仰せのままに、女王様
天喰が学校に戻って来れるのはその翌日だった。
怪我はないかと心配するメッセージを送ると、天喰は「どこも怪我してないよ、大丈夫」と返ってきたので瑠璃は安心していた。
それを聞いた心操はどこも怪我してないというのは嘘だろうなと思ったが、それは瑠璃に心配をかけないためだろうとも分かっていたので黙って「よかったね」と言うだけに留めるのだった。
瑠璃が「帰ってきたら一番に会いに来てね」とねだるメッセージを送ると「わかった。愛に行くね」ときたので瑠璃は少しだけ照れてしまった。すぐに「ごめん誤字。会いに行くね」と直されたけど、瑠璃にとっては素敵な誤字だった。だって、あながち間違いではないのだから。
ご機嫌な瑠璃の様子にいい感じにいちゃついたんだなと、心操と瑠璃の友だち一号は察した。上手くいっているようで何よりだった。
「帰ってくるのいつ頃だって?」
「まだ色々調査とかあるみたい。もしかしたら夜になるかもって」
「へぇ、大変なんだなぁ。じゃ、それまでのんびりして待っとこうか」
「……それなんだけど……」
「んー、なに? どうした?」
どこか緊張した面持ちでチラチラと友だち一号の方を見る瑠璃に、友だち一号は首を傾げた。
瑠璃は小さく深呼吸をすると、おずおずと切り出すのだった。
「クッキー……一緒に作ってくれる……?」
「クッキー?」
「こういうの、作ってみたいんだけど……」
スマホを操作して見せられた画面には、動物の形をした可愛いアイシングクッキーが並んでいた。
友だち一号は瑠璃が選ぶにしては随分可愛いなといった感想を抱いた。もっと美しさに重点を置いたクッキーの方が瑠璃らしいと思ったのだ。
「これがいいの? 大分可愛い系だけど……」
「それがいいの」
「へぇ、珍し。瑠璃はもっとエレガント系? がいいのかと思ってたわ」
「……私は、そうだけど……あげたい人は、そっちが似合うの」
あげたい人と言われて友だち一号と心操は顔を見合わせた。今あげたい人って言ったか、言ったなとアイコンタクトをする。幻聴ではなかった。
あげたい人とやらは天喰ではないことは確実だった。天喰にこれが似合うかと言われると疑問であったし、そもそも天喰宛てならばあげたい人なんて言わずに、環くんにあげたいのと言うだろう。じゃあ、あげたい人って誰だと思うと……心操は相談に乗っていたのもあって、合点がいった。
「揚羽……おまえ、頑張るんだね」
「……そうだって言ったでしょ。頑張れって言ってって言ったわ……」
「あーうん、そうだった。……頑張れ」
「……うん」
心操と瑠璃が通じ合っている姿に友だち一号が「おい」と心操の横腹を容赦なくど突いた。勝手に通じ合ってんじゃねぇよ混ぜろといった主張である。心操は「いてっ」と思いつつ、しょうがないなと言わんばかりに「後で説明する」と小声で伝えた。
心操は正直驚いた。瑠璃は男に好かれる自分に価値を置くタイプだ。ちやほやされるのが生き甲斐というか、とにかく恋愛に生きるタイプの女だった。
その瑠璃が女……それも自身が最も苦手とするタイプの女にこんな風に「ごめんね」をするとは思わなかったのだ。
(てっきり「これで環くんは私のものよ! ざまぁみなさい!!」って喜んでると思ってたんだけどなぁ……俺が思うよりこいつ、そんなに性格悪くないのかもな)
そうやって心操が若干瑠璃を見直した直後のことだった。
瑠璃が材料はそろえてあると言ったまではいい。いいのだが、そこからが問題だった。
「でも私、お料理なんてしたことないから、二人に大体のことは任せるわ」
「「は……?」」
「たくさん応援してあげるから頑張ってね」
にっこりとさも当然のように笑う瑠璃に俺、手伝うなんて一言も言ってないんだけど……と心操は思った。思ったしイラっとした。友だち一号もこれにはイラっとしたようで心操とアイコンタクトを取ると、瑠璃の腕を片方ずつ掴み「おまえもやるんだよ!」と連行した。
