードになった経緯があるのだ。
瑠璃が女子と行動を共にする姿を見た者は誰もおらず、天喰もそれを肯定したため余計同性の先輩として目をかけてくれているのだろう。だから天喰自身、どこかで楽観視してしまっていた。
瑠璃が何だかんだ優しかったから、波動とだっていつか打ち解けられるだろうと、その気持ちが伝わるだろうと思ってしまったのだ。
(心配だったなんて……余計なお世話だ。瑠璃ちゃんがそのことで悩んでたことなんて……ないんだから……)
寮生活になって前よりずっと一緒にいることが増えた。
瑠璃は時間ができれば天喰と一緒にいたがったし、たまにクラスの様子とかを聞いても話に出てくるのは、何だかんだ付き合いのいい誰かの話だけだ。その誰かが誰なのかも、天喰はずっと瑠璃を見ていたから分かっていた。
そこまで考えて、はたと天喰は思い当たってしまった。
「もしかして俺は……心操くんに醜い嫉妬をして……瑠璃ちゃんの交友関係を広げようと思ってしまったんだろうか……だから、瑠璃ちゃんの違和感を感じ取れなかったんじゃ……」
ふと浮かんだ疑念さえも悪い方に考えてしまう。後悔どころではなかった。天喰は顔を真っ青にさせて「死ぬしかない……万死に値する……」と呟いていた。
それはかなりの時間が経って、夕飯にも顔を出さない天喰を心配したクラスメイトが天喰の部屋を訪ねに来るまで続いたのだった。
瑠璃と連絡を取ろうにも、瑠璃は自分か波動か選べと言って出て行ったのだ。天喰は瑠璃のために波動との縁切りに踏み出すことが出来なかったし、だからと言って波動を選んだわけでもない。天喰の心は依然として瑠璃のものであったが、それで瑠璃が納得してくれるとは思わなかった。
そんなこんなで連絡できず、当然瑠璃の方からも連絡はなく、このまま自然消滅してしまうのではと天喰は不安に震える日々を過ごすことになるのだった。
天喰のあまりに死にそうな顔に一緒にインターンに来ていた切島とインターン先のヒーロー、ファットガムは顔を見合わせた。
「なんや環。辛気臭い顔しよって。あのー瑠璃ちゃんとついに別れたんか?」
「う゛っ」
「え、ほんま? 当てずっぽうやったんけど……堪忍な」
適当に言ったものの、あまりの天喰のダメージ具合にファットガムはやってしもたという顔をした。
切島が「先輩彼女いたんスね」と思ったことを口にするとファットガムが説明してくれた。
「瑠璃ちゃん言うてえらいな別嬪さんやったんけどな……結構性格きつくてな。環はいつも振り回されとってなァ……まぁ、それすら幸せそうやったんけど……ついにかぁ……」
「ま、まだ別れたと決まったわけじゃ……」
「ほんなら喧嘩か?」
「喧嘩というか……なんというか……」
歯切れの悪い天喰にファットガムが「いいから言うてみぃ」と声をかける。切島も「俺も相談なら乗るっス!」と気合十分に拳を突き合わせた。
天喰がそれに背中を押されるように、ぽつりぽつりと今まであったことを話すのだった。
「いやぁ……ザ・瑠璃ちゃんって感じやな!」
「それ、結構きつくないスか? 何もやましいことねぇのに疑われるなんて……その上縁切れって……先輩の彼女のこと悪く言いたかねぇけど、流石に行き過ぎじゃ……」
「まぁ瑠璃ちゃんやし。むしろ俺は今までよう言い出さんかったな思うで」
「ええっ……」
たこやきを食べながら納得するファットガムに切島は嘘だろという目を向けた。天喰の彼女が濃すぎてついていけていなかった。ファットガムが「切島くんも瑠璃ちゃんの顔見たら分かるで。別嬪さんやから。環、見せたり」と言うので相談に乗ってもらっている手前、天喰も大人しくスマホを差し出して瑠璃の写真を見せるのだった。
「えっ……瑠璃って、揚羽か!」
「切島くん知ってるん?」
「知ってるっつーか……
切島がそう言うと天喰は「やっぱりそうだよね……」と落ち込んだ。改めて突き付けられる瑠璃の人気に「やっぱり俺にはもったいない人だ……」といつものネガティブモードに突入してしまうのだった。
その様子に切島は慌ててフォローする。
「いやでも付き合ってるのは天喰先輩っスよね!? 俺らのはほら、可愛い女子見たら可愛いなぁって思うだけっつーか、深い意味はないんで!」
