鳥の遣い

秋、文化祭が終わった頃のことだった。轟が出久に「これ、おまえの妹じゃなかったか」とスマホの画面を差し出したことでそれが発覚した。


「え……祈李!? なんでっ」
「やっぱりそうか。葉隠に教えてもらった動画見てたんだが……おすすめにこれが出てきてな」

轟は今まで遊んでこなかった上に、友だちを作ってこなかったため、体育祭以降はみんながどんなものに触れながら過ごしてきたのかが気になるようで、こうしてちょくちょくおすすめを聞くことがあった。
その一つを見ていたらしく、いきなりおすすめのサムネイル画像に祈李が出てきたものだから、驚いたようだった。


「「千年に一度の美少女見つけたったー」……これ、評価が良い方も悪い方も多いな……どういう状況……」
「ちょっと見てみよう。内容が分からねぇことにはどうしようもねぇからな」
「う、うん……」

そうして再生した動画はまるでプロモーション動画のように祈李を中心に流れていた。
けれどそこには違和感しかなかった。祈李の視点がおかしいのだ。決してこちらを向かないし、背景もなんだが合成されているようだった。それに出久は一気に青ざめた。


「これって……! 盗撮!!?」
「……みたいだな。コメント欄それで荒れてんだ」
「ちょ、祈李これ知って……!?」
「知ってるかどうかはさておき、こういうの知らせていいのか? 本人が一番ショック受けるんじゃねぇか?」
「あ、そうだった……ごめん、驚いちゃって」
「無理もねぇよ。妹が勝手に使われてんだから……相澤先生に相談しよう」
「うん……」

この動画が投稿されたのは三日前で、その三日で祈李の可愛すぎる顔が話題を呼び、賛否両論を集めたのだった。盗撮を疑い、責める声が多く集まりそれは間もなく凍結されたが、一方で奇跡の美少女として祈李を特定しようとする人間も多かった。
早期に轟が見つけたことで、相澤経由でプロヒーローが祈李の護衛を引き受けてくれるとのことで、出久らは様子を見ることになったのだった。










「はぁ……」
「あはは、お疲れだねぇ、祈李ちゃん」
「そりゃそうでしょ……護衛っていったって、傍によく知りもしない人間がずっといるのよ? ため息の一つも吐きたくなるわよ」
「ため息つくと幸せ逃げるっていうけど、実際はリラックス効果があるらしいよ。なんで大いに吐いちゃって」

楽観的にそんなことを言うホークスに祈李は内心でヘラ鳥がと悪態を吐いた。
学生にとって、ユーチューブとラインはなくてはならないものだ。当然祈李自身も、学校でもあの動画は話題となった。それにどいつなのか分からなかったが、祈李は学校も名前も匿名掲示板で公開されてしまったのだ。幸いと言っていいのか、住所は公開されていなかったが、これも時間の問題だろうとプロヒーローが準備する宿泊施設にしばらく滞在することになったのだった。
これに伴い、引子はまた心配が爆発して取り乱すし、祈李も色々制限のある生活を余儀なくされて腹が立っていた。

それでも、まさかNO.2予定のホークスに護衛されるとは祈李も思っていなかった。雄英ネットワーク様々かもしれない。
ホークスは割と機転が利くというか、気が利いた方だったので四六時中祈李が分かるように傍に仕えることはなかったけれど、それでも祈李になにかある前に対処しているようなのは察していた。
日々出久と引子から心配するラインが届いては大丈夫、心配しないで。と送り、光己からも解決したら抹茶パフェ作るからおいでと言われて秒で頷いた。けれど、不特定多数の人間が祈李を特定して、どうにか接点を持ちたいと思っている今、いつまでこんな生活が続くんだろうという思いもあり、祈李はぽろっと本音を零すのだった。


「早く終わってよ……面倒くさい」

ベッドで丸くなって眠る。自分の顔が良すぎることは分かっているけれど、こんな注目のされ方は望んではいなかった。早く自由になりたい。寄り道もしたいし、光己にも会いたい。ヒーローが解決するのを祈李は静かに待っていた。

ところが――そう呟いた翌日、発端の動画を編集、投稿した人間が自殺したと報道された。
遺書が残されており、そこには祈李に対する謝罪と、どれだけ祈李に迷惑をかけたか悔いる気持ちと、祈李を特定して接点を持とうとしている者たちへ向けた忠告が記されてあった。いつかそういう人たちは自分と同じ道を辿るだろうと。
これを受けて一気にネットは非難一色になり、祈李、祈李と騒いでいた連中はなりを潜めるのだった。








「祈李ー! おかえり! 大丈夫だった!?」
「ただいま。大丈夫よ。ちょっと窮屈だっただけだから」
「すみませんー。やっぱ自由にしてとは言えなくて。お嬢さん、人気者すぎましてね」

相変わらずホークスは最後まで飄々としていた。やっと家に帰ってこれたことで、祈李は羽を伸ばすように「お疲れ様」とだけ言ってそうそうに部屋に戻った。それに引子が咎めるように祈李の名前を呼ぶが、聞いちゃいなかった。


「す、すみません……!」
「あーいいんですよ。彼女、わがままっていうわがままも言わずに堪えてくれてたんで。護衛しやすかったですほんと」
「まぁ……祈李が? それならいいんですけど……」
「それよりお母さん、一つ確認したいことが」
「なんでしょう……?」

不思議そうにする引子にホークスは軽薄な笑みを浮かべたまま、何気ない世間話のようにそれを口にした。


「お嬢さん、無個性だそうですが……それは本当ですか?」
「え……ええ、そうですが」
「最後に検査を受けたのは?」
「3つの時ですが……あの……?」
「じゃあ、一度検査してみるといいかもしれません。後天的に発現する可能性も、無きにしも非ずですから」
「……ああ、そうですね。祈李と相談してみようと思います」
「是非そうなさってください。うちの知り合いにいい医者がいますから、ご紹介しときますね」

そう言って予め準備していたかのように紹介状を取り出す。引子はそれを不思議に思いつつも受け取った。
ホークスはそれに満足して、それではと言って去っていくのだった。


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