雪女伝説
仮免試験は実に順調に進んでいた。顔が広い拳藤や、頭がキレる物間といった面子から雄英潰しのことは予め周知していたため、初動から固まって動くことができた。
B組の結束力はピカイチである。一次試験を難なく全員でクリアし、続く二次試験も適材適所で皆活躍した。B組の仮免試験は皆が通過するという大快挙だった。
「え……? 爆豪くん、仮免落ちちゃったの?」
「そうなんだよー! こいつ言葉遣い悪くて落っこちてんの」
「もう俺らは慣れてるけど、一般人にこれじゃ確かに受かんないわな」
「うるせぇ! クソ一般人がビビってんじゃねぇ……!」
「いやそれは無理だろ」
A組の方ではなんと爆豪と轟が仮免を落としたという。爆豪の言葉遣いを気にしたことがなかった氷華はそういうものなのかと思ったけれど、轟は意外だった。氷華は自分のことは棚に上げて、轟くんおっとりしてるからちょっとぼんやりしてるように見えたのかななどと思った。お前が言うな。
講習を受けてテストに合格したら仮免を発行してくれるらしい、なら爆豪くんもすぐだねとにこにこ笑う氷華とは裏腹に爆豪は険しい顔をしていた。
「爆豪くん……?」
「……おまえもう帰れ、日が暮れる。いくら近いつってもブラブラ出歩いてんじゃねぇぞ」
「はーい」
覇気がない。それにいくら爆豪でも仮免に落ちたら落ち込むかなと氷華は無理やり納得する。
これは話したくないのサインだ。敏感に感じ取った氷華はまだ明るい道に踵を返す。「気をつけてなー!」という切島たちの声に手を振り返してB組の寮へと戻っていく。
爆豪のその違和感の正体がわかったのは次の日だった。今日から四日間は来んなというメッセージになんでなんでやだやだと粘り勝ち、謹慎処分を受けたことをしった。
ご丁寧に始業式で生活指導のハウンドドッグ先生からも説明――なおキレると人語を忘れるのでブラドキングからの通訳だった――があり、謹慎処分の話は知れ渡ることとなった。
ビッグ3によるありがたーいインターンの説明があり、氷華はさっそくエンデヴァーヒーロー事務にインターンの申し入れをした。エンデヴァーの方でも快く受け入れてもらえ、B組で一人氷華はインターンを行うことになった。
「スティーリア、待っていたぞ」
「エンデヴァー、それにバーニンさんたちも! この度はインターンを受け入れてくださりありがとうございます。よろしくお願いします!」
「うんうん、相変わらずあんたは可愛いねぇ!」
すっかり職場体験のときに仲良くなったバーニンは久しぶりに再会した氷華に肩を組んで可愛がりをした。数か月しか空いていないが懐かしい顔ぶれである。
「早速だが、おまえの個性について今一度確認したい。おまえは一体何をどこまでできる」
「はいっ、基本的に氷と雪を操る個性です。遠隔操作ができるので例えばここから、あそこに見えるビルを凍らせたりとかも。雪と氷で出来てるものであれば一点に収集できます。あとは個性で造形して龍を作ったり……その龍に活力を分け与えることで疑似生命体として独立させることも……他にはまだまだ不安定でごく短い間しかできませんが、身体を雪に変えることができます」
「ふむ、やはり
「まだ……?」
万能な個性だなと明るく褒めるバーニンとは裏腹に、エンデヴァーは何やら難しい顔をしていた。
「おまえは雪女と氷結の複合個性だろう。どちらの個性も余すことなく受け継いだ
「はい、間違いありません」
「ならばおまえはまだ己の力の半分も使いこなせていないということだ」
その言葉は大分衝撃を齎した。自分は個性が普通より使いこなせているという自覚があったのだ。プロヒーローである父親に見てもらってきた、己の個性が強力で危険なものである自覚もある。それ故に磨いてきたものがある。
学生だし、半人前ではあるけれど、個性の真価が問われるような場面はそうそう遭遇してこなかったのだ。
ショックを受けているような氷華の様子に、エンデヴァーはふっと笑った。
「俺が見たところおまえが活用できているのはほぼ父親から受け継いだ力のみだ」
「え、ええ……確かに、雪より氷を使う方が多いです」
「いや、そんな次元ではない。氷結と雪女ではそもそも役割が違う。俺が知っている雪女の個性は伝承にあるすべてを為せる個性だった。それをスティーリア、おまえも受け継いでいるはずだ」
エンデヴァーの話は氷華には現時点で理解できないものだった。父は最近ことあるごとに雪女の性がどうのと話してくるが、それは自分が爆豪に惚れて好きが抑えられないことについてだと思っていた。氷華の母もそうだったから。
「雪女伝説。それに近づけスティーリア。そうすればおまえはもっと強くなれる」
そうして始まったエンデヴァーの元でのインターンは……想像を絶するものだった。
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