変わる何か

爆豪は朝から届いた包みの差出人を見て、少し驚いた顔をした。それは祈李からで、開けてみると綺麗に包装された箱とメッセージカードが同封されていた。そのメッセージカードには「ハッピーバレンタイン。どーせ今年も私くらいにしかもらえないんでしょ。感謝してよね」と書いてあった。実に祈李らしく不遜だった。
追伸に今年は光己ママと作ったからまずいなんて言わせない、と書いてあり、密かに昨年のことを根に持ってんのかと思うと少し笑えた。


「……甘ぇわ。砂糖入れたの祈李かよ」

試しに一粒とって食べてみると、想像より甘かった。おそらく祈李がこっちの方が美味しいでしょと勝手に入れたに違いない。祈李は甘党だから。あいつも今頃ババアと抹茶パフェでも食ってんだろうなと思った。

祈李のラインに「甘ぇ」とだけ送るとすぐに既読が付き「もらえるだけありがたいと思いなさい」というメッセージと怒ったスタンプが送られてきた。
それについては何も返さなかったけれど、正直今年ももらえたことに関しては驚いていた。一応自分たちは元恋人だ。別れてからもこういったイベントをしてくれるとは思ってなかったのだ。


――おまえのお眼鏡にかなった男はまだいねぇってことか。


何ともなしに自然とそれが浮かんだ。祈李は顔にステを極振りした他がゴミカスみたいなやつだが、意外なことに恋愛に関しては誠実だった。浮気をすることはなかったし、爆豪をちゃんと恋人として扱っていた。いつか終わる関係だというくせに、そこら辺は潔癖だったと思う。
だから、自分に義理とはいえくれるのであれば、祈李はまだ次の恋人候補がいない段階なのだろうと漠然と思ったのだった。


「ま、おまえと付き合える奴なんて……なかなかいねぇだろうな」

自撮りされてある祈李のアイコンに向けてそんなことを呟いた。
祈李の気を引きたくて、祈李と付き合いたくて、祈李に言い風に見られようと祈李が冷たく接する出久の悪口を言う者は多かった。それが地雷とも知らないで、祈李に媚びを売る人間ばかりだった。
出久を心底嫌う爆豪が祈李の信頼を勝ち取っているのは、出久を打ちのめし、止められる唯一の希望として考えているのと、爆豪自身が祈李のことを誰より理解しているからだった。
だからまぁ、言ってはいないけど中学の時にワンチャンダイブなんて言ったのが知られたら、祈李はそれはもう怒るだろうと思った。

そしてそんな風に今まで思ったことなんてなかったのに、思い始めた自分の変化に爆豪は少し考える。
上鳴に言われてから調子がおかしい。祈李の心配なんて大してしたことなかったというのに、動画が話題になったときには柄にもなくメッセージを送った。もう別れているのに。愛だの恋だのがあった関係でもないのに。
出久が新しい力を開放する度、力をつける度、祈李の顔が脳裏を過る。「あいつ、泣くな」と漠然と思うのだ。

それでも爆豪はもう止める気はなかったし、それどころか出久に手を貸す側にいる。変わったかと聞かれるなら、変わっただろう。認めたというのなら……それはまだ、完全には頷けない。けれど祈李が恐れていたようになっているのは間違いなかった。












インターンが始まって1ヵ月経った今は、それなりに生活にも慣れてきた。
エンデヴァー事務所ではNO.1ヒーローの事務所ということもあり、一日100件もの事件を裁く。そうして裁いていた頃、ある調査をすることになった。


「祈李の……身辺調査?」
「ああ」

エンデヴァーがどこか堅い顔で頷く。今まで受けた依頼の中にある法則性がうまれたためだった。


「最近……彼女の周りの人間に程度の差はあれ、不幸が続いている。これを見てみろ。今まで裁いた依頼だ」
「……本当だ。全員何かしら祈李と接点がある……」
「2月14日以降急増してるな。……バレンタインか?」
「だろうな。祈李にしつこくチョコをねだってた男子生徒は車に跳ねられ骨折。本命の男取られたって騒いだ女子生徒は帰り道で強盗犯に人質にされてる。街中で絡んできた酔っ払いに悪質なスカウト……他にもまぁ、程度はあれ色々起きてんな」

バレンタイン以降の事件を探っただけでもこの調子だった。三人は堅い顔をして資料を見ている。そしてふと思い出した。そういえば他にも騒動になったことがあったと。


「確か動画のやつ……自殺したんだよな」
「ああ。他にも、祈李にしつこく付きまとってたやつも敵に襲われて心神喪失してる」
「……まるで天罰だな」

まとめるように呟いたエンデヴァーに出久はハッとする。
これではまるで祈李が何かしたみたいだ。わがままで、ツンとして、あんまり性格もいい方ではないけれど、そんなことをする子ではないということは誰より出久が理解していた。


「祈李じゃないです! 兄の僕が言っても説得力ないかもしれないけど、本当にそんなことをするような子じゃないです! そりゃ口も悪いし、態度もそんなに良くない子だけど……! でも、やっていいことと悪い事の分別はちゃんとしてます!!」

出久の脳裏に勘違いで祈李を責めてしまったときのことが浮かんだ。
あれから本当に後悔した。自分は妹の何を見て、何を知った気でいたんだろうと。祈李の言った通りだと思った。だから出久はあれから祈李をちゃんと見ようとした。まだ祈李が何を考えているかなんてわからない事ばかりだけれど、それでも祈李が自分が傷つけられたからと仕返しをするような子じゃないのはよくわかっていた。
だってずっと祈李はそうだった。「おにーちゃん」と笑って出久に全幅の信頼を寄せてくれていた祈李は、いつだって「おにーちゃんがかわりにおこってくれたからそれでいーよ」と笑う子だったから。


「俺もこの子がやったと決めつけているわけじゃない。ただ、この子の意志がそこにないだけで、起きている可能性は考えている」
「え、それって……祈李に個性≠ェあるかもしれないってことですか?」
「無個性だというが、自らも知覚できていないだけで発現している可能性はある」
「それならあの動画の騒動の後、病院で検査を受けてます。それでも祈李は無個性≠ナした」
「……そうか」

祈李は疑いようもなく無個性だった。病院での検査には限界がある。ラグドールが持っていたサーチのように個性を把握できれば確実だが、そのラグドールは個性を奪われたままだ。HN――ヒーローネットワーク――を見てもそれらしい個性の者はおらず、とりあえずの結論として祈李の身辺をパトロールすることにしたのだった。


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