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同士よ、スタートを切れ

 


「なぁ、医刀はどんな音楽聞いてんだ?」
「あ……? 音楽ぅ?」

それは文化祭が始まる少し前のことだった。
轟に突然そんなことを聞かれた万癒は、怪訝な顔を浮かべた。


「何だいきなり? なんかアンケートでも取ってんのか?」
「いや、そうじゃねえんだ。俺は……今まで音楽聞いたりとかしてこなかったから、みんなどういうものに触れてきたのか気になって……」
「ああ、そういう……」

以前、轟が自分は、オールマイトを超える為に生まれ育てられたと言っていたことを思い出す。それと同時に、みんなと並びたいと言っていたことも。
そういうことなら、と万癒は口を開いた。


「私は聞くっていうより、弾くタイプだ。けど、別に何かの曲を弾いてるわけでもなくて……ただ、てきとーに弾いてる」
「そうなのか」
「そう。だから音楽に関しちゃ私もあんま詳しくはねぇよ。参考になれなくて悪かったな」
「いや、いいんだ。そうだよな……考えてみりゃ、おまえも俺と一緒だったな……」
「……」

轟の反応に万癒は何とも言えない顔をした。一緒といっていいのかどうなのか、万癒も確かに遊んでなんてこなかったが、それでも自分の意志でそうあることを選んだのに対し、轟に選択肢があったとは思えなかった。
遊んでこなかった者同士、みんなが当たり前に触れてきたものも仲良く知らないわけだ。
万癒は少し考えて、行動に移すことにした。














「医刀がウチらに用があるって、珍しいね。どうしたの?」
「何でもどんと来てくれていいぜ!」

万癒は轟と分かれた後、上鳴と耳郎に聞きたいことがあると呼び出していた。
二人は快く頷いてくれ、こうして集まっていたのだった。


「おまえらさ、どうやってハマる曲見つけてんだ?」
「曲?」
「そう。ほら、今まで聞いてきただろ、音楽」
「あー、そういう」

音楽に対して造詣が深い耳郎と、流行りのものをよく知っている上鳴に尋ねるのは非常に理にかなっていた。
そういや少し前に轟にも聞かれたなと思いつつも、上鳴がアドバイスした。


「俺はなんつーか、おすすめとかから知ったりするんだけど……なんつーか、アニメとかドラマの主題歌ってのも結構いいと思うんだよね」
「主題歌? 知名度の問題か?」
「いや、それもあるんだけど、なんていうかこう……」
「あーわかる。テーマに合わせて作られてるから、より入り込みやすいんだよね」
「そうそれ! 世界観っつーの!? そういうのがあるとハマりやすいなって思う!」
「世界観、か……なるほどな」

上鳴の言っていることも一理あると思い、万癒は頷いた。
妙に真剣な顔をしている万癒に、耳郎が少し考えて口を開いた。


「医刀さ、ちょっと肩の力抜いてアニメとか見てみない?」
「主題歌への理解を深めるためか?」
「いや、そうじゃなくてさ。それはステップ進みすぎ。その前段階の、まず……作品を楽しむことから始めたらいいんじゃない?」
「作品を楽しむ……?」

どういうことだ、と耳郎の言っていることがよく分からず聞き返す万癒に、耳郎がほら、と教えてくれる。


「音楽ってリラックスしたり、感情をうまく表に出してくれるものだったりするわけで、でも医刀が知りたいのはハマる曲っていうか、楽しめる何かじゃないのかなって思って。それが音楽そのものである必要も、音楽じゃないとダメな理由はないと思うんだ」
「おまえ……」
「だって、医刀なら「こういう感じの曲を教えてくれ」って言うでしょ。抽象的すぎて医刀らしくないよ」

耳郎の指摘に、万癒は痛いところを突かれたような顔をした。
すっかり自分という人間を理解されてしまっている。万癒は小さく唸り声を上げて「ありがとな!」と悔し気に声を出すと、上鳴と耳郎は顔を見合わせ「「どういたしまして」」と笑うのだった。

そうして、耳郎のアドバイス通りアニメを見ようとして、だがどれを見ていいか分からず止まっていると、上鳴が横からさっとチャンネルを変え、万癒でも知っているポケットなモンスターが映し出された。ちょうどCMでゲームの紹介が流れていた。


「お……これ、ゲームあんのか」
「そそ。結構シリーズ出てるよ。どこから始めても問題ないし、ゲーム初心者にもおすすめ!」
「へえ……でもこれ2作同時に出るんだな? 何でだ?」
「それは出てくるモンスターとか、若干世界観が変わったりするんだよ。通信前提っていうか、友だちと交換とかして遊ぶもんなの」
「コミュニケーションまで考えられてんのか。さすが国民的アニメだな」

