林間合宿三日目、夜。その日はA組とB組対抗での肝試しが行われ、肝を試して一日が終わるはずだった・・・
万全を期して挑んだはずの合宿は、突如ヴィランに襲われ皆を恐怖と混乱の渦に巻き込んだ。氷華は回原、凡戸と一緒に周ってくるA組を脅かそうと待機していたが、猛毒のガスに襲われ意識不明の重体に陥っていた。


「私は以前、爆豪の素行を矯正すべく事務所に招いた。あれ程に意固地な男はそうそういまい、今頃暴れていよう。事態は急を要する」
「貴様が変えられなかったのか」
「毛根までプライドガチガチの男だった」

ベストジーニストとギャングオルカが爆豪について話していると、二人の方に向かっていく影があった。氷華の父にしてNO.4ヒーロー、グレイズだった。


「あれはもはや長所だろう。なかなか骨のある男だ」
「ほう、グレイズが褒めるとは珍しいな」
「娘の気に入りだ。何度か接触したが私も概ね気に入っている」
「随分物好きなお嬢さんだ。ですがそのお嬢さんも今意識不明では……いいんですか、ついててやらなくて」
「私がついていて何か変わるわけではない。それより爆豪を奪還してこそ娘も心穏やかに過ごせるというもの」
「……お嬢さんの趣味の理由が少しわかった気がしますよ」

ただ手をこまねいているわけではない、ヒーローたちはすでに爆豪奪還の作戦を立てていた。
グレイズは静かに怒りを燃やしていた。愛娘と目をかけている男が害されたのだ。何としてでも爆豪を奪還し、氷華が何を憂うことなく回復できるようにと気合が入っていた。
後に神野の悪夢と呼ばれる大事件の幕開けである。爆豪を奪還することは叶ったが、恐るべき黒幕が姿を現し、それに辛くも勝利するも平和の象徴は終わりを告げた。





氷華の意識が戻るのが遅かったのもあり、白雪邸への寮制度導入の説明に伴う家庭訪問は最後に回されていた。
寮の入寮についてはグレイズ自身も雄英のOBであり、現役ヒーローということもあって実にスムーズに進んだ。
氷華は慣れ親しんだ生家を離れることを寂しく思ったが、その分学校のみんなと過ごせるということもあり楽しみな気持ちも多くあった。ただ気がかりは爆豪のことである、合宿から全く姿を見ていない爆豪のことがどうしても気になり、彼女面事変から初めて、約束以外で爆豪のもとを訪ねることにした。


「ば、爆豪くん……!」
「あ? 白雪……」

ストイックな爆豪は必ず朝のロードワークから始める。それを知っている氷華はA組寮の近くで待っていた。久しぶりに会う爆豪に、約束なしできたこともあり氷華の心臓が早鐘を打っていた。
用意していた言葉は爆豪の姿を見た瞬間吹き飛んでしまった。無事な姿に胸が、目が熱くなる。嗚咽がこぼれ落ちる氷華に爆豪はぎょっとした。


「は!? おまえ……!!」
「うっ……ぐすっ」
「なに泣いとんだ! 俺が泣かせたみたいだろうが!!」
「ご、ごめんなさい〜っ!」

爆豪が慌てて詰め寄るも氷華の涙は止まらない。むしろ酷くなっているそれに爆豪は再びまじか、と頭を抱えた。なんで氷華がこうなっているかわからないほど鈍感な男でもない。


「おまえ……ほんっっっと俺のこと好きだなァ」
「っ、付き合いたいってひっく、思って、ぐすっ、ない、もん……!」
「説得力ねぇよもう……あほらし、もういいわ」

氷華はもうどうしてこうなんだろうかと自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしてきた。付き合いたいって思ってないのは本当だ、今はそんなことしてる時間なんてないのだから。でもこんな……爆豪を見たら好きがあふれて仕方ないそれに説得力がないのもかわっている。ただ無事を確認したかった、無事でよかったって伝えたかっただけなのに。


「おまえ、もうそれやめろ。隠しきれてねぇんだよ……」
「っ……」
「おい、勘違いすんなよ……!! 別に俺のこと好きなんはおまえの勝手だけどよぉ、隠せねぇくせに隠そうとすんのもうやめろって言ってんだ!!」
「……え?」
「そもそもだ! 俺が落ちなきゃなんも問題もねぇ!! 落ちる予定もねぇ!! 落ちるわけもねぇ!! もうそれでいいだろ!! 視界の端でちらちらちらちらされたら気が散るんだよぉ……!! これなら前みてぇに面と向かってこられる方が1000倍マシだわ!! めんどくせぇから断じて!! 断じて彼女じゃねぇけど!! おまえはもう勝手に彼女面してろ!!!」

吠える爆豪に、氷華は今度こそ心のまま抱き着いて号泣した。当然「抱き着いてんじゃねぇ!! さっそくか!! こら!! 離れろ!!」と吠えられる。けどもう氷華にそんなもの聞かない。だって爆豪は白雪氷華という少女のありのままを受け入れてしまったのだから。恋する雪女は無敵である。


「よかったよぉ〜! 無事でよかったよぉ〜!!」

わんわん泣いて抱き着いて離れない氷華への抵抗が一瞬やむ。けどそれも一瞬ですぐに「余裕だわ!!」と返ってくる。どさくさに紛れて「氷華って呼んで〜!」と追撃する氷華に今度こそ爆豪はありったけの怒りを込めて叫ぶ。「誰が呼ぶかっ……!!!」けれどその熱さえ恋しいというように、爆豪の熱にちっとも懲りない氷華はそれはそれは幸せそうな顔をしていた。

――寮生活の幕開けは清々しいものだった。

 


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