彼女面事変のその後、氷華はあれからぱたりと連絡をよこさなくなった……わけはなく、ただ今までの会いたいだデートしようだなんだがなくなった。来る連絡はいつもシンプルに日時と場所だけが送られてくる。所謂一緒に訓練しましょうである。
爆豪は望んでいたはずの結果に形容しがたい苛立ちを感じていた。けれどやはり氷華といえば屈指の実力者であるし、氷華と過ごす時間は実りのあるものであるため、爆豪はそれに応じる他ないのであった。

中間試験一週間前。爆豪はてっきり氷華から勉強の誘いがくるものと思っていた。訓練の約束だって途絶えないのだ、氷華が一緒に勉強したいと誘ってくるのは想定の範囲内だった。推薦入学者であるし、機転も利く。頭はいいはずだ。何よりこの俺と勉強できるのだからさぞ泣いて喜ぶことだろう。しょうがねぇから付き合ってやるかと思っていた。


「(いや……なんでだ!?)」

中間期末と勉強の誘いはこなかった。期末に至っては流れで切島の勉強を見てやることになった。いやなんでだ白雪はどうした、なんでこない。たまたまB組を通りかかったときに聞こえてきた話では、氷華は同じクラスの女子たちと勉強会をするらしかった。
確かに女子との交流とやらも氷華にとっては大事だろう、なんらおかしなことではないというのに爆豪はなんだか無性に腹が立ってきた。B組の廊下を通る度、気づかれてないとでも思っているのかちらちらと視線を感じる。振り返らずともわかる、氷華の視線だ。ちらちらちらちら……鬱陶しいったりゃありゃしねぇ。





「きれーなおねーちゃんとちゅーして、ゆーえーたいいくさいでゆーしょーしたのに、しばられてたおにーちゃんだよね?」
「そういやカツキ、やっぱあの体育祭で当たったすっげぇ綺麗な子と付き合ったのか?」


爆豪の機嫌は大変、大変に悪かった。切島に勉強を教えようにも上手くいかず、図書館ではクソガキに邪魔され追い出され、ファミレスでは中学んときのダチに邪魔されまたも追い出された。
最終やはり仕方なく自宅へと招いたが、先ほどの怒りが尾を引いていた。


「なぁ爆豪ー、ちょっと聞いていいか」
「んだよ、ここはここをガ―っと計算すんだよ」
「おう……ってそうじゃなくて、爆豪と白雪ってぶっちゃけどうなってんだ?」
「ああ゛!?」

集中力が切れた切島がついに突っ込んだ。道行く先々で氷華の話題がでたのだから当然である。
切島は爆豪の対等なダチである。爆豪と氷華が休みの日や放課後に何やら約束しているのを知っていた。付き合っているのかと思っていたが、どうもそうじゃないらしい。男子高校生らしくダチの恋愛事情が気になったのだ。


「別に、あいつとはなんもねぇ……!!」
「なんもって……放課後とか休みの日になんか約束してんだろぉ? 何にもなくはなくないか」

確かになにもなくはない。何もないならそもそも交流などないはずである。
爆豪はしかめっ面をして投げやりに答えた。


「あいつ、ぶっ殺し甲斐があんだよ」
「ぶっ殺し甲斐って……強いところが好感持てるってことな」
「好感なんざあるかボケ!!」
「おうおう、そんでそんで?」
「チッ、あいつん家、すげぇんだよ。NO.4のトレーニングルームだけあっていい設備しとんだ」
「あーたしかに、あのグレイズだもんなぁ。本人もストイックだし、娘溺愛してるって有名な話だし、すげぇだろうな。……んじゃグレイズと会うこともあったのか?」
「会った。つか、混じってくんだよ……」

爆豪はグレイズを思い出して憂鬱な気分になる。稽古をつけてくれるのは正直願ってもない話だが、何分ただの娘の友達――断じて友達ではない――に対しての接し方ではないことくらい爆豪も気づいている。期待されている、愛娘の相手として。付き合う気など微塵もないとは明言しているものの、あれは聞いてないだろうなと爆豪も半ばあきらめていた。
訓練後に二人してサウナに入ることがあるが、そこでのグレイズときたら雪女に見初められた男の心構えなんてものを説いてくるのだ。幸いといっていいのか、グレイズも暑いのは得意ではないらしく、早めに切り上げて出て行ってくれるがそれでも鬱陶しいことに変わりはない。


「それもう親公認ってことじゃね? あのグレイズに認められるなんて爆豪やるなぁ!」
「何が公認だ何が!! 俺はあいつと付き合う気なんざ微塵もねぇんだよ!!」
「つっても爆豪も何だかんだ白雪気にしてるじゃねーか」
「あ゛!? 誰が誰をだって!!? 寝言は寝て言えや!!」

響いた怒鳴り声に爆豪の母、光己が「勝己うるさい!!! 勉強してんじゃないの!!?」と怒鳴り返す。「うるせぇババア!!」と負けじと返す爆豪を「すんませーーん!!」と切島が抑えた。


「クソ髪が、テキトーなこと言ってんじゃねぇぞ……!!」
「適当なんかじゃねぇって。だっておまえ……自分で自覚ねぇのかもしれねぇけど、白雪のことよく見てるぞ」

たっぷり十秒は沈黙した。あまりの衝撃に開いた口が塞がらなかった。だがたっぷり十秒後「んなわけあるかぁ!!!」と大爆発が起きる。今度こそ爆豪の母がものすごい勢いで駆け付け、怒鳴り声が響き渡ったのだった。

切島が才能マンを発揮し、教えるコツを掴んだ爆豪に教え殺されるのはそれから一時間後のことだったという。

 


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