先輩と後輩
「環くん、レモネードは用意してくれた?」
「もちろん。冷蔵庫で冷やしてるよ」
「今日の私、変じゃない? 悪役令嬢に見える?」
「悪役令嬢……? よくわからないけど、瑠璃ちゃんはいつも一番綺麗で可愛いよ」
不安げな瑠璃に対し、天喰は小首を傾げつつもさらっと瑠璃を褒めた。両想いになってからというものの、天喰は格段に恋愛スキルを上げていた。瑠璃を綺麗だとか、可愛いと褒めるのはもちろん、キスもまだ緊張が残るもののちゃんと出来ていた。瑠璃を不安にさせたことを目の当たりにして、天喰は愛する人を傷つけまいと愛の戦士として覚醒したのだ……たぶん。
「あのね、あんまり眠れなくて……クマができて、血色も悪くて……コンシーラーと赤リップとファンデとチークで誤魔化してるの。本当に変じゃない?」
「ええ……そんな大変なことになってたの……え、いや、全然分かんない。すごいよ瑠璃ちゃん、特殊メイクレベルだ」
「ハロウィンのメイクも私は得意よ」
天喰はじーっと瑠璃の顔を見つめるが、よくわからなかった。
瑠璃はそれを察してキスができそうなくらい顔を近づけた。
「瑠璃ちゃ……」
「これならわかる?」
「え……?」
「メイク」
「あ、ああ……メイク……うん、この距離なら……わかる、かな……」
キスするのかと思ったとは天喰は口が裂けても言えなかった。正直期待してしまった。けれど瑠璃はただ変じゃないかと気にするばかりだった。本当に緊張している。
天喰はこんなに瑠璃ちゃんが身だしなみを気にするなんて、と若干驚いていた。瑠璃は身だしなみにいつも気を遣っているが、それと同時に自身の見立てに絶対的な自信がいつもあった。それなのに、今日はいつまでも気にしている。その姿が何だか微笑ましかった。
「大丈夫だよ。今日も……すごく可愛いから」
「……本当?」
「本当。嘘偽りなく、そう思うよ」
「……あの人もそう思う?」
相変わらずあの人呼びだったけれど、天喰はそれが誰なのか当然分かっていた。
天喰は波動を思い浮かべて、一つ頷いた。
「思うと思うよ。波動さんは……瑠璃ちゃんのこと、大好きだから」
「……私、可愛くない態度しかとってないわ」
「そういう素直なところがよかったんじゃないかな?」
「……趣味が悪いのね」
そういう割に瑠璃の表情はまんざらでもなさそうなものだった。
天喰はそれに微笑ましいものを感じながら瑠璃の手を引いて寮へと向かう。きっと素敵なお茶会になるだろうと、そう思いながら。
寮についてすぐ、瑠璃は波動に「揚羽さん! 来てくれてありがと〜!」と突撃されていた。今にも抱き着かんばかりの勢いでぐいっとくる波動に驚きつつも、瑠璃も平静を装った。本当は心臓がどきどきとうるさかったけれど、それを顔に出すのは嫌だったから。
若干固まっている瑠璃の背を天喰が軽く押して席につこうと促すのだった。
「あの、これ……つまらなくはないものだけど」
(つまらなくはないものなんだ……)
「わーありがと〜! 開けていい?」
「いいわよ」
天喰が瑠璃らしい言い方だなと思っていると、波動が袋から出した見覚えのある缶にあれ、と思う。
だってそれは……つい先日、天喰が作ったスミレの砂糖漬けだったから。
「綺麗……! これ揚羽さんが好きなやつだよね? 天喰くんがよく作ってる!」
「ええ。見た目も香りもとてもいいものだから……気に入ったでしょ?」
「とっても! ありがとう、揚羽さん!」
正直天喰は信じられない思いだった。あの瑠璃が、天喰が作ったものを波動に分け与えたこともそうだが、相当頭を悩ませたであろう手土産に自分が作ったスミレの砂糖漬けを選んだことも。
瑠璃はプライドが高いから、人にやるものも、自分に使うものも相当吟味している。その中でもことさら意識しているであろう波動に対し、手土産として選ばれたものが自分が贈ったものというのは……何だかぐっとくるものがあった。
「瑠璃ちゃん……」
「気を悪くしないでね。私の一番好きなものだったからあげたのよ……取り寄せたものより、私はこっちがいいの」
