思い出だけがここにある
付き合って一か月ごとの記念日のお祝いといったものはしなかった。そんな甘い関係ではないし、一か月経ったから何かあるわけでもなかった。
けれどクリスマスがそこに迫っていて、それはさすがに何か用意をしようと思って色々悩んでいた。
「祈李はさー、クリスマスやっぱり爆豪先輩と過ごすの?」
「あー……どーかな。特に決めてない」
「親公認なんでしょ? 泊まったりしないわけ?」
「泊まるのは別にいつものことだし……」
「さすが爆豪先輩。大人じゃん」
「いや別にそういうんじゃないし」
またまた〜、と悪ノリしてくる取り巻きにうんざりした。
両家公認なのはそもそもが祈李が爆豪家に入り浸っているからだ。光己は本当にいい人で、実の母親より祈李のことを分かっていた。祈李は母の過干渉が嫌だったし、出久と一緒にいるのも嫌だった。光己は祈李の危うさを知ってか知らずか、爆豪家を祈李の逃げ場にしてくれた。本当に実の娘のように可愛がってくれて、祈李が話したくないことは話さなくていい環境が祈李にとっての救いだった。
なので今更爆豪家に泊まるというのは特別なことではない。
実際、爆豪と……彼氏とそういうことをしたのかと言われたら、したのだけれど。やっぱり甘い何かがあったわけじゃないし、祈李も特別そういうものを求めてはいない。あえて言うなれば、この可愛い私を抱ける栄誉を噛みしめろ、くらいである。爆豪は噛みしめたりなんてしなかったけれど。
「でもプレゼント交換くらいはするでしょ?」
「それはさすがにするんじゃない? でも何あげていいかわかんない。私、勝己の好きなものとか辛いものってことしか知らないし」
「さすがにご当地激辛厳選みたいなのはねぇ……ないよね、味気」
「ないない。何にしよっかなぁ……」
爆豪がどんなつもりで考えているかなんてわからないけれど、祈李はクリスマスプレゼント選びに難航していた。他に彼氏がいる人いないかなときょろきょろと探すと、そこには大人しそうな感じの女子生徒がいた。確か図書委員で、同じく図書委員の男子と付き合っていた気がする。
参考にしようと思って、ねぇ、と祈李は声をかけた。
「な、なにかな、緑谷さん」
「そんな怯えないでよ。意地悪するんじゃないから」
「ご、ごめん」
「……え、私そんな怖い?」
「いや、そうじゃなくて……緑谷さんすごく可愛くて……気後れしちゃうっていうか」
「それなら仕方ないね」
秒で納得した祈李に、取り巻き達が爆笑したので「なによ、ほんとのことでしょ」と睨んだ。「ごめんごめん、祈李がすごい祈李で笑った」とまだ笑っているからちょっとムカついた。
けれど目的は参考にすることである。祈李は怖がらせないように、少しだけ気を遣って話した。
「クリスマスプレゼントさ、彼氏になにあげるか決まってる?」
「えっと……私は本とブックカバーをあげようかなって」
「図書委員だもんねぇ……そっかぁ……勝己にそれあげてもあんま喜ばなさそ。てか私、本とか漫画しかわかんないや……」
「ごめんね緑谷さん……あんまり力になれなくて」
「気にしないでいいから」
本かぁ、と思うとじゃあ自分が厳選した少女漫画でも贈ろうかと思ったけれど、確実キレてその漫画たちは爆破される未来だなと思うと、益々何を贈ったらいいのかわからなかった。
スマホで「中学生 彼氏 クリスマスプレゼント」などと検索してみる始末。けれど出てきたものにげ、と顔を顰めた。
「なになにどった」
「日用品とか文房具が出てきた」
「めっちゃ実用的じゃん。いいんじゃない?」
「よくない。勝己あれでかなりこだわりあるから、使わないと思う。めっちゃ見る目厳しいよ」
「あー……そんな感じするわ」
「参考にならん。もういい、お店行って決める」
電源をいらっとしながら落とした祈李に「どんなお店行くか決まってんの?」と取り巻きが尋ね、祈李は「それも今から考える!」とキレ気味に返事した。こだわりの強い彼氏はこれだから大変なのだ。
次に付き合う人はこだわりのない人にしようと思う。どうせ期限付きの付き合いだから。多分、爆豪が高校に上がるころには別れているだろうなと祈李は思っていた。
祈李が爆豪のことで知っていることはそんなにない。辛いものが好きというのと、光己に――反抗はするが――頭が上がらないのと、ヒーロー志望でこだわりが強いことくらいだった。
