「よく来た! 焦凍、と――白雪の娘よ」
「お世話になります! ヒーロー名スティーリアです。どうぞよろしくお願いいたします……!」

ぺこりと頭を深々と下げた氷華にうむ、と一つ頷いてエンデヴァーがじっと氷華を見た。
何か懐かしいものを見ているような、そうではないような視線に轟がおい、と声をかけた。


「なんで白雪指名したんだ」
「と、轟くん……?」
「答えろ。お母さんと同じの個性だ。返答によっちゃ容赦しねぇ」

轟家の個性婚事情を知らない氷華は轟のただならぬ様子に何事かと瞳を瞬かせた。
氷華だって炎熱系のヒーローがなぜ自分をと思ってはいたが、こんな殺伐とするものだっただろうかと冷や汗をかく。エンデヴァーは別段気にした風もなく、静かに告げた。


「俺の個性は熱がこもるというデメリットがある。俺を助けられるレベルの氷の個性を白雪は持っていた。それだけの話だ」
「なる、ほど……? 頑張って冷やさせていただきます!」
「ああ、期待している」

頑張りますと気合十分な氷華の様子にエンデヴァーもどこか微笑ましそうにしながら「納得したか」と轟に問いかけた。まだ納得していない様子の轟ではあったが、ここで揉めるのも違うと考え「変なこと考えてたら許さねぇからな」と続け話を終わらせた。
その後微妙な空気を仕切りなおさんと簡単な相棒サイドキックの紹介をされ、轟と氷華はエンデヴァーについて職場体験を行うことになった。


「さて、おまえたちも準備しろ。出掛けるぞ」
「どこへ」
「ヒーローというものを見せてやる!」

そこからエンデヴァーはてきぱきと世間を騒がせているヒーロー殺しステインを捕まえるための指示を出す。この時点で少し圧倒された様子の氷華とは対照的に、轟はじっと見定めるようにエンデヴァーを見ていた。


「さぁ! 保須へ出張だ! ついてこい! 焦凍! スティーリア!」
「はいっ」
「ああ」

それから二日目までパトロールで終わった。なかなかステインを見つけることはできなかったが、その間にエンデヴァーやサイドキックたちが稽古をつけてくれたのでとても有意義だった。
エンデヴァー事務所での職場体験についてクラスメイトはもちろん、爆豪にも氷華は話していた。珍しく時間が合ったようですぐ返事が返ってくる爆豪に気をよくした氷華は、爆豪の様子も知りたいと通話することにした。


「えっ、じゃあ爆豪くん……ベストジーニストのところで何も学べてないの……?」
『そうだって言ってんだろ! ったくこんなことならグレイズんとこいっときゃよかったわ』
「わっお父様から指名来てたんだ! さすがお父様、見る目がおありだわ」

相変わらずふわふわした口調の氷華に爆豪の溜飲が少し下がる。氷華は本気で爆豪のことをすごいと評価しているのを爆豪も知っているため、素直に褒める氷華に機嫌が少し回復した。
最後に『おまえとりぃから怪我しないよう精々気をつけろよ。俺はもう寝る』と一方的に通話を切られるが、爆豪が心配してくれたとご機嫌な氷華は全く気にしなかった。ハートが強い。





「スティーリア!! こっちも氷お願い!!」
「はいっ!」

バーニンに言われ火の海となっている街に氷を放って消化させる。職場体験三日目、ヒーロー殺しは見つかっていないが代わりに化け物が現れた。
やけに強い、脳が丸出しの正しく化け物だった。それらが暴れるせいであちこちで火災が多発している。氷華はそれを鎮める任をエンデヴァーより授かり、腕利きのサイドキックであり、同じく飛行手段を持つバーニンを護衛に鎮火に周っていた。
途中でどこかに行ってしまった轟を案じつつ、氷華は必死に個性をフル活用した。あちこちで救けを呼ぶ人の声がする。初めて触れる現場での悲痛な空気に不安で押しつぶされそうになった。
自分が間に合わなければ人が死ぬ。当たり前のことだ。ヒーローが間に合わなければ人は死ぬ。そのために誰より迅速に動き助けるエンデヴァーに氷華はこれがヒーローなのかと痛感した。自分が目指しているものがひどく遠いものに思えた。





「わたしゃてっきり天使様が迎えにきたのかと思ったよ。こんなに綺麗な顔してびっくりしたもんだ」

結果的に死者は一人も出なかった。氷華は火災から救けた老婆にお礼を言われ、初めてそこで自身のヒーロー名を尋ねられた。「氷雪ヒーロー……スティーリアです」と告げると「ありがとうスティーリア、ありがとう。あんたの氷は優しいねぇ」と老婆は氷華の手を握って深く深く感謝した。
救えたことにほっと息をついてふにゃっとした顔になると、バーニンが「やるじゃんスティーリア。お手柄だね」と快活に笑った。

一息ついたのもつかの間、エンデヴァーの方でステイン確保の知らせが届く。
同時に轟他居合わせたA組の生徒数名が大怪我をし、病院に搬送されたと聞いて氷華は驚いた。
ステインはエンデヴァーが逮捕した。それが氷華の知る事実だった。




「はい、爆豪くん?」

夜、急に爆豪から着信があり氷華は珍しいと驚いた。基本的に爆豪から連絡がくることはない。氷華から送るのが常である。それも着信とありどうしたんだろう、何かあったんじゃないかと心配が勝った。


「もしもし? 爆豪くん? もしもーし」

通話にでたものの、一向に話す気配のない爆豪に氷華が困惑気味に声をかける。数秒後、ため息のようなものをついた爆豪がようやく話し出した。


『――おまえ、ヒーロー殺しと戦ったんか』
「え……? ううん、私はひたすら消火活動してたよ」
『そうかよ……』

どこかほっとしたような、興味なさそうなそれにもしかしてと氷華は考える。これはもしかしてもしかしなくても心配、してくれたのだろうか。そう思ったら氷華はなんだか胸がいっぱいになる気持ちだった。


「ねぇねぇ爆豪くん。帰ったらね、またお家に遊びに来てほしいな」
『おー……その前に学校の訓練場借りんぞ。おまえの家は休みの日しかいけねぇ』
「! うん! うん! 早く学校行きたいな」
『おまえはエンデヴァーんとこでしっかり残りの二日間みてもらえや。明日もいつも通りあんだろ、さっさと寝ろ』
「あ、うん! おやすみなさい!」

さっさと寝ろと切ろうとする気配を感じ、早口で氷華はおやすみなさいを告げる。
なんだかひどく安心した。今なら何でもできる気がする。実際残りの二日間はエンデヴァーが感心するほどとてもいい動きをした。現金なものである。

 


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