「ちょっ、ちょっと! 私戦力外もいいところよ! 正気!?」
「おまえが発案だろ。丸投げするな」
「手伝ってはあげるからいいでしょ。ちゃんと自分もやりな」
「しっ、失敗しても知らないんだから〜!!」
正確に自己評価出来て偉いなぁと心操と友だち一号は遠い目をした。
友だち一号がこそっと心操に呟く「私、一人でこの子の世話できる自信ないわ」「……頑張れ」そうだろうなと思いつつ、心操は友だち一号にエールを送るのだった。
そんなこんなで瑠璃の戦力外は何となくお察し――見るからに家事に不向きな方のお嬢さん育ちである――であったため、心操が計量したものを混ぜたり、生地を伸ばしたりをさせていたのだが、これもだいぶ苦労した。
「なぁにこれ、混ぜにくいわ」
「ちょ、瑠璃大雑把すぎ! もっと丁寧に!」
「丁寧にしてるわ! 材料が多いのが悪いのよ! 重たいの!」
「これそんなに材料多くないぞ」
「私はフォークより重たいものは持てないの!」
心操は瑠璃の主張にうそつけと内心でため息を吐いた。教科書もティーセットも持てるだろうと思ったが、それを口にしたところで瑠璃の機嫌が更に悪くなるだけだと分かっていた。
お菓子作りは普段使わない筋肉を行使する。瑠璃はただでさえ温室育ちであるし、苦行だったのだろう。けれどここで必要以上に手を貸しても瑠璃のためにはならないと、心操と友だち一号は根気強く瑠璃に付き合っていたのだった。
「はい、文明の利器の大活躍。これなら瑠璃も出来るでしょ。メレンゲ作って」
「めれんげ……こうするの?」
「そう。じゃあ心操、瑠璃のこと見てて。私は他の作業進めとくから」
「おう……」
正直俺そっちがよかったと心操は思った。お菓子作りなんて正直自分だって初めての試みだったけれど、手順通りにやれば意外とできるもんだなと心操は若干自信がついていた。
瑠璃はミキサーが重いとまたしても愚痴をこぼしていたが、今のところは順調に出来ている様子だった。
「心操」
「なに?」
「これっていつまでやればいいの? クリームみたいになったわ」
「あーまだだよ。ツノ立たないとダメだって」
「ツノってなによ」
「ツノはツノだろ」
そのままミキサーをかけ続け、そのツノが何なのか分かったのは友だち一号が様子を見に来た時だった。
友だち一号はまだミキサーをかけていたことに驚いていた。
「え、もうよくない?」
「まだよ」
「ツノが立ってない」
「いやいや、いったん止めて。で、ほら持ち上げる」
「「あ……」」
ミキサーを止めて、持ち上げた瞬間ツノが立っていた。ツノだ……と瑠璃と心操の心が一つになった。
友だち一号は同じ顔をする瑠璃と心操にぷっと吹き出し、笑っていた。瑠璃と心操は恥ずかしそうにそっぽを向く。お菓子作りって、大変だ。
メレンゲに食紅を入れて、焼きあがって粗熱を取っていたクッキーにデコレーションをする。
仕上げの最終段階にして、最もセンスが問われるこの作業を瑠璃は嫌がっていた。
「む、むり。絶対難しいわ。二人がやって!」
「なーに言ってんの。瑠璃からの贈り物なんだから、ちゃんとやる!」
「やぁよぉ!」
「あーもう、あんたはすぐ駄々こねるんだから。ほら、とりあえずやってみなって。フォローはしたげるから」
「心操ぉ……」
友だち一号におまえは駄々こねてる揚羽が可愛いんだろうと思いつつ、黙っていたら瑠璃がその心操に助けを求めてきた。助けを求められるとヒーロー志望として反射的に助けたく……はならなかった。だって、瑠璃だし。
心操は友だち一号の絆されんなよという視線を受けながら、絆される可能性があるのはおまえだよ、と内心でため息を吐いた。
「あー、出来るよ。揚羽なら」
「根拠はなに!」
「おまえ、センスいいから。持ち物一つとっても、おまえのは洗練されてるでしょ。物を選ぶセンスあるよ」
「物……」
「土産にもらったあの缶、取ってるんだ。小物を入れるのにちょうどいいし、インテリアにもいいと思う。そういうの選べるんだから、これだって出来るよ」