普段から身に着ける系のものは論外として、文房具も書きやすさや消しやすさ、あとデザインなどそこら辺を重視しているはずなので除外した。マグカップというのもランキングにのっていたが、万が一気に入って使われたとして、元カノが贈ったマグカップ使ってる彼氏とかいやだなと思った。別にその女に気を遣う必要はないのだけど、いらん修羅場には巻き込まれたくない。祈李の顔を見た瞬間、戦意喪失させる自信しかなかった。私は可愛い。
それがもし爆豪の本命だったりしたら目も当てられない。祈李は爆豪に逆恨みされたくなかったのでもっと処分しやすいものにしようと思った。
「つっても食べ物系はあんまりだしなぁ……クリスマスプレゼントってそういうんじゃなさげなイメージ……ん、あ、あそこいいかも」
あーでもない、こーでもないと思っていると目に入ったのはスポーツ用品店だった。ヒーロー志望である爆豪はよく身体を鍛えている。同じ部屋にいても筋トレとか普通にし出すし、何なら気まぐれに上に乗っかったりしているため、ここははずれがない気がした。
中に入ってみると、靴やらジャケットやらが結構多かった。そっちはなしだなと思いながら、もっと手軽なのないかなと探していると、いい感じのタオルを見つけた。
「え、なにこれ。勝己っぽ」
黒地にオレンジのラインが入ったタオル。ちょっと触ってみるといい感じの肌触りだった。秒でこれにしようと決めた。今まで悩んでいた時間は何だったんだと言わんばかりの即決だった。
それをプレゼント用に包んでもらって、そのままラインでクリスマスの日に約束して、爆豪の家に行くことになったのだった。
爆豪の家に来ると、そのままクリスマス会とお泊りの流れになった。祈李は今回明確に決めていなかったのだけれど、光己は二人が付き合ったのもあり、当然そのつもりと思って用意をしていたらしい。「あら私、余計なことしちゃったかしら?」という光己に「私もそうしたい。泊ってく!」と言ってそのまま爆豪邸に宿泊することになった。
あまりに頻繁に宿泊するため、いつでも泊まれるようにお泊りセットは常備しているのが救いだった。
テーブルには祈李の好きなものがたくさん並んでいて、爆豪の好きな激辛料理もちょっとあった。この比率に爆豪はちょっと物申したくなった。
「おいババア! なんで露骨に祈李贔屓なンだよ!」
「ババアって言わないの!!」
「いってェ!!」
「祈李ちゃんは娘も同然なんだから。可愛い女の子の笑顔が一番に決まってるでしょ」
「こいつが可愛いのは見た目だけだわ……!!」
「あんたも祈李ちゃんのことは可愛いって認めざるを得ないもんね。ごめんね祈李ちゃん、素直じゃない困った子だけど愛想つかさないでやって。ムカついたら殴っていいから」
自分が悪者扱いされることに爆豪は「俺が悪いンかよ!!」と吠えた。光己はろくにとりあってくれなかった。爆豪家では女が強いのだ。
そんなこんなで光己が作ったご馳走を食べ、ケーキも食べて、後は寝るだけの支度を整えて、部屋でプレゼント交換をすることにした。
ん、と渡された小さな袋に何が入ってるんだろうと思いつつ、受け取り、祈李もタオルの入った袋を渡した。同時に開けると中から出てきたキラキラしたものに、祈李は驚いた。
「え……」
「んだよ。気に入らんかったんか」
「いや……そうじゃなくて、勝己がこういうのくれるとは思ってなかったから……予想外」
出てきたのは繊細なネックレスだった。中央にはクローバーが象られており、何だか端的に言ってかわいいデザインだった。
爆豪はそっぽを向いて口を開いた。
「ババアが、彼氏ならアクセサリーの一つくらい贈れってうるさかったんだよ」
「ああ、そういう。別にいいのに。ずっと一緒にいるわけじゃないんだし」
「おまえなァ、それ今言うか」
「何よ。ムード何て私たちの間には欠片もないでしょ」
「それはそうだな」
爆豪もそれには大いに頷いた。そういうことをするときも、ムードなんてなかった。いつもギャーギャーとうるさいものだ。
けれど、もらってうれしくないわけではなく。祈李はもらったネックレスつけて。クローバーをぎゅっと握った。
「ありがとう。大事にする」
「おう……」
「勝己のそれは彼女できたら捨てなさいよ。面倒ごとはごめんだから」
「だから! それ今言うか!?」
「予め言っとかないと、別れる時に言ったらなんか当てつけみたいじゃん!!」
「気にするとこそこかよ!!」
相変わらずムードもへったくれもない。ギャーギャー騒いで、ヒートアップして、顔が近くなって、それに気づいて、どちらともなくキスをした。
恋愛感情は依然としてお互いに芽生える兆しはなかったけれど、それなりに恋人らしく過ごしてはいるのだった。