「うそだ……あんなに可愛い瑠璃ちゃんを見て可愛いだけで済むはずがない……一目見たら忘れられないはずだ……月も花も彼女の前ではすべてが霞んでしまう……可愛いだけで済むはずがないんだ……」
「せ、先輩……」
「あかん、ほっとき。こうなるとなんも聞こえてへんから」
あまりにも重症だった。不治の病にかかっている天喰に切島は何と声をかけていいのかわからなかった。
ファットガムが慣れたように切島に「ま、たこ焼きでも食べ」と勧めていた。その間も天喰は帰ってくる気配はなく、ブツブツと瑠璃がどんなに美しいかを語っていたが無視した。
「まぁ、あの通り環は瑠璃ちゃんにベタ惚れでなぁ。付き合う前からあんな感じなんよ」
「へ、へぇ……じゃあ先輩、本当に好きな人と付き合ってんスね。いいっスね、そういうの」
「そやねんけど、瑠璃ちゃんのクセも強いからなぁ……前途多難な恋ではあるなぁ」
「あー……まぁ」
先ほど聞いた天喰と瑠璃の間にあったことといい、切島はその前途多難具合に何とも言えない顔をした。
天喰は自分が悪かったと主張するが、だからって縁を切れは行き過ぎだと切島は思う。けれどこの分では瑠璃の悪いところを指摘したって納得しないだろう。むしろ瑠璃ちゃんは悪くないと言われかねなかった。
恋愛のことは正直よくわからない。けれど、切島は何もしなければ何も変われないということをよく知っていた。
バシンと強く自身の両頬を打つ。ファットガムが「うおっ、なんや!?」と驚いた。切島はずんずんと天喰の前に進み出ると「先輩!」と声をかけた。
「な、なに……切島くん」
「俺、恋とかはよくわかんないんスけど!」
「う、うん……?」
「その環先輩の揚羽が好きって気持ちは本人に伝えた方がいいと思うっス!!」
ド正論だと天喰とファットガムの心が一つになった瞬間であった。
天喰は切島のあまりに真っ直ぐな姿勢に眩しさを覚える。本当に太陽のような人だ眩しすぎてくらくら眩暈すら覚える。そしてそれが出来たら苦労しないよとも思った。
瑠璃の望む愛情表現を出来るように天喰なりに奮闘してはいるものの、やはり亀の歩みだった。好きだとも、愛しているともなかなか口にできない。だからこそ瑠璃を余計に傷つけてしまったのだと思う。
(察してもやれない、愛情表現も満足にできない……こんなの、瑠璃ちゃんが愛想を尽かすのも当然だ……)
どよーんと沈む天喰に切島がぎょっとするが、やはり切島も引き下がらなかった。何故なら切島はどこまでも漢であるから。漢らしく、それはもう豪快に天喰をまたも豪快な言葉でぶん殴った。
「まだ終わってないんスよね!? まだ別れてねぇってんなら、いくらでも今からでも挽回できるはずっス!」
「切島くん……」
「つか、終わっててもそんなに好きなら諦めちゃだめっスよ! 諦められねぇのは自分自身が一番知ってるはずだ! 諦められねぇなら今踏ん張って行くしかないんス! 後悔してもいいんスか!?」
切島のその言葉は妙に真に迫ったものだった。
天喰はその言葉に背中を押されるのを通り越して、弱い自分を殴りつけてもらった気分になった。もし、瑠璃に愛想を尽かされて別れることになっても、諦められない。きっと自分は往生際悪くいつまでも瑠璃を好きでいるだろうと容易に想像できた。
後悔なんて、していいわけがない。もっとああしていれば瑠璃が傷つかなかったと後悔するのは、もう嫌だった。
「ありがとう……切島くん。目が覚めたよ」
「先輩……!」
「瑠璃ちゃんと話をする。瑠璃ちゃんが求めている答えは出せなくても、俺は……瑠璃ちゃんが好きだって気持ちだけは本物だって、伝えなくちゃ」
「その意気っス! 応援してるっス!!」
ありがとうと答える天喰にファットガムはたこ焼きを一パック放り込んで内心でマジかと思った。こんなに前向きな天喰は見たことがない。ファットガムは天喰のノミの心臓に微弱な変化が訪れているのを感じるのだった。
恋は人を変えるというのは……あながち間違いではないのかもしれない。
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