これは本当のことだった。捨てるにはもったいなかったし、愛用の自転車の鍵や気に入ったキーホルダーなどを入れていた。正直この物を選ぶセンスとクッキーに描く絵心が直結するのかと言われたら否だろうけれど、瑠璃には出来る、大丈夫だという背中を押す何かが必要だと思ったのだった。
実際に心操は瑠璃なら出来ると思う。自分が何かをするというのに臆病になっているだけだと、心操は気づいていた。
そうして瑠璃は若干迷った後、「わかった」と口にした。
瑠璃が真剣にデコレーションしたそれは、心操が言った通りちゃんと「出来た」のだった。
無事に完成してはしゃぐ瑠璃に心操と友だち一号は、どちらともなくハイタッチをする。長い道のりだった。女王様の世話係は大変だ。
「ありがとう、二人とも! あなたたちがいなかったら完成できなかったわ!」
「あーうん、まぁ、そう……だろうね」
「延々とミキサーかけてただろうしね」
「……言うなよ」
「本当のことでしょー」
痛いところを突かれた心操は後ろ手で頭を搔いた。お菓子作り初心者が調子に乗るとすぐこうだ。お菓子作りは奥が深い。
「きっとあの人も驚くわ。だってこんなに可愛くて美味しいんだもの。どこで買ったのって聞いてくるに決まってるわ」
「いや、それはさすがに言い過ぎ」
「過大評価」
「いいえ!私たち がこんなに頑張って作ったのよ? このクッキーにはそれだけの価値があるに決まってるじゃない!」
心操と友だち一号は僅かに面食らった。私≠カゃないんだ、私たち≠ネんだと驚いた。
友だち一号が小さく「ツンデレかっつーの」と笑う。心操がそれに「いや……あれは女王様節でしょ」と返すが、その表情は柔らかかった。
「揚羽」
「なぁに?」
「――頑張れ」
頑張れ、しっかりなとそんな思いを込めて、心操はしっかり瑠璃にエールを送った。
瑠璃は瞳を一つ瞬かせて、そして満面の笑みで応える。
「ええ! 頑張るわっ」
怪我はないかと心配するメッセージを送ると、天喰は「どこも怪我してないよ、大丈夫」と返ってきたので瑠璃は安心していた。
それを聞いた心操はどこも怪我してないというのは嘘だろうなと思ったが、それは瑠璃に心配をかけないためだろうとも分かっていたので黙って「よかったね」と言うだけに留めるのだった。
瑠璃が「帰ってきたら一番に会いに来てね」とねだるメッセージを送ると「わかった。愛に行くね」ときたので瑠璃は少しだけ照れてしまった。すぐに「ごめん誤字。会いに行くね」と直されたけど、瑠璃にとっては素敵な誤字だった。だって、あながち間違いではないのだから。
ご機嫌な瑠璃の様子にいい感じにいちゃついたんだなと、心操と瑠璃の友だち一号は察した。上手くいっているようで何よりだった。
「帰ってくるのいつ頃だって?」
「まだ色々調査とかあるみたい。もしかしたら夜になるかもって」
「へぇ、大変なんだなぁ。じゃ、それまでのんびりして待っとこうか」
「……それなんだけど……」
「んー、なに? どうした?」
どこか緊張した面持ちでチラチラと友だち一号の方を見る瑠璃に、友だち一号は首を傾げた。
瑠璃は小さく深呼吸をすると、おずおずと切り出すのだった。
「クッキー……一緒に作ってくれる……?」
「クッキー?」
「こういうの、作ってみたいんだけど……」
スマホを操作して見せられた画面には、動物の形をした可愛いアイシングクッキーが並んでいた。
友だち一号は瑠璃が選ぶにしては随分可愛いなといった感想を抱いた。もっと美しさに重点を置いたクッキーの方が瑠璃らしいと思ったのだ。
「これがいいの? 大分可愛い系だけど……」
「それがいいの」
「へぇ、珍し。瑠璃はもっとエレガント系? がいいのかと思ってたわ」
「……私は、そうだけど……あげたい人は、そっちが似合うの」
あげたい人と言われて友だち一号と心操は顔を見合わせた。今あげたい人って言ったか、言ったなとアイコンタクトをする。幻聴ではなかった。
