独占欲とも呼べないで

寮生活になってから、入浴は大浴場に変わった。実に男らしく入った後、着替える爆豪の横で峰田が騒いでいた。


「なぁなぁ! 緑谷の妹の写真ねぇの? 出来ればエロいやつ希望!」
「死ね」
「おまえ仮にも元彼なんだろぉおお!? あのクソ美少女とあーんなことやこーんなことしまくったんだろぉおおお!?」

爆豪によって付き合っているというのは正しく訂正されたが、峰田は強かった。祈李は類稀な美少女である。一目見た麗日が千年に一度の奇跡と称したように、その美貌はみんなに強烈な印象を残していた。
爆豪はものすごくイラっとした様子で峰田を爆破した。こればかりは誰も苦言を呈さない。どう見ても峰田が悪かった。むしろよくやったとばかりに最近は女子からの爆豪の株が若干上がるのだった。


「峰田……さすがに今のは言い過ぎだぜ? それに頼むなら爆豪じゃなくて緑谷だろ」
「兄が妹のエロい写真持ってるわけねぇだろぉぉぉ」
「ブレねぇなぁ。でも爆豪そういうのは撮らねぇと思うぜ。割と潔癖なとこあっから。ネットリテラシーだなんだ気にするって絶対」
「なんでだよ! オイラは爆豪にそんなの求めてねぇんだ! ヤンキーでいてくれよぉぉおおお」
「それは偏見だぞ峰田〜」

ヤンキーならそっちの方もオープンに決まっているという峰田のド偏見に上鳴が気のない声で宥めた。
爆豪は自分と祈李の関係をそういう風に見られるのが酷く気持ち悪かった。祈李が異性に興味があったこともあり、そういった経験がないわけではないけれど、上鳴が言った通りそういう迂闊なことはしなかった。祈李が異性として注目を浴びやすいのも今に始まったことではなかったが、爆豪の彼女ということでここまで明け透けに話題に上ることも今までなかったのであった。


「爆豪、大丈夫か?」
「何がだよ」
「いや、機嫌悪そうだから。やっぱ元カノとはいえ一度は大事にした女なんだから、気分は悪いよな」
「……別に大事にはしてねぇわ」

切島に言われて、爆豪はそう答えた。大事にはしてなかった。していたらあんな風に付き合えと言わなかったし、別れを前提にすることも、そういうことを誘われるままにすることも、出久が雄英に入学すると知って泣いて震える祈李の肩を乱暴に掴むことも、嫌がると分かっていながら出久に祈李の気持ちを話すこともなかっただろうと爆豪は思った。
大事にはしていない。大事にできていないから。大事にしようなんてそもそも考えたことすらなかった。

風呂上がりで若干濡れた髪を拭っていると、上鳴がそういえばと話しかけた。


「爆豪さ、そのタオル色違いでもってるよな? 気に入ってんの?」
「あ?」
「ほら、オレンジのとライムグリーンのと。色違いじゃん?」

上鳴が指さしたのはクリスマスプレゼントとして祈李が贈ったタオルだった。
すでに中学時代は使っていたものがあったため、なんとなく保管していたものを寮生活になるに伴い、ちょうどいいからと引っ張りだしたものだった。
祈李が別れを前提に贈ったもの。そんなことを考えていたからか、上鳴が目ざとくその変化に気づいてしまったのだった。


「はっはー。分かった、それ祈李ちゃんからだな!?」
「は?」
「俺には分かる! 分かるよ爆豪! やっぱちょっと引きずるよな!? もう少し優しくしてやればよかったとか、もっと話聞いてやればよかったとか……」

勝手にわかるわかるとまるで理解者のように肩を組み、うんうん頷きながら話してくる上鳴に「おい」と声をかけたところ、上鳴が言った言葉に一瞬固まった。


「もう他の男できてんのかな……とかさ。気になるよな」

――他の男……。

祈李が出久と麗日と揉めた日のことを思い出す。祈李がてきとーな返事をしたおかげで勘違い男に連れ込まれる事態になったのだ。祈李がそうなったのは大方体育祭での出久を見て、すべてがどうでもよくなり適当な返事をしてしまったのだと爆豪は理解していた。
けれど、いくらでも祈李ならやっぱやーめたとできたはずなのだ。むしろ「冗談に決まってるでしょ。マジにしないでくれる?」とか平気で言う女だ。それをせずに受けたというのは……祈李が異性との触れ合いにわずかな救いを求めていたということに他ならなかった。


「なーんて……え、ちょ、まって爆豪。顔こわっ」
「あ゛?」
「えーマジだった感じ!? 爆豪わりっ、まさか当たるとは……!」
「当たってねぇわ自惚れんな!」
「ええっ……でもこれ状況的にそうじゃね!?」
「ちげェわ!!」

爆速で髪を乱暴に乾かし、爆豪はさっさと脱衣所を抜けた。
その後ろ姿を唖然とした表情で上鳴らは見送っていた。どう考えても違くない。意外と引きずってんのかと驚いていたのだった。











爆豪はイライラしたまま、祈李のことを考えていた。
それは写真から始まる。爆豪のスマホのアルバムの中には祈李の姿ももちろんあった。それは少女漫画に憧れる祈李がこういうのやってみたいと撮りまくったからだ。デート風景や、ちょっとしたイルミネーションなどそこには思い出があった。
そして際どいものといえば、一度祈李が「ちゅープリしたい」と言いだしたものだった。さすがにしなかったけれど。それでも祈李が聞かないから、爆豪の頬に口付けた祈李の写真をスマホで撮ったものが一枚だけあるのだった。


――こーいうの、他の奴とやりたかったんか。


そう思って、けれど秒で否定した。こういうのをやるのは彼氏だけだ。祈李は自分の価値に重きを置くから、誰でもするわけではなかった。けれど彼氏が出来たらいいとは思ってそうだなと思う。祈李の傍には今、光己くらいしか祈李を分かってくれる人間がいない。それに加えて、出久がヒーロー科に入って連合の襲撃を受けたりと心配事が絶えない。そんな中で祈李が誰かを頼りたいと思っても何ら不思議なことではなかった。


――イラつくなァ。


祈李が新しい彼氏に甘えているのを想像すると、果てしなく苛ついた。祈李がどんなに面倒くさいか、どんなにわがままか、どんなに顔以外ゴミカスか、それを分かっていないだろうと思う。
祈李と本当の意味で付き合えるのは自分だけだと爆豪は考える。そうして、祈李が求めるスペックをクリアした男と祈李が付き合って、笑っている祈李を想像すると――そうじゃねぇだろと思ってしまう。
祈李の一番大事なものもわからないで、祈李の恐怖を理解しないで、祈李の心の一番柔らかい部分に触れないで、そんな奴が祈李と長くやっていけるはずがないのは分かりきっていた。

でも、じゃあ俺にしとけとも言えるほど、祈李が好きなわけでもない。
ただひたすらに腹が立った。自分がいたポジションに、どうでもいい奴が収まることが。

祈李のラインにメッセージを送る「変な男に引っかかんじゃねぇぞ」といつかと同じセリフを吐いた。祈李からは「急に何!」と怒っている風なメッセージが届いたが、爆豪はそれを無視した。

いつかこのタオルも捨てる時がくるだろう。きっと写真だってそうで。自分がそうであるように、祈李も次の彼氏候補とやらができればすべて捨てるだろう。ひょっとしたら別れた時点で処分しているかもしれない。
爆豪が贈ったネックレスもブレスレットも、別れてから祈李がつけている姿は見なかった。それが何だか無性に苛ついて、ちったぁ引き摺れやと思うのだった。


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