「分かってるよ。むしろその……俺は嬉しくて」
「……それなら、よかったわ」
安心したように微笑む瑠璃に天喰もつられて笑った。
そうしていると波動が「おまたせ〜!」と天喰が作って冷蔵庫に入れておいたレモネードや、作ったクッキーをトレイに入れて運んできてくれた。
「天喰くんお手製のレモネードと……じゃーん! 紅茶のメレンゲクッキーを焼いてみたんだ〜!」
「! 薔薇だわ……」
「調べてみたら意外と簡単に絞れるみたいだったから、やってみたの。揚羽さん、薔薇も好きなんだって?」
「……ええ」
薔薇の形をしたメレンゲクッキーに瑠璃は表情を綻ばせた。
薔薇は好きだ。軽井沢のローズガーデンも見事だったのを思い出す。隣に据えられたレモネードにあの時のことが鮮明に浮かんだ。
「……ありがとう」
「どういたしまして! さ、食べよ。揚羽さんにもらったのと同じくらい、綺麗で美味しいから!」
「……いただくわ」
さくっと口に含んだ薔薇のクッキーが優しく溶けていく。爽やかなレモネードがとてもよく合った。
瑠璃からもらったクッキーの感想からはじまり、そのお茶会は実に和やかに続いた。
「そういえばそろそろ文化祭だね。揚羽さん、ミスコン出たりする?」
「ミスコン……?」
「毎年ねーあるんだよねー。私昨年も一昨年も出たんだけど、どうしても絢爛崎さんっていうサポート科のすごい人に勝てなくてねー、悔しいんだよね」
「? あなたでも勝てないの? そんなに綺麗な人?」
「綺麗といえばそうなんだけど……絢爛崎さんのは、綺麗って言うより、派手……かな?」
首を傾げる瑠璃に天喰が教えてくれる。サポート科の絢爛崎美々美。ド派手な発明品で注目をかっさらうミスコンの覇者らしい。瑠璃は変わったミスコンなのだろうとなんとなく思った。瑠璃から見ても波動は可愛かったから、その波動が負けると言うのはあまり想像がつかなかったのだ。
「ミスコン出ると、準備とかで忙しくてクラスの出し物には参加できそうにないんだけどね。でも、ミスコンも楽しいんだよ」
「ミスコン……ね。環くんはどう思う?」
「え、俺……!?」
「そう、俺。彼氏として彼女がミスコンに出るのって、どう思う?」
そう言って天喰に尋ねると、天喰は少し困ったような顔をした。
「ミスコンかぁ……」と頬を搔く。
「正直にいうと……」
「正直にいうと?」
「…………ごめん、出て欲しくないです……瑠璃ちゃんが可愛いのも綺麗なのも分かってるけど、着飾って、宣伝写真とかあちこちに掲載されて、どうアピールするか必死に考えて、更に綺麗になった瑠璃ちゃんをたくさんの人が見るのは……その……無理、妬きます」
言っているうちにどんどんリアルに想像してしまったのか、天喰がどんよりと項垂れ、しまいには顔を覆ってしまった。
それに波動が「天喰くん相変わらず揚羽さんバカだね」と笑うから、瑠璃もまんざらでもなかった。けれど、何だか妙にミスコンについて知ってるなと瑠璃は思った。
「なんだか環くん、ミスコンのことよく知ってるのね」
「うっ、それは……その……」
「なに?」
「えっと……波動さんのミスコン、手伝ってたから……少しは、わかるというか……あの、他意はないです……」
弁明する天喰に瑠璃はくすりと笑った。確かにミスコンともなれば準備が多い、到底一人ではできないだろうと思った。天喰は頼まれたら自分でいいのか、他に適任がいるのではないかとネガティブを爆発させるだろうが、押し切れば協力してくれるタイプだ。何ら不思議なことではなかった。
「怒ってないわ。でも、そうね……ミスコンはやめておくわ。色々準備が大変そうだし、環くんも私を独り占めしたいようだから」
「うっ……すみません」
「あら、いいのよ。環くんは私ので、私は環くんのだもの。それでいいじゃない?」
「瑠璃ちゃん……」
どこか嬉しそうにする天喰に瑠璃も微笑んだ。それでいいのだ。他の誰かによく思われる必要は、もうないから。瑠璃が見ていてほしいと思うのは、天喰だけだから。