あげたい人とやらは天喰ではないことは確実だった。天喰にこれが似合うかと言われると疑問であったし、そもそも天喰宛てならばあげたい人なんて言わずに、環くんにあげたいのと言うだろう。じゃあ、あげたい人って誰だと思うと……心操は相談に乗っていたのもあって、合点がいった。
「揚羽……おまえ、頑張るんだね」
「……そうだって言ったでしょ。頑張れって言ってって言ったわ……」
「あーうん、そうだった。……頑張れ」
「……うん」
心操と瑠璃が通じ合っている姿に友だち一号が「おい」と心操の横腹を容赦なくど突いた。勝手に通じ合ってんじゃねぇよ混ぜろといった主張である。心操は「いてっ」と思いつつ、しょうがないなと言わんばかりに「後で説明する」と小声で伝えた。
心操は正直驚いた。瑠璃は男に好かれる自分に価値を置くタイプだ。ちやほやされるのが生き甲斐というか、とにかく恋愛に生きるタイプの女だった。
その瑠璃が女……それも自身が最も苦手とするタイプの女にこんな風に「ごめんね」をするとは思わなかったのだ。
(てっきり「これで環くんは私のものよ! ざまぁみなさい!!」って喜んでると思ってたんだけどなぁ……俺が思うよりこいつ、そんなに性格悪くないのかもな)
そうやって心操が若干瑠璃を見直した直後のことだった。
瑠璃が材料はそろえてあると言ったまではいい。いいのだが、そこからが問題だった。
「でも私、お料理なんてしたことないから、二人に大体のことは任せるわ」
「「は……?」」
「たくさん応援してあげるから頑張ってね」
にっこりとさも当然のように笑う瑠璃に俺、手伝うなんて一言も言ってないんだけど……と心操は思った。思ったしイラっとした。友だち一号もこれにはイラっとしたようで心操とアイコンタクトを取ると、瑠璃の腕を片方ずつ掴み「おまえもやるんだよ!」と連行した。
「ちょっ、ちょっと! 私戦力外もいいところよ! 正気!?」
「おまえが発案だろ。丸投げするな」
「手伝ってはあげるからいいでしょ。ちゃんと自分もやりな」
「しっ、失敗しても知らないんだから〜!!」
正確に自己評価出来て偉いなぁと心操と友だち一号は遠い目をした。
友だち一号がこそっと心操に呟く「私、一人でこの子の世話できる自信ないわ」「……頑張れ」そうだろうなと思いつつ、心操は友だち一号にエールを送るのだった。
そんなこんなで瑠璃の戦力外は何となくお察し――見るからに家事に不向きな方のお嬢さん育ちである――であったため、心操が計量したものを混ぜたり、生地を伸ばしたりをさせていたのだが、これもだいぶ苦労した。
「なぁにこれ、混ぜにくいわ」
「ちょ、瑠璃大雑把すぎ! もっと丁寧に!」
「丁寧にしてるわ! 材料が多いのが悪いのよ! 重たいの!」
「これそんなに材料多くないぞ」
「私はフォークより重たいものは持てないの!」
心操は瑠璃の主張にうそつけと内心でため息を吐いた。教科書もティーセットも持てるだろうと思ったが、それを口にしたところで瑠璃の機嫌が更に悪くなるだけだと分かっていた。
お菓子作りは普段使わない筋肉を行使する。瑠璃はただでさえ温室育ちであるし、苦行だったのだろう。けれどここで必要以上に手を貸しても瑠璃のためにはならないと、心操と友だち一号は根気強く瑠璃に付き合っていたのだった。
「はい、文明の利器の大活躍。これなら瑠璃も出来るでしょ。メレンゲ作って」
「めれんげ……こうするの?」
「そう。じゃあ心操、瑠璃のこと見てて。私は他の作業進めとくから」
「おう……」
正直俺そっちがよかったと心操は思った。お菓子作りなんて正直自分だって初めての試みだったけれど、手順通りにやれば意外とできるもんだなと心操は若干自信がついていた。
瑠璃はミキサーが重いとまたしても愚痴をこぼしていたが、今のところは順調に出来ている様子だった。
「心操」
「なに?」
