心操が紛らわしい言い方をしたことを謝って、これからも相談役をさせてくれと頼もうとしたのもつかの間、瑠璃はそれからというものの、徹底的に心操を避けていた。


「揚羽――」
「っ」
「あ、おいっ」

声をかけるどころか、姿を見ようものなら方向転換して瑠璃はそれはもう心操から逃げていた。
授業中はさすがにどうしようもなかったが、心操からこそっと送られてくる紙も瑠璃は徹底的にないものとして無視した。


「なぁ……俺、そんな悪かったか……?」
「悪かったんじゃねーの」

心操の問いに友だち一号は寛いだスタイルで雑誌をめくりながら答えた。随分適当な返事に心操は若干不服そうな顔をした。


「おまえ、何か知らない?」
「何かって何が」
「揚羽が何考えてるとか……」
「それこそ心操の方が分かってんじゃないの?」
「いや、まったく読めない。どういうつもりなんだ……揚羽のやつ」

げっそりした様子でそんなことを言う心操に、友だち一号はあーりゃりゃと言いたげな顔をした。
随分お疲れの様子だった。こんなにげっそりした心操は……いや、何かと見るな。主に瑠璃関連でと思い直した。


「しょーがない、ヒントをあげよう」
「やっぱわかってんじゃん」
「なんだよ、ヒントいらないわけ?」
「ください……」
「よろしい」

友だち一号は身体を起こすと、にやりと笑って指を一本立てた。
なんだと心操が思っていると、友だち一号は自分を指さした。


「私は瑠璃の友だち一号」
「……で?」
「あんたは相談役」
「……うん」
「そんで天喰先輩は彼氏で、波動先輩は先輩」
「……」

心操は増えていくそれらに何の話だよ、と言いたいことが分からず頭を搔いた。
そして友だち一号は「あんたが一番瑠璃のダメなとこ、知ってるでしょ」と言った。


「……まぁ」
「そんで瑠璃が頑張ってたのも知ってる」
「……そうだね」
「じゃあもう答え出たでしょ」
「……は?」

心操はこれのどこがヒントなんだと目を見開いた。
友だち一号はそれ以上のヒントを与える気はないようで、再び寛ぎスタイルで雑誌に目を通していた。


(いや……ますますわかんないんだけど……)

心操は頭を悩ませながら、日々をそんな感じで過ごしていた。
そうこうしているうちに相澤から編入試験らしき報せを受けた。A組B組の対抗戦に特別参加者として入ること。
瑠璃のことが気がかりだったけれど、こればっかりはしょうがない。編入すると宣言した通り、編入して見せると意気込んでいた。










その当日のことだった。
実に久しぶりに「心操」と呼ぶ声を聞いた。


「揚羽……」
「……『頑張って』!!」

振り絞るように叫ぶ瑠璃に心操は目を見開いた。


「おまえ……」
「それだけ! じゃあまた後で会いましょう!!」
「あ、おい……」

相変わらず言うだけ言うと逃げて行ってしまったけれど、その激励は確かに心操に届いていた。
なんだよあいつ……と思っていると、友だち一号がからかうように声をかけてきた。


「女王様からの激励だよ。これは結果残さないとねぇ」
「……落ちたとか聞いたら、怒りそうだ」
「そりゃそうよ。「私が応援したのにーー!」って怒るに決まってるね」
「機嫌とるの大変だな」
「とる必要ないでしょ。だって、勝ち取ってくるんだから」
「――そうだな」

心の靄は晴れていた。「頑張るよ」と口にした心操の顔は挑戦者に相応しい、不敵なものだった。















無事に2年からヒーロー科への編入が決まった心操だったが、この状態には困惑が隠せなかった。
寮に帰ってくるなり、友だち一号に問答無用で女子部屋の方に連れていかれて、抵抗したが聞いてもらえず――いつかの瑠璃のときを思い出す。何だかんだ友だち一号も瑠璃に似てきたなと、心操は密かに思った――見覚えのある部屋に連れてこられた。


