――5月上旬、某日。雄英体育祭の日が来た。


「今日の体育祭、私も観に行くことにした」
「本当ですか! 嬉しいです、お父様」

まだ早朝と呼べる早い時間に、氷華は父親と食卓を囲んでいた。
父親はビルボードチャート、NO.4ヒーローグレイズ。強力な氷結の個性と氷のように整った美貌が魅力のヒーローだ。


「もう季節も温かい。全力を出すには時間がかかるだろうが……おまえなら大丈夫だろう。頑張りなさい」

優しく微笑む父親に対し、氷華は少し恥ずかしくなる思いだった。
氷華は当初、警戒すべきはヒーロー科だけでなく、他科の伏兵こそ警戒対象と考え、物間の提案に乗ろうかと考えていた。けれど、父親が何気なく口にしたであろう全力≠フ単語にこれは正しいのだろうかと少し考えた。


「氷華? どうかしたか?」
「い、いえ! 頑張りますので見ていてください、お父様!」
「ああ、期待している」

敬愛する大好きな父に無様な姿は見せられない。そう決意を新たにし、自らのとるべき行動を今一度考え直すのだった。








「さて、ついに体育祭が始まるわけだが、焦らず緊張せず手筈通りにいこう。ヒーロー科はA組だけじゃない、僕たちB組もいるってことを知らしめようじゃないか!!」

B組の控室にて、物間の演説に意志を同じくする数名が同調の声を上げた。氷華はというと、取蔭の隣に座り深呼吸をしていた。
少し緊張している様子に取蔭がそういえば、と声をかける。


「氷華のお父さん、グレイズも体育祭見に来てるの?」
「うん、来てくれるみたい」
「へーじゃあいいとこ見せなくちゃだね!」
「うんっ、頑張る……!!」

両腕を小さく上げて、頑張るのポーズをした氷華を取蔭はかわいい奴めと抱きしめた。
何やってるのと次第に他の女子も集まり、氷華の父親が来ると知ると次々に氷華を激励した。
そうこうしていると入場アナウンスが響き、A組に続き入場をはたす。



「せんせー、俺が1位になる」

ヒーロー科の一般入試1位のその人の選手宣誓はだいぶ強烈なものだった。
氷華はしばし大きな瞳をぱちぱちとさせて呆然としていた。ブーイングの嵐に対して「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」とまで煽っているのに、ちっとも笑っていないのだ。
ふざけているわけでも、見下して油断しているわけでもない。その不思議な感じに氷華はしばし放心していた。


「ほら、氷華。第一種目始まるよ!」
「あっうん! 今行くね!」

拳藤に軽く肩を叩かれ、一緒に第一種目場にまで走る。
気は抜けない。ヒーロー科はもちろん、きっと他の学科にも警戒すべき者たちがたくさんいるのを氷華は理解していた。何より、観客席の上部に父親が立っているのが見えた。父が誇れる娘であるために、かっこ悪いところは見せられないと気合を入れなおした。






――第一種目、障害物競走開始と同時に床が凍った。
温かかった空気がひんやりと冷え込む。その冷気に氷華はひそかに歓喜した。


「氷は……いつだって、私の味方だもの」

自分と戦意喪失している生徒たちの周囲の氷を掠め取り、そのまま滑るように前進する。目の前に現れたロボ・インフェルノに収集した氷と、個性で足りない分の氷を生成し、最も慣れ親しんだ形に造形する。


氷龍霰華グランディーネ……!!」
『あーーーっと! これは皆さんお馴染みNO.4ヒーロー! グレイズの得意技!! 娘も使えんのね!! B組白雪氷華!! 父親から受け継いだ技でロボ・インフェルノを楽々撃破!! だがこれで邪魔者はいなくなったとばかりに後続が押し寄せてくるぞ!!』

ロボ・インフェルノを破壊したおかげで後続が次々走り出していく。それでよかった。氷華はロボ・インフェルノをヴィランに見立てていた。敵が目の前にいて、戦うすべを持たない人がいる。その時ヒーローは迷わず救けるはずだから。
それに技を放ったことで身体も冷え、大きな障害物が消えたおかげで前方も開けた。氷華は足元に個性を使い、空を舞う。


『おーーっと!? 白雪も空飛べんのか!? 可愛いだけじゃない!! 色々すごいぞ君ーー!!』

プレゼント・マイクの実況に合わせてカメラが寄ってくる。氷華は少し照れた様子で小さく手を振った。
そのまま第二関門、ザ・フォールを突破し、先頭と合流する。


「ああ゛ん!!? おめぇも飛べんのかよ!?」
「うん、そうなの。爆豪くんは爆破を推進力にしてるのね。すごく器用だね!」
「うっせ褒めてんじゃねェ!!」

爆破しながら飛んでいる爆豪に対し、氷華は素直に感心していた。身体どころかどこへでも個性を出せる自分とは違い、見たところ爆豪の個性は両掌のみからの発生、にもかかわらず繊細なコントロールを有する飛行技能を習得していることに、氷華は驚いていた。
――器用なんていうものじゃない、天才だ。氷華は爆豪に対し、警戒を強めた。そのときだった


「きゃっ!! なに……っ!?」

後方で大爆発が起きた。そしてその爆発間もなく、目の前に無警戒だった緑谷出久が現れた。
緑谷はそのまま失速し、そのまま落ちるかに思われたが間髪入れず第二撃。至近距離で行われたそれに巻き込まれ、氷華の視界が遮られる。慌てて後を追うも、緑谷はそのまま1位でゴールする。


「はぁ、はぁっ……4位……!」

氷華はとりあえず、上位に食い込んだことでほっと一息つくも、少し前で悔しそうにしている2位爆豪3位を見て、胸が少し苦しくなった。1位にこだわっている二人との意識の差。それがこれから結果として現れてしまうような予感がして……静かに拳を握りしめるのだった。

 


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