「これっていつまでやればいいの? クリームみたいになったわ」
「あーまだだよ。ツノ立たないとダメだって」
「ツノってなによ」
「ツノはツノだろ」
そのままミキサーをかけ続け、そのツノが何なのか分かったのは友だち一号が様子を見に来た時だった。
友だち一号はまだミキサーをかけていたことに驚いていた。
「え、もうよくない?」
「まだよ」
「ツノが立ってない」
「いやいや、いったん止めて。で、ほら持ち上げる」
「「あ……」」
ミキサーを止めて、持ち上げた瞬間ツノが立っていた。ツノだ……と瑠璃と心操の心が一つになった。
友だち一号は同じ顔をする瑠璃と心操にぷっと吹き出し、笑っていた。瑠璃と心操は恥ずかしそうにそっぽを向く。お菓子作りって、大変だ。
メレンゲに食紅を入れて、焼きあがって粗熱を取っていたクッキーにデコレーションをする。
仕上げの最終段階にして、最もセンスが問われるこの作業を瑠璃は嫌がっていた。
「む、むり。絶対難しいわ。二人がやって!」
「なーに言ってんの。瑠璃からの贈り物なんだから、ちゃんとやる!」
「やぁよぉ!」
「あーもう、あんたはすぐ駄々こねるんだから。ほら、とりあえずやってみなって。フォローはしたげるから」
「心操ぉ……」
友だち一号におまえは駄々こねてる揚羽が可愛いんだろうと思いつつ、黙っていたら瑠璃がその心操に助けを求めてきた。助けを求められるとヒーロー志望として反射的に助けたく……はならなかった。だって、瑠璃だし。
心操は友だち一号の絆されんなよという視線を受けながら、絆される可能性があるのはおまえだよ、と内心でため息を吐いた。
「あー、出来るよ。揚羽なら」
「根拠はなに!」
「おまえ、センスいいから。持ち物一つとっても、おまえのは洗練されてるでしょ。物を選ぶセンスあるよ」
「物……」
「土産にもらったあの缶、取ってるんだ。小物を入れるのにちょうどいいし、インテリアにもいいと思う。そういうの選べるんだから、これだって出来るよ」
これは本当のことだった。捨てるにはもったいなかったし、愛用の自転車の鍵や気に入ったキーホルダーなどを入れていた。正直この物を選ぶセンスとクッキーに描く絵心が直結するのかと言われたら否だろうけれど、瑠璃には出来る、大丈夫だという背中を押す何かが必要だと思ったのだった。
実際に心操は瑠璃なら出来ると思う。自分が何かをするというのに臆病になっているだけだと、心操は気づいていた。
そうして瑠璃は若干迷った後、「わかった」と口にした。
瑠璃が真剣にデコレーションしたそれは、心操が言った通りちゃんと「出来た」のだった。
無事に完成してはしゃぐ瑠璃に心操と友だち一号は、どちらともなくハイタッチをする。長い道のりだった。女王様の世話係は大変だ。
「ありがとう、二人とも! あなたたちがいなかったら完成できなかったわ!」
「あーうん、まぁ、そう……だろうね」
「延々とミキサーかけてただろうしね」
「……言うなよ」
「本当のことでしょー」
痛いところを突かれた心操は後ろ手で頭を搔いた。お菓子作り初心者が調子に乗るとすぐこうだ。お菓子作りは奥が深い。
「きっとあの人も驚くわ。だってこんなに可愛くて美味しいんだもの。どこで買ったのって聞いてくるに決まってるわ」
「いや、それはさすがに言い過ぎ」
「過大評価」
「いいえ!
心操と友だち一号は僅かに面食らった。私≠カゃないんだ、私たち≠ネんだと驚いた。
友だち一号が小さく「ツンデレかっつーの」と笑う。心操がそれに「いや……あれは女王様節でしょ」と返すが、その表情は柔らかかった。
「揚羽」
「なぁに?」
「――頑張れ」
頑張れ、しっかりなとそんな思いを込めて、心操はしっかり瑠璃にエールを送った。
瑠璃は瞳を一つ瞬かせて、そして満面の笑みで応える。
「ええ! 頑張るわっ」
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