「……ここって、揚羽の」
「さ、入るよ」
「あ、おいっ」

なんの躊躇いもなくいきなり扉を開けた友だち一号に驚く心操だったが、響いたぱんっという音と紙吹雪、独特の火薬のにおいに思考が停止した。


「心操! 編入おめでとう!!」
「おめでと〜〜!」
「――は」

そこには瑠璃がクラッカーを手に、満面の笑みでいた。
おめでとうと祝われた心操は何が何だか、やはり思考がついてこなかった。


「さ、中に入って! 色々準備してたのよ! 絶対心操が今まで生きてきた中で一番気合が入ったパーティになってるわ!」
「それはそう。この日のために瑠璃頑張ってたもんな〜! 顔に出ないように心操避けまくってさ!」
「しょうがないでしょう! だって話したくてしょうがなかったんだもの! でもこういうのはサプライズの方が盛り上がるものだもの! ねぇ、心操! 驚いたでしょう!?」

はしゃぐ瑠璃に心操は何も言葉にできなかった。
じゃあなにか、今まで自分を避けていたのは……全部このためで、でも頑張れっていうために……おまえは来てくれたのか。
友だち一号の言っていたことが、この時やっとわかった。


(そうだ……おまえは……俺が思ってるほど性格悪くなくて、意外と……頑張るやつなんだよな……)

怒らせたのはきっと一瞬だった。瑠璃はそれよりも心操の門出を祝おうと準備してくれていたのだ。それこそ盛大に、こんな……馬鹿みたいに豪華な、パーティを開くために。
バルーンが所狭しと浮かんでいた。花がいたるところに飾られていて、中には相当頑張っただろう、見覚えのあるクッキーよりさらに進化したクッキーや、ケーキが並んでいた。


「ああ、驚いたよ……!」
「え……」
「おう……」

静かに涙を流して歯を食いしばる心操に、瑠璃は目を見開き、友だち一号も驚いた声を出した。
瑠璃はさっと友だち一号の方に寄り「どうしましょう! 心操泣いちゃったわ!」「……うれし泣きっしょ。泣かせとこ……」こそこそ話していた。聞こえてるぞと心操は思う。


「このケーキ、どうしたの。ホールじゃん」
「ねじれ先輩に相談したら、A組の砂藤を頼ったらどうかって……エリちゃんが前、砂藤のケーキ食べたことあるんですって。美味しかったって言ってたから、きっと力になってくれるって……」
「ついでに瑠璃も出店で砂藤が作ったの食べてる。美味しかったって」
「美味しかったわ」
「そう……ヒーロー科すごいな」

心操がそういうものだから「そこは私たちがすごいと言いなさいよ!」と秒で瑠璃が抗議した。
ちなみに試作品を消化するのに天喰が犠牲になったらしい。だが、その肝心の天喰は瑠璃が作ったものなら何でもおいしく感じてしまうため、参考にならず……ただ食べきれない分を消化するだけの人になっていたのは余談である。


「心操、私ね……」
「ん?」
「科が変わっても、相談役を解任する気はないわ。私の相談役は心操って決めてるもの」
「……うん」
「だから……だから……っ、あっちに行って、私たちのことほったらかしにしたら許さないからっ!!」
「……うん」

耐え切れずにうわーんと泣く瑠璃を「おーよしよし、言えて偉いぞー」と友だち一号が慰める。
心操はホールケーキのメッセージプレートに刻まれた『頑張れるよ』というメッセージに目頭に熱いものが再びこみ上げてくるのを感じた。


(ああ、頑張れるよ。おまえが、おまえたちが……俺をそうしてくれたから)

敵向きだと嫌煙されてきた洗脳を魔法に変えてくれた。
いいヒーローになれると認めてくれた。
頑張れないわけがなかった。このどうしようもなく性悪な女王様だって、頑張ってきたのだから。
その相談役が頑張らないわけにいかないだろう。


「ありがとう。頑張るよ。立派なヒーローに、なるために」
「なれるわ。あなたなら」
「頑張れよ、普通科の星! 期待してる!」
「……ああ」

そんなこんなでいい感じに始まった「心操編入決定おめでとう」という会だったが、やはり上手くはしまらなかった。


「あ、クラス変わったら寮も変わるだろうから、心操は誰かの部屋に泊ってね」
「……は?」
「ついでにランチも一緒ね」
「……は?」
「そして私の電話とメッセージにはすぐに応えること。いいわね?」
「よくないが?」

更に無茶振りが極まった女王様の命令に、そうそうにやっぱ相談役やめようかなと思わなくもなかった。
その様子を友だち一号はけらけらと笑う。きっと編入しても大体こんな感じなんだろうと、なんとなく未来が想像できたのだった。


 


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