「ちょっと残念だけど、よかったら見に来てね。楽しめるように頑張るから!」
「ええ、そうさせてもらうわ。環くんも頑張ってね」
「え? なにを……」
「何をって……手伝うんでしょ? 頑張らないと」
不思議そうに言う瑠璃に、これには天喰だけでなく波動も驚いた顔をした。
だってそれは、波動を手伝うのを応援するということだから。天喰はおそるおそる確認をする。
「……いいの?」
「ええ。今年で最後なんだから、むしろ今年こそ頑張らないとじゃない。環くんの手でこの人を優勝に導くの」
「いや、それは……俺には無理――」
「無理じゃなくてやるの!」
「……は、はい」
瑠璃の強めの主張に天喰は頷く他なかった。瑠璃がそういうのなら、天喰は頑張らないといけない。
それを波動が煌めく瞳で見つめていた。ぐいっと身を乗り出して、瑠璃に顔を近づける。急なことに瑠璃は驚いたが、波動は気にしちゃいなかった。
「瑠璃ちゃんって呼んでいい!? 私のこともねじれでいいから! ね、いいよね!? ダメ!?」
「い……いい、けど……」
「瑠璃ちゃん! ありがとう……! 私、絶対優勝するね!!」
がばっと抱き着かれて瑠璃は声と言う声がでなかった。あまりにもいきなりのことで、こんな風に同性と接することがほぼなかった瑠璃にとって、大した衝撃だったのだ。
それでも、瑠璃は声を振り絞る。仲良くなりたいの、一歩を、自分も――。
「おうえん、してるわ……今度、クッキーの差し入れいれてあげる……」
「楽しみにしてる。あのクッキー本当に可愛かったから、すごく気に入ってたんだよ。食べるのがもったいないくらい」
「……それなら、よかったわ」
ほっと息をついた。クッキーを褒められたのも、友だち一号との約束通り言えたのも。
天喰がその光景を少し泣きそうな顔で見ていた。よかったなという気持ちが溢れていた。
こうして、お茶会は大成功で終わる。
約束通りまたクッキーを持ってくると言って。友だちとは少し違うけれど、その関係は良好なものであった。
「もちろん。冷蔵庫で冷やしてるよ」
「今日の私、変じゃない? 悪役令嬢に見える?」
「悪役令嬢……? よくわからないけど、瑠璃ちゃんはいつも一番綺麗で可愛いよ」
不安げな瑠璃に対し、天喰は小首を傾げつつもさらっと瑠璃を褒めた。両想いになってからというものの、天喰は格段に恋愛スキルを上げていた。瑠璃を綺麗だとか、可愛いと褒めるのはもちろん、キスもまだ緊張が残るもののちゃんと出来ていた。瑠璃を不安にさせたことを目の当たりにして、天喰は愛する人を傷つけまいと愛の戦士として覚醒したのだ……たぶん。
「あのね、あんまり眠れなくて……クマができて、血色も悪くて……コンシーラーと赤リップとファンデとチークで誤魔化してるの。本当に変じゃない?」
「ええ……そんな大変なことになってたの……え、いや、全然分かんない。すごいよ瑠璃ちゃん、特殊メイクレベルだ」
「ハロウィンのメイクも私は得意よ」
天喰はじーっと瑠璃の顔を見つめるが、よくわからなかった。
瑠璃はそれを察してキスができそうなくらい顔を近づけた。
「瑠璃ちゃ……」
「これならわかる?」
「え……?」
「メイク」
「あ、ああ……メイク……うん、この距離なら……わかる、かな……」
キスするのかと思ったとは天喰は口が裂けても言えなかった。正直期待してしまった。けれど瑠璃はただ変じゃないかと気にするばかりだった。本当に緊張している。
天喰はこんなに瑠璃ちゃんが身だしなみを気にするなんて、と若干驚いていた。瑠璃は身だしなみにいつも気を遣っているが、それと同時に自身の見立てに絶対的な自信がいつもあった。それなのに、今日はいつまでも気にしている。その姿が何だか微笑ましかった。
「大丈夫だよ。今日も……すごく可愛いから」
「……本当?」
「本当。嘘偽りなく、そう思うよ」
「……あの人もそう思う?」
相変わらずあの人呼びだったけれど、天喰はそれが誰なのか当然分かっていた。
天喰は波動を思い浮かべて、一つ頷いた。
「思うと思うよ。波動さんは……瑠璃ちゃんのこと、大好きだから」