真面目な顔でそんなことを言っている万癒に、上鳴が笑った。
交換して友だちと遊ぶ、というのならこれが良いかもしれないと思い、万癒はさっそく通販で頼むのだった。


「えっ……即買い!?」
「ああ。気に入った」
「今の今で!?」
「初心者でもできて、大体の人間が知っている。いつ始めても大丈夫で、友だちと一緒に遊ぶもんなんだろ。じゃあこれしかねぇよ」
「だからって、端末二台即ポチする人は俺初めて見たよ……」

そんな遊びたかったのね……と上鳴は温かい目を向けた。
万癒は今から予習しないとな、とアニメをじっと見ており、ここでも真面目な様子にもう万癒のこれは万癒なりの遊び方だろうと思い、見守るのだった。










そうしていざそれが届くと、万癒は真っ先に「轟ー! ちょっと付き合いやがれーー!!」と声をかけるのだった。轟は珍しく万癒から声がかかったことに「お」と驚いていたが、すぐに「どうした?」と寄ってきた。


「ポケットなモンスター狩りするぞ」
「狩り……?」
「好きな方を選べ。出てくるモンスターが若干違うらしい。後で交換して遊ぶんだよ」
「そうなのか……俺はどっちでもいいぞ」
「じゃあおまえこっちな。白と赤はおまえの色だろ」
「お……」

パッケージと押し付け「どうせおまえ端末持ってないだろ。しばらく貸してやる」とゲーム機も押し付けた。轟は無表情なりに大分戸惑っていたが、万癒は気にせず押し切った。
初期設定を一緒にやり、ついでにさっさと開封して主人公のキャラメイクをしていると轟が口を開いた。


「なんで……いきなりゲーム始めたんだ?」
「……おまえは、みんなが今まで楽しく、当たり前に触れてきたものに触れたかったんだろ」
「……ああ、あれか。気を遣わせちまったか……わりぃ」
「謝んな。別に……私らは同じだろ。知らねえもんだらけで、同じだけあいつらから遅れてる」
「医刀……」

何せ人間初心者同士である。人の心というものを知識では知っていても、それをちゃんと理解するまで時間がかかった万癒と、血に囚われて自分を見失っていた轟。
自分たちは同じだと、万癒は結論付ける。でも、だから、だからこそ。


「だから……私だけは、おまえと同じスタートを切ってやるよ。みんなが知ってて、私らが知らねえもんは……一緒に今から始めればいい。別に、いつ始めたって……遅くなんかねぇんだから」
「……そうだな」

一緒に少しずつみんなに追いつこう。それは言葉にしなくても確かに轟に伝わっていた。
冒険へのスタートボタンを同時に押す。
それは新たな世界の幕開けだった。













「だああああ! だから!! おまえこの変なニックネームやめろって何回も言ってんだろ!!?」
「変じゃねえ。立派な名前だ」
「ありがとな!? でもこういうのは望んでねえんだよ!! 恥ずかしいからやめろや!!」
「いやだ」
「ちゃんと嫌なことは嫌って言えて偉いなー!? でもここは聞け!!」
「いやだ」

ぎゃーぎゃー共有スペースで端末を並べながら喚く万癒に、周囲はまぁたやってると微笑ましいものを見る目を向けた。
順調にポケットなモンスターを集めて、いざ交換したはいいが、轟はニックネームをつけるタイプだったらしく、ニックネームがついたポケモンがやってきた。それはいい、いいのだが……そのニックネームが問題だった。


「どんな気持ちで自分とは似ても似つかねえ、同じ名前がついたモンスター受け取ればいいんだよ!?」
「喜べばいいんじゃないか?」
「ブサモンにおまえの名前つけて送ってやろうか」
「つけてくれるのか?」
「受け入れるな嫌がれ!! 嫌がるポイントがずれてんだよ!!」

万癒の名前がついた、ショートから送られてきたモンスターに何とも言えない顔をする。
万癒に似ても似つかない、可愛いピンクの癒し系モンスターだった。通算10体目の万癒である。いや多いわ。


「そんなに似てないか?」
「似てねぇよ……どピンクじゃねぇか」
「いや、でも……似てるだろ。女医さんのとこいるぞ。調べたが、こいつの回復技はすげぇ。レイドにこいつがいると安定すんだ」
「……私の個性は治癒じゃなくて手術だかんな……そんなキラキラしてねぇぞ……」

どっと疲れた声で抗議すると、轟は何言ってんだ? と言った顔できょとんとしていた。
なんだよ、と万癒が轟の顔を見ると、轟はさも当然とばかりに口にした。


「おまえがいればどんな怪我しても大丈夫だろ。おまえがいるから、俺らは安心して更に向こうへ行ける」
「轟……」
「そう、だから……おまえはポケットなモンスター界のラッ――うぐっ」
「言わせねぇよ!!?」

なんだよ色々台無しだよ! と万癒は心中で叫んだ。
てかだからか、だからやけにこのモンスター送ってくるのかと合点がいった。どんだけ育ててんだよモンスター界の万癒を。過労死すっぞと少し心配になった。


