男は狼なのよと言うけれど
休憩所で少し涼むと瑠璃も疲れたようで、夕方であることもあり宿に戻ることにした。
母が予約してくれた旅館は4つ星を取ったホテルだった。天喰は最初かなり驚いていたけれど、母のお友だちが厚意で融通してくれたというと何とも言えない顔をした。そのお友だちは多分普通のお友だちじゃないんだろうなと思った。実際母に惚れ込んでいる男の一人である。母は使えるものは何でも使えという精神であるから、ちっとも悪びれることなく娘と彼のためにお願いと頼んでいた。断れるはずもなかった。
それでもケチることなく素晴らしい部屋を用意してくれたし、プランもその他の軽井沢観光に必要そうなチケットもすべて手配してくれたから、瑠璃は「このお友だちは良い人ね」と母に一言メッセージを送ることにした。ついでに部屋から見える浅間山の眺望の写真も添えて。
「ね、環くん」
「な、なに?」
天喰は部屋に入った途端、またガチガチに戻っていた。チェックインの時にフロントで荷物を部屋に運んでもらうようにしていたから、どんな部屋なのか今の今まで知らなかったのだ。
実際入ってみると、真っ先に見えたダブルベッドにぎょっとした。瑠璃はまったく動じた風もなく、荷物を漁っていて天喰だけが色々取り残されたようだった。
「水着、持って来たわよね?」
「あ……うん。持ってきてるけど……」
「じゃあ着替えて、今すぐ。私も着替えるから」
「ええっ!? それなら俺しばらく出て――」
「いーから。気になるならシャワールームでもなんでも使いなさいよ。着替え終わったら声かけるから」
普通気にするの君の方じゃないの、と内心で思ったけれどそんなことはなさそうだった。瑠璃に荷物ごとシャワールームに押し込まれた。天喰はこれでもたもたしてるのも瑠璃の機嫌を損ねると思い、しぶしぶ言うとおりに水着に着替えた。何で部屋で着替えるんだろうという疑問はあったけれど、深くは考えなかった。瑠璃が突飛なのは今に始まったことではないから。
そうして着替え終わるとしばらくして瑠璃から「いいわよ」と声がかかった。扉を開けるとバンドゥビキニに身を包んだ瑠璃がいた。
「うっ、うわあああ!!?」
「何を叫ぶことがあるの」
「だ、だって瑠璃ちゃ、露出がっ」
「水着なんだから露出はするわよ」
「でもっ、異様に面積がっ、取れそうで怖い……!!」
「そう簡単に取れないわよ」
茹蛸のように真っ赤になって慌てふためく天喰は、しっかり片手で両目を隠して顔を背けていた。瑠璃に「せめて何か羽織って……!」と懇願されるが、瑠璃は聞く気はなかった。
むしろ天喰に近づいて、蠱惑的な表情を浮かべていた。
「まぁ……? 解かれちゃったら取れちゃうわね?」
「……ぁ」
するっと瑠璃の指先が胸元のリボンを掠めた。これを解けば取れてしまう。天喰はもう勘弁してくれと言いたげだった。こんな状態の瑠璃を外に出したくなかった。
「お願いだから……その恰好で外に出ないで……」
「出ないわよ」
「え……?」
あっさり頷かれたことに天喰は呆気にとられた。じゃあ何で水着に着替えたの、と思っていると瑠璃がくすくす笑って天喰の手を引いた。
「こーいうこと」
「……え。ええええっ」
くるりと回転してシャワールームに逆戻りする。それですべてを悟った天喰は心臓が飛び出るほど驚くのだった。
瑠璃は慌てふためく天喰を無視して、そのままシャワーを一緒に浴びた。濡れた身体に天喰がますます情けない声をだすけれど、それもまた無視をして今度はボディソープを手に取った。泡状で出てきたそれをそのまま塗りたくってやろうかと思ったけれど、これはさすがに天喰が倒れかねないと思い、スポンジに移すことにした。
「はい。これ使って」
「瑠璃ちゃ……」
「自分でやらないなら私がやってあげてもいいけど?」
「自分でやりますっ!!」
勢いよく即答してゴシゴシと力いっぱい擦る天喰に瑠璃は軽くため息を吐くと「そんなんじゃ肌を痛めるわよ」と注意した。天喰はそれを受けて「う、うん」と擦る力を弱めるのだった。首元まで真っ赤だった。随分緊張しているらしい。
瑠璃は自分の分のボディソープを手に取ると、するっと肌を撫でるように擦った。