「……私、可愛くない態度しかとってないわ」
「そういう素直なところがよかったんじゃないかな?」
「……趣味が悪いのね」
そういう割に瑠璃の表情はまんざらでもなさそうなものだった。
天喰はそれに微笑ましいものを感じながら瑠璃の手を引いて寮へと向かう。きっと素敵なお茶会になるだろうと、そう思いながら。
寮についてすぐ、瑠璃は波動に「揚羽さん! 来てくれてありがと〜!」と突撃されていた。今にも抱き着かんばかりの勢いでぐいっとくる波動に驚きつつも、瑠璃も平静を装った。本当は心臓がどきどきとうるさかったけれど、それを顔に出すのは嫌だったから。
若干固まっている瑠璃の背を天喰が軽く押して席につこうと促すのだった。
「あの、これ……つまらなくはないものだけど」
(つまらなくはないものなんだ……)
「わーありがと〜! 開けていい?」
「いいわよ」
天喰が瑠璃らしい言い方だなと思っていると、波動が袋から出した見覚えのある缶にあれ、と思う。
だってそれは……つい先日、天喰が作ったスミレの砂糖漬けだったから。
「綺麗……! これ揚羽さんが好きなやつだよね? 天喰くんがよく作ってる!」
「ええ。見た目も香りもとてもいいものだから……気に入ったでしょ?」
「とっても! ありがとう、揚羽さん!」
正直天喰は信じられない思いだった。あの瑠璃が、天喰が作ったものを波動に分け与えたこともそうだが、相当頭を悩ませたであろう手土産に自分が作ったスミレの砂糖漬けを選んだことも。
瑠璃はプライドが高いから、人にやるものも、自分に使うものも相当吟味している。その中でもことさら意識しているであろう波動に対し、手土産として選ばれたものが自分が贈ったものというのは……何だかぐっとくるものがあった。
「瑠璃ちゃん……」
「気を悪くしないでね。私の一番好きなものだったからあげたのよ……取り寄せたものより、私はこっちがいいの」
「分かってるよ。むしろその……俺は嬉しくて」
「……それなら、よかったわ」
安心したように微笑む瑠璃に天喰もつられて笑った。
そうしていると波動が「おまたせ〜!」と天喰が作って冷蔵庫に入れておいたレモネードや、作ったクッキーをトレイに入れて運んできてくれた。
「天喰くんお手製のレモネードと……じゃーん! 紅茶のメレンゲクッキーを焼いてみたんだ〜!」
「! 薔薇だわ……」
「調べてみたら意外と簡単に絞れるみたいだったから、やってみたの。揚羽さん、薔薇も好きなんだって?」
「……ええ」
薔薇の形をしたメレンゲクッキーに瑠璃は表情を綻ばせた。
薔薇は好きだ。軽井沢のローズガーデンも見事だったのを思い出す。隣に据えられたレモネードにあの時のことが鮮明に浮かんだ。
「……ありがとう」
「どういたしまして! さ、食べよ。揚羽さんにもらったのと同じくらい、綺麗で美味しいから!」
「……いただくわ」
さくっと口に含んだ薔薇のクッキーが優しく溶けていく。爽やかなレモネードがとてもよく合った。
瑠璃からもらったクッキーの感想からはじまり、そのお茶会は実に和やかに続いた。
「そういえばそろそろ文化祭だね。揚羽さん、ミスコン出たりする?」
「ミスコン……?」
「毎年ねーあるんだよねー。私昨年も一昨年も出たんだけど、どうしても絢爛崎さんっていうサポート科のすごい人に勝てなくてねー、悔しいんだよね」
「? あなたでも勝てないの? そんなに綺麗な人?」
「綺麗といえばそうなんだけど……絢爛崎さんのは、綺麗って言うより、派手……かな?」
首を傾げる瑠璃に天喰が教えてくれる。サポート科の絢爛崎美々美。ド派手な発明品で注目をかっさらうミスコンの覇者らしい。瑠璃は変わったミスコンなのだろうとなんとなく思った。瑠璃から見ても波動は可愛かったから、その波動が負けると言うのはあまり想像がつかなかったのだ。
「ミスコン出ると、準備とかで忙しくてクラスの出し物には参加できそうにないんだけどね。でも、ミスコンも楽しいんだよ」
「ミスコン……ね。環くんはどう思う?」
「え、俺……!?」