「つか、ニックネームつけなくても別にいいだろ。私つけてねぇぞ」
「それは猫にねこって名前つけてるようなもんだぞ……可哀想だ」
「……そういわれるとなんも言えねぇじゃねぇか」
「だろ? だから医刀もつけてやれよ。愛着もわくぞ」
「……」

確かに愛着がわかなきゃ、こんな大量にモンスター界の万癒作れねえわなと納得する。妙な説得力があった。
一つ舌打ちをして、そこらへんで捕まえたモンスターにぱっと思いついたニックネームをつけると、横から見ていた轟が笑った。


「ふっ……やっぱりおまえもそうなんじゃねえか」
「おまえと一緒にすんじゃねえ。こっちはこれ以上なくハマり役だわ」
「頭がそっくりだな」
「足の色も似てんだろ。あいつ赤い靴だし」
「……本当、よく見てるよな……」
「手がかかる患者だからな!」

クソもじゃと名付けられたそれは、もじゃもじゃの髪の毛と赤い足が特徴的なモンスターだった。
そうして騒いでいると、なになにーと寄ってくるクラスメイトがちらほらいた。


「命名、クソもじゃ」
「ブッフォッッ」
「緑谷くん!? 似てる似てるー!!」
「ねえねえ他には!? アタシもいる!?」
「俺は!?」
「私のはこれが初めてだ。でもこいつは滅茶苦茶いる」
「おう、めっちゃいるぞ」

肯定した轟にみんなみせてみせてと画面に集まってくる。
絶妙に似てなかったり、似ていたりするそれにみんなが笑っていた。


「ね、万癒! 俺のも作ってよ! 絶対バトルでも大活躍間違いなし!」
「ハッ……アホにならねえ分、こっちのが優秀かもな」
「うっ……でも俺は1000万ボルトも出せるんで! 看板モンスターにだって負けねえよ!?」
「はいはい」
「万癒〜!」

ポチポチと操作しながら生返事をする万癒に、上鳴が情けない声を出す。
ゲットの効果音が鳴り、カチャカチャとボタンを動かし、画面を上鳴に向けた。


「……え」
「負けないかどうかは、これから判断しようじゃねぇか」
「万癒さ〜〜んっ!!」
「うるせえ、抱き着こうとすんじゃねえ!!」
「フボッ」

看板モンスターに名前を付けられたことで、上鳴は感極まってそのまま万癒に抱き着こうとすると、容赦なくぶん殴られた。それを見ていた轟が「そういえば、あれもパンチ技覚えさせようと思えば覚えるんだよな」と呟くと、にぎやかし組が「やっぱ似合うよ医刀!」「よっ! モンスター界のヒーラー役!」「ピンクの悪魔!」とかなんとか言い出し「おい最後!! 何だ悪魔って!!」とブチギレるのだった。


「ねね、私とも交換しよ〜!」
「つかレイド一緒やんね!? あれ定期的にイベあるっしょ?」
「いいなそれ! つか対戦も普通にしてぇ! 意外と頭使うんだよなぁ」
「お。じゃあ優勝者には俺ケーキ焼くよ。景品あると盛り上がるだろ?」
「では私もお紅茶を! あまり詳しくないのですが……皆さんのお役に立てるのでしたら!」

次々に広がっていくポケットなモンスターの輪に、万癒と轟は若干驚いていた。
けれど、すぐに顔を見合わせ、笑った。

――本当に、いつ始めたって遅くはないのだ。みんなはいつも、待っていてくれるから。


「よし、じゃあ八百万! この私がポケットなモンスターを隅々まで教えてやろう!」
「まぁ! よろしいのですか!?」
「ああ。私の方が先輩だからな」
「じゃあ俺も」
「轟さんまで! 心強いです……!!」
「おお……推薦組固まったな。えぐそう」
「それな」

心底ポケットなモンスターを楽しんでいるような万癒の様子に、耳郎はふっと笑った。
――あんたにも楽しめる何かが出来たんだね。よかったじゃん。
タイプ相性だおすすめの強いモンスターから、でも何よりも自分が好きなモンスターで戦うのが一番だと力説する万癒の話を、八百万は真剣に聞いていた。


「いいか、八百万! 種族値の差はある! だが、その差を超えて輝かせてこそ、真のポケットなモンスターマスターなんだ!!」
「はいっ! きっと私もそのように輝かせてみせますわ!!」
「頑張れ、おまえたちなら出来るぞ」

……いや、スポ根かなと思わなくはないが。やっぱ推薦組三人そろって天然なんだよな、と耳郎は生暖かい視線を向けるのだった。
まぁ、何はともあれめでたしめでたしということで。ポケットなモンスターブームは、後にB組まで発展し、交流に一躍買ったのだが、それはまた別の話。