「一緒にお風呂とは言え、私たち水着着てるのよ? プールみたいなものじゃない」
「そ、そうかもしれないけど……一応ここ浴室だし……こ、個室だし……」
「なぁに、個室だからって意識してるの? 何かするつもり?」
「そそそそんなつもりは……!!」
慌てて全力で潔白を示そうとする天喰に瑠璃は呆れた目を向けた。「でしょうね」と返答する。天喰にそんな度胸がないことなんて分かりきっていた。仮に瑠璃がここで裸で迫ったところで服を着てくれと全力で顔を背けて懇願してくるだろう。下手するとそのまま気絶するかもしれない。
そういう意味では瑠璃はある意味天喰に一定以上の信頼があるのだった。でもそれって恋人としてどうなのとも瑠璃は思う。なので少しだけ意地悪することにした。すっと天喰へ肌と肌がくっつきそうなほど至近距離に迫る。慌てふためく天喰に瑠璃は意地の悪い顔をした。
「意気地なし」
「うっ……」
それだけ言うと瑠璃は天喰共々シャワーを上から被り、天喰の手を引いて浴槽に入った。これでもうただのプールだ。大したことないでしょうと言いたげに妖艶に笑うと、天喰が真っ赤になりつつもその口を開いた。
「君は……」
「なぁに」
「……もっと、自分を大事にしてくれ……俺も、男なので……油断してると酷いことをするかもしれない」
環くんが? と言おうとして言えなかった。茹蛸みたいに顔を赤くしているのに、その目が真剣だったから。真っ直ぐ瑠璃を見る目に何か鋭いものを感じた。
一瞬口を噤んだ瑠璃だったが、恥ずかしそうに眼を逸らした天喰によってそれは解けた。
「環くんのくせに……生意気」
「うっ……それは俺も思った……瑠璃ちゃんに酷いことなんて俺は……いやでも、本当気を付けて……男はみんな狼だって古来から言われていることだから……」
「……本当、生意気」
そんなことは瑠璃とキスの一つでも自分から出来るようになってから言って欲しい。
苛立ちを込めて手で水鉄砲を天喰に食らわせるのだった。見事に顔のど真ん中に命中したし、天喰は防戦一方だったのはもはや当然のことであった。
母が予約してくれた旅館は4つ星を取ったホテルだった。天喰は最初かなり驚いていたけれど、母のお友だちが厚意で融通してくれたというと何とも言えない顔をした。そのお友だちは多分普通のお友だちじゃないんだろうなと思った。実際母に惚れ込んでいる男の一人である。母は使えるものは何でも使えという精神であるから、ちっとも悪びれることなく娘と彼のためにお願いと頼んでいた。断れるはずもなかった。
それでもケチることなく素晴らしい部屋を用意してくれたし、プランもその他の軽井沢観光に必要そうなチケットもすべて手配してくれたから、瑠璃は「このお友だちは良い人ね」と母に一言メッセージを送ることにした。ついでに部屋から見える浅間山の眺望の写真も添えて。
「ね、環くん」
「な、なに?」
天喰は部屋に入った途端、またガチガチに戻っていた。チェックインの時にフロントで荷物を部屋に運んでもらうようにしていたから、どんな部屋なのか今の今まで知らなかったのだ。
実際入ってみると、真っ先に見えたダブルベッドにぎょっとした。瑠璃はまったく動じた風もなく、荷物を漁っていて天喰だけが色々取り残されたようだった。
「水着、持って来たわよね?」
「あ……うん。持ってきてるけど……」
「じゃあ着替えて、今すぐ。私も着替えるから」
「ええっ!? それなら俺しばらく出て――」
「いーから。気になるならシャワールームでもなんでも使いなさいよ。着替え終わったら声かけるから」
普通気にするの君の方じゃないの、と内心で思ったけれどそんなことはなさそうだった。瑠璃に荷物ごとシャワールームに押し込まれた。天喰はこれでもたもたしてるのも瑠璃の機嫌を損ねると思い、しぶしぶ言うとおりに水着に着替えた。何で部屋で着替えるんだろうという疑問はあったけれど、深くは考えなかった。瑠璃が突飛なのは今に始まったことではないから。
そうして着替え終わるとしばらくして瑠璃から「いいわよ」と声がかかった。扉を開けるとバンドゥビキニに身を包んだ瑠璃がいた。
「うっ、うわあああ!!?」
「何を叫ぶことがあるの」