「そう、俺。彼氏として彼女がミスコンに出るのって、どう思う?」
そう言って天喰に尋ねると、天喰は少し困ったような顔をした。
「ミスコンかぁ……」と頬を搔く。
「正直にいうと……」
「正直にいうと?」
「…………ごめん、出て欲しくないです……瑠璃ちゃんが可愛いのも綺麗なのも分かってるけど、着飾って、宣伝写真とかあちこちに掲載されて、どうアピールするか必死に考えて、更に綺麗になった瑠璃ちゃんをたくさんの人が見るのは……その……無理、妬きます」
言っているうちにどんどんリアルに想像してしまったのか、天喰がどんよりと項垂れ、しまいには顔を覆ってしまった。
それに波動が「天喰くん相変わらず揚羽さんバカだね」と笑うから、瑠璃もまんざらでもなかった。けれど、何だか妙にミスコンについて知ってるなと瑠璃は思った。
「なんだか環くん、ミスコンのことよく知ってるのね」
「うっ、それは……その……」
「なに?」
「えっと……波動さんのミスコン、手伝ってたから……少しは、わかるというか……あの、他意はないです……」
弁明する天喰に瑠璃はくすりと笑った。確かにミスコンともなれば準備が多い、到底一人ではできないだろうと思った。天喰は頼まれたら自分でいいのか、他に適任がいるのではないかとネガティブを爆発させるだろうが、押し切れば協力してくれるタイプだ。何ら不思議なことではなかった。
「怒ってないわ。でも、そうね……ミスコンはやめておくわ。色々準備が大変そうだし、環くんも私を独り占めしたいようだから」
「うっ……すみません」
「あら、いいのよ。環くんは私ので、私は環くんのだもの。それでいいじゃない?」
「瑠璃ちゃん……」
どこか嬉しそうにする天喰に瑠璃も微笑んだ。それでいいのだ。他の誰かによく思われる必要は、もうないから。瑠璃が見ていてほしいと思うのは、天喰だけだから。
「ちょっと残念だけど、よかったら見に来てね。楽しめるように頑張るから!」
「ええ、そうさせてもらうわ。環くんも頑張ってね」
「え? なにを……」
「何をって……手伝うんでしょ? 頑張らないと」
不思議そうに言う瑠璃に、これには天喰だけでなく波動も驚いた顔をした。
だってそれは、波動を手伝うのを応援するということだから。天喰はおそるおそる確認をする。
「……いいの?」
「ええ。今年で最後なんだから、むしろ今年こそ頑張らないとじゃない。環くんの手でこの人を優勝に導くの」
「いや、それは……俺には無理――」
「無理じゃなくてやるの!」
「……は、はい」
瑠璃の強めの主張に天喰は頷く他なかった。瑠璃がそういうのなら、天喰は頑張らないといけない。
それを波動が煌めく瞳で見つめていた。ぐいっと身を乗り出して、瑠璃に顔を近づける。急なことに瑠璃は驚いたが、波動は気にしちゃいなかった。
「瑠璃ちゃんって呼んでいい!? 私のこともねじれでいいから! ね、いいよね!? ダメ!?」
「い……いい、けど……」
「瑠璃ちゃん! ありがとう……! 私、絶対優勝するね!!」
がばっと抱き着かれて瑠璃は声と言う声がでなかった。あまりにもいきなりのことで、こんな風に同性と接することがほぼなかった瑠璃にとって、大した衝撃だったのだ。
それでも、瑠璃は声を振り絞る。仲良くなりたいの、一歩を、自分も――。
「おうえん、してるわ……今度、クッキーの差し入れいれてあげる……」
「楽しみにしてる。あのクッキー本当に可愛かったから、すごく気に入ってたんだよ。食べるのがもったいないくらい」
「……それなら、よかったわ」
ほっと息をついた。クッキーを褒められたのも、友だち一号との約束通り言えたのも。
天喰がその光景を少し泣きそうな顔で見ていた。よかったなという気持ちが溢れていた。
こうして、お茶会は大成功で終わる。
約束通りまたクッキーを持ってくると言って。友だちとは少し違うけれど、その関係は良好なものであった。
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