春よ待て

無事に祈李と連絡先を交換した轟は、出久と爆豪にこういうのは送ってもいいだろうかと確認をとりながら祈李と連絡を取っていた。爆豪は知るかとろくに取り合わなかったが、出久がその分よく面倒をみていた。あまりに轟が祈李と連絡を取りたがるものだから、これはひょっとしてひょっとするのかと思い、思い切って聞いてみた。


「その……轟くんは祈李のことどう思ってるの……?」
「どうって……緑谷の妹で、可愛いやつ」
「可愛いっていうのは……女の子として……だったりする?」
「? あいつは女だろ。妹なんだから」
「あーうん、そう、だねぇ……」

きょとんとした顔で何言ってんだといわんばかりに返されて、出久は少々頭を抱えた。
そこにちょうど話を聞いていた芦戸と葉隠がそれはもう興奮した様子で追撃した。


「そりゃ可愛いっていったら恋でしょ! 恋!」
「あっ、芦戸さんっ」
「轟くんもついに恋を経験しちゃったんだねぇ! 轟くんイケメンだから上手くいくと思うよ!」
「葉隠さんまで……!」

恋バナに飢えた二人がこのこの〜、と言わんばかりに轟を弄る。轟は恋と言われてはてと首を傾げた。


「恋、じゃねぇと思うんだが……」
「え、そうなの?」
「でも聞いた感じ緑谷の妹と話したいんでしょ〜? それはもう恋じゃん!」
「いや、そうだけど……そうじゃねぇんだ」

轟の否定に芦戸は恋バナに飢えすぎて、もう無理やりにでもそっちの方向にもっていきたいところだった。それを緑谷が宥めて、葉隠と一緒に轟にどういう意味かと説明を求める。
轟は若干困惑しながらも、思っていることを教えてくれた。


「なんつーか、祈李とどうこうなりてぇわけじゃねぇんだ」
「ええっ、こんなに連絡取ろうとしてるのにぃ?」
「ああ。話したいと思うし、祈李のことをもっと知りたいと思う。でも、祈李と付き合って、恋人として過ごしたいとは思ってねぇ。そういうんじゃねぇんだ」
「わ、わかんない〜!」

自分のことを知ってほしいし、祈李のことを知りたいと思う。けれど付き合いたいわけじゃないというのに、葉隠は小首を傾げて悩みつつ、口に出した。


「それって、祈李ちゃんのファンってこと? 可愛いもんね」
「ファン……?」
「大好きなアイドルを応援してる感じ? あ……でも自分のこと知ってほしいんだよね。個人的に仲良くなりたいならちょっと違うのかなぁ」
「そう、だな。見守りたくはあるが……仲良くもしてぇ」
「もうそれ恋だよ〜! 恋でいいじゃんねぇ〜! 恋バナ聞かせてよ〜!」
「芦戸さん……」

出久は芦戸さんすごいな、と思いつつも轟が言った事を頭の中で考えた。そしてもしかしてという結論にたどり着く。そもそも轟は妹というものに反応していたから。


「もしかして……祈李のこと、妹みたいに思ってる?」
「……そう、だな。それだ。俺は祈李を妹のように思ってる」
「そういう感じか〜!」
「ええっ、病院で会った一回きりだけどさ、緑谷の妹そんな妹妹してなかったよ〜!」
「あ、はは。でも祈李もちゃんと妹だよ。嫌いなものが夕飯に出るとこっそり僕の器に入れちゃうんだ。「お母さんには内緒だからね」って。結構わがままだけど、可愛い妹だよ」
「へ〜、意外と子どもっぽいところあるんだ! 可愛いね、祈李ちゃん!」
「ああ、可愛い。いくらでも代わりに食ってやりてぇ」

轟のちょっとずれた発言に出久と葉隠――見えないけれど――は苦笑した。
やっぱり轟は祈李を妹のように思っているらしい。末っ子で家庭環境が特殊だった分、轟は兄妹の気安いやりとりというか、わがままに無縁だったのだろう。そんな中現れた出久の強烈な妹に大いに興味を惹かれたらしかった。












そうして轟らが盛り上がっている中、離れた場所で会話が耳に入っていた爆豪は苛立ちと同時に、ほっとするような何かを感じていた。
手に持っているスマホの画面は祈李とのトーク画面が開かれており、そこには祈李の轟に対する愚痴が呟かれていた。けれど迷惑だという割にブロックしていないところを見ると、許容範囲であるのも間違いなかった。ただ何となく聞いてほしかったのだろう。

爆豪が自分の中の祈李への気持ちに名前を付けて以降、だからといって今までろくに連絡をとっていなかったのに急に取るのもなとプライドが邪魔していたら、轟という積極性の塊りのおかげで図らずも祈李からよく連絡が来るようになったのだった。
愚痴ついでに祈李が最近あった面白い事や、件の女の子とこんなところに行っただの写真もたまに送られてきた。爆豪は「おまえのダチがこういうタイプになるとは思ってなかったわ」と軽く返した後、送られてきた写真を保存した。あの事件の発覚からそう時間は経っていないが、立派な親友と呼べるものだった。

明らかに正反対のタイプなのに祈李は全く気にしていない。むしろ、急に仲良くなったことで文句を言ってきた取り巻きに対しても「私はあんたよりこの子のことが好きだけど? てか、私あんたに興味ないし」と言い返してしまう始末で、そこから大喧嘩になったと祈李がイライラした様子で電話をかけてきたりしたこともあった。
祈李はクソナード差別がない。クソナードと主に出久を示す言葉として口にすることはあるが、だからといって偏見があるわけではないのだ。良くも悪くも、祈李はそれを個性≠セと思っている。


――おまえ、無個性で正解だったな。性格ゴミカスがただのゴミになったわ。


光己が嬉しそうに電話してきたことがあった。毎回絶対祈李の話もあるのだが、友だちができて楽しそうに過ごしている様子や、光己に「友だち連れてきていい?」とおずおずと聞いてきたことがあったらしい。光己は二つ返事をして、抹茶パフェを作って三人でお茶をしたとのことで「いい友だちに恵まれたようで何よりだわ」と電話口でもわかるくらい笑っていた。

祈李が「ホワイトデーなにくれるの?」とメッセージを送ってきたので、爆豪は少し考えてから「大人しく待ってろ」とだけ送った。何にするかは決めていた。ただ、それは出来れば直接渡したいと思う。だから待ってろという。


――遅くなっても黙って待ってろ。大事なもんだから、ちゃんとさせろや。


今だけはこの寮生活も窮屈に思えた。思うように会いに行けないのも、支えてやれないのも。
けれど、もういいのかとも思う。祈李は支えてくれる人間を見つけたのだ。祈李のことが好きで好きでやまない友だちを。
何だかそれも若干面白くはないのだが、それ以上にま、よかったんじゃねぇのと思う。さすがに友だちの一人もいないのは……可哀想だから。


戻る TOP