悪夢の前の静寂
期末試験をなんとか終え、いよいよ合宿が始まろうとしていた。
氷華は中間、期末と爆豪と一緒に勉強したい気持ちを抑え、クラスの女子と一緒に勉強していた。ひそかに彼女面事変が尾を引いているのだ。勘の鋭い取蔭や拳藤、物間や骨抜あたりは氷華の調子のおかしさに気づいてはいたものの、本人が話したがらないので見守る姿勢を貫いていた。
「え? A組補習いるの? つまり赤点取った人がいるってこと!? ええ!? おかしくない!? おかしくない!? A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!? あれれれれえ!?」
すっと進み出て物間を手刀で気絶させる拳藤。さわやかに「ごめんな」と物間を回収していく手際は鮮やかなものだった。
「物間怖」
「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」
「ん」
「合宿がんばりましょ〜!」
氷華のふわんとした声に「がんばりましょー!」とノリのいいA組の面子が返す。その表情は氷華に感化されてぽわんとしたものだった。
氷華はバスに乗る際、気づかれないようちらっと爆豪の方を見て乗車した。付き合いたいとか、そういうのはない。ヒーローを目指すのに恋愛に現を抜かす時間なんてない、けれど好きがあふれるそれに氷華は必死に見ないふりをした。
「土魔獣だぁ……!!」
「
急に現れた土魔獣の群れに氷華が広範囲を凍らせる。夏はやはり調子がでない。身体が熱くて熱くて仕方ない。
すかさず物間が氷華の個性をコピーし、氷華の身体を冷やしていく。
「これ長期戦だね。白雪ばてるなよ、君にはちょっと頑張ってもらわないとだ」
「うん、だいじょーぶ、やれるよ……!」
物間はちょっと驚いていた。氷華といえばどちらかというと指示を待つ方の人間だったはずだ。それがどうだろう、土魔獣を視認した瞬間ぶっ放した。君そんな躊躇ないタイプだったか、むしろ自分の個性が強力だと理解しすぎてる分躊躇するタイプだったはずだ。
この頃の氷華の元気のなさといい……物間はまさかと浮かんだある推測を振り切るように声を張り上げた。
「みんな! 一塊になって移動するよ、温存しつつここから最短ルートでいく! 取蔭偵察頼んだ!」
「まっかせなさいっ!」
そこからみんなボロボロになりつつもなんとかゴールまでたどり着いた。
とっくに夕方になっており、用意してもらったご飯にみんながっついていた。あまりの空腹にテンションがおかしくなっている数名もいたのは余談である。
合宿二日目にして死ぬほど辛い個性伸ばし訓練一日目、氷華はすでに泣きそうになっていた。
一人だけ樹林まで飛ばされ、そこでひたすら樹林を限界までぶっぱした個性で凍らせ、時に雪景色を作り出し、それらを個性で収束して
なんてエコなんだろうと氷華は回らない頭でそんなことを思った。常にプルスウルトラ精神で範囲を少しでも広く、数を多く造形する。控えめに言ってボロボロだった。もう限界である、何度限界突破したかわからない。一人遠くまで飛ばされる氷華を哀れに思ったのか、近くでブラドキングの応援する声がした。
「氷華ってお嬢様なのに料理上手だよね〜」
己の食う飯くらい己で作れ。満身創痍の身体に鞭を打ち、皆カレー作りに励んでいた。するすると華麗に野菜の皮を包丁で剥く氷華に取蔭が感心したように手元を覗き込む。
手際がいい、大量にあった野菜がもうほとんど剥き終わっている。恐るべし女子力にぐうの音も出ない。
「お父様がね、好きな人ができたら胃袋をまず掴みなさいって」
「グレイズが!? なんか意外。娘に好きな人とかできたらすごい嫌がりそうなのに」
「そんなことないよ、むしろ全力で応援してくれる……」
実際グレイズの協力体制はすさまじく、体育祭後の連休にはすでに新幹線の定期を爆豪に買い与えていたくらいだ。爆豪はいらねぇと拒否したが、招くのに気を遣う、娘の成長のために君はちょうどいい人材だとごり押しして強引に渡している。その後も様子を見て一時帰宅しては二人そろって稽古をつけてくれたりと外堀から埋められている。爆豪もこれにはさすがに身になることも多く、自分は氷華と付き合う気はないとグレイズにも今一度明言した上で付き合っている。
雪女の性を身をもって理解している父はとても心強い味方なのだ。取蔭と取り留めない雑談をしていたら作業も終わった。暑さでばてがちな氷華を気遣い、火を扱う作業は他のメンバーがやってくれることになった。
「そういや白雪、カレー熱いけど食えてる?」
「これくらいなら平気。さすがにお鍋とかだとちょっと冷やさないとだけど」
ふーっと冷ましながら食べる氷華にそりゃ夏はつらいはずだと隣に座る回原が心配そうな視線を向けた。
もぐもぐと上品に食事を続ける氷華に育ちの良さを感じる。ほんのりと隣から香ってくるバニラの匂いにドキマギしつつ、時折ちらちらとA組の方を伺う氷華に気づいてしまう。物間の気持ちを知ってる上に、氷華の思い人の気性が気性なだけに色々複雑な心境のまま食事を終えた。
待ちに待った入浴時間。るんるんで準備をして向かおうとする氷華に拳藤が待ったをかけた。
曰く、A組に問題児がおり、昨日はなんとA組の女子が覗きにあうところだったらしい。B組の男子といえば皆硬派でそのようなことをする人間は一人もいない。恐ろしい話を聞いたと言わんばかりに不安気な顔をする氷華を拳藤が大丈夫、と元気づけた。
A組の女子の機転と拳藤たちの演技のおかげで無事、犯人は捕まった。
氷華たちは安心して入浴を終えると、先ほどのお礼にとお菓子を持ち寄りA組女子の部屋へ赴くことにした。そこでまさか女子会もとい恋バナが始まるとは思わなかったけれど。
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