「だ、だって瑠璃ちゃ、露出がっ」
「水着なんだから露出はするわよ」
「でもっ、異様に面積がっ、取れそうで怖い……!!」
「そう簡単に取れないわよ」
茹蛸のように真っ赤になって慌てふためく天喰は、しっかり片手で両目を隠して顔を背けていた。瑠璃に「せめて何か羽織って……!」と懇願されるが、瑠璃は聞く気はなかった。
むしろ天喰に近づいて、蠱惑的な表情を浮かべていた。
「まぁ……? 解かれちゃったら取れちゃうわね?」
「……ぁ」
するっと瑠璃の指先が胸元のリボンを掠めた。これを解けば取れてしまう。天喰はもう勘弁してくれと言いたげだった。こんな状態の瑠璃を外に出したくなかった。
「お願いだから……その恰好で外に出ないで……」
「出ないわよ」
「え……?」
あっさり頷かれたことに天喰は呆気にとられた。じゃあ何で水着に着替えたの、と思っていると瑠璃がくすくす笑って天喰の手を引いた。
「こーいうこと」
「……え。ええええっ」
くるりと回転してシャワールームに逆戻りする。それですべてを悟った天喰は心臓が飛び出るほど驚くのだった。
瑠璃は慌てふためく天喰を無視して、そのままシャワーを一緒に浴びた。濡れた身体に天喰がますます情けない声をだすけれど、それもまた無視をして今度はボディソープを手に取った。泡状で出てきたそれをそのまま塗りたくってやろうかと思ったけれど、これはさすがに天喰が倒れかねないと思い、スポンジに移すことにした。
「はい。これ使って」
「瑠璃ちゃ……」
「自分でやらないなら私がやってあげてもいいけど?」
「自分でやりますっ!!」
勢いよく即答してゴシゴシと力いっぱい擦る天喰に瑠璃は軽くため息を吐くと「そんなんじゃ肌を痛めるわよ」と注意した。天喰はそれを受けて「う、うん」と擦る力を弱めるのだった。首元まで真っ赤だった。随分緊張しているらしい。
瑠璃は自分の分のボディソープを手に取ると、するっと肌を撫でるように擦った。
「一緒にお風呂とは言え、私たち水着着てるのよ? プールみたいなものじゃない」
「そ、そうかもしれないけど……一応ここ浴室だし……こ、個室だし……」
「なぁに、個室だからって意識してるの? 何かするつもり?」
「そそそそんなつもりは……!!」
慌てて全力で潔白を示そうとする天喰に瑠璃は呆れた目を向けた。「でしょうね」と返答する。天喰にそんな度胸がないことなんて分かりきっていた。仮に瑠璃がここで裸で迫ったところで服を着てくれと全力で顔を背けて懇願してくるだろう。下手するとそのまま気絶するかもしれない。
そういう意味では瑠璃はある意味天喰に一定以上の信頼があるのだった。でもそれって恋人としてどうなのとも瑠璃は思う。なので少しだけ意地悪することにした。すっと天喰へ肌と肌がくっつきそうなほど至近距離に迫る。慌てふためく天喰に瑠璃は意地の悪い顔をした。
「意気地なし」
「うっ……」
それだけ言うと瑠璃は天喰共々シャワーを上から被り、天喰の手を引いて浴槽に入った。これでもうただのプールだ。大したことないでしょうと言いたげに妖艶に笑うと、天喰が真っ赤になりつつもその口を開いた。
「君は……」
「なぁに」
「……もっと、自分を大事にしてくれ……俺も、男なので……油断してると酷いことをするかもしれない」
環くんが? と言おうとして言えなかった。茹蛸みたいに顔を赤くしているのに、その目が真剣だったから。真っ直ぐ瑠璃を見る目に何か鋭いものを感じた。
一瞬口を噤んだ瑠璃だったが、恥ずかしそうに眼を逸らした天喰によってそれは解けた。
「環くんのくせに……生意気」
「うっ……それは俺も思った……瑠璃ちゃんに酷いことなんて俺は……いやでも、本当気を付けて……男はみんな狼だって古来から言われていることだから……」
「……本当、生意気」
そんなことは瑠璃とキスの一つでも自分から出来るようになってから言って欲しい。
苛立ちを込めて手で水鉄砲を天喰に食らわせるのだった。見事に顔のど真ん中に命中したし、天喰は防戦一方だったのはもはや